第11話「調整」
通りを歩きながら、さっきの男の言葉を反芻するように思考を巡らせていると、あの視線がどこに向けられていたのかが徐々に明確になり、単なる速さではなく“無駄のなさ”そのものが異常として認識されていたことに気づく。
速いだけなら、才能や訓練で説明がつく。
だが、迷いがない。
無駄がない。
判断と行動が一体になっている。
それが“人間らしくない”。
「……なら」
視線を落とす。
自分の足。
動き。
「……崩すか」
完璧を捨てる。
必要なのは効率じゃない。
自然さだ。
歩く。
あえて、少しだけ遅らせる。
反応を鈍らせる。
無駄を入れる。
「……こうか」
人の流れに対して、わずかにタイミングを外す。
肩が触れそうになる。
避ける。
だが、遅い。
少しぶつかる。
「……悪い」
言葉を出す。
自然に。
「おう」
相手は気にしていない。
それでいい。
「……これだな」
さらに調整する。
視線を外すタイミング。
合わせる時間。
歩幅。
呼吸。
すべてを少しずつ崩す。
「……不完全にする」
それが正解だ。
ギルドに入る。
扉を開ける。
中の空気が流れる。
昨日とは違う。
見え方が変わっている。
「……いるな」
例の男。
壁際。
こちらを見ていない。
だが、意識は向いている。
歩く。
カウンターへ。
昨日より遅く。
少し迷うように。
「……依頼を受けたい」
声を出す。
わずかに抑揚を崩す。
完璧にしない。
「……どれ?」
受付の女が答える。
視線が軽い。
昨日ほどの警戒はない。
紙を見る。
選ぶ。
時間をかける。
すぐ決めない。
「……これで」
指を置く。
簡単な依頼。
報酬は低い。
「……またそれ?」
女が言う。
軽く呆れている。
「……まあな」
曖昧に返す。
深く話さない。
視線を感じる。
横から。
例の男。
「……」
見ている。
だが、昨日ほど強くない。
「……変えたな」
小さく呟く。
聞こえる位置。
わざとだ。
振り向く。
少し遅れて。
「……何がだ」
「動き」
短く返ってくる。
「昨日より、雑だ」
観察している。
正確に。
「……そうか?」
肩をすくめる。
自然に。
「疲れてるだけだ」
理由を置く。
簡単な。
「……」
男が黙る。
完全には納得していない。
だが、否定もできない。
「……まあいい」
視線が外れる。
完全ではない。
だが、引いた。
「……今はな」
小さく付け足す。
聞こえるかどうかの位置で。
内側で整理する。
「……効いてるな」
変化は出ている。
違和感は減っている。
「……だが」
完全ではない。
見ている個体には分かる。
「……問題ない」
数は少ない。
制御できる範囲だ。
外に出る。
依頼を持って。
歩く。
さっきの調整を維持しながら。
「……これが基準か」
人間の動き。
不完全な動き。
「……面倒だな」
だが。
「……合理的だ」
排除されないための最適解。
空を見上げる。
意味はない。
ただの動作。
「……馴染んできたな」
そう感じる。
違和感は残っている。
だが――
「――隠せる」




