第9話「初任務」
掲示板の前に立ったまま、並んでいる依頼書を一枚ずつ視線でなぞりながら、それぞれの内容と報酬、危険度の表記を照合し、どの程度の労力でどれだけの結果が得られるかを無意識に計算している自分に気づく。
討伐。
採取。
護衛。
分類は単純だ。
だが、効率は大きく違う。
「……これか」
一枚を取る。
小型魔物の討伐。
数体。
場所は近い。
報酬は低い。
だが――
「……都合がいい」
人目が少ない。
単独行動が可能。
“調整”には最適だ。
外に出る。
人の流れから離れる。
森へ戻る。
空気が変わる。
音が減る。
視線が消える。
「……静かだな」
この環境の方が、処理は楽だ。
だが、目的はここじゃない。
「……さっさと終わらせるか」
気配。
近い。
複数。
依頼通り。
「……いるな」
木の影。
動きが見える。
小型。
素早い。
「……弱い」
判断は一瞬で終わる。
一歩。
踏み込む。
距離を詰める。
気づかれる。
遅い。
反応が遅れている。
「――」
腕を振る。
そのまま。
止めない。
骨が折れる感触。
肉が裂ける音。
抵抗はない。
そのまま二体目。
位置をずらす。
動きを読む必要もない。
「……終わりか」
数秒。
それだけで、動きは止まる。
静かになる。
音が消える。
「……簡単すぎるな」
手を見る。
血。
だが、問題ない。
「……この程度か」
屈む。
死体を見る。
情報。
少ない。
だが、ゼロではない。
「……使えるな」
手を伸ばす。
止まる。
一瞬。
理由は明確だ。
「……ここで喰うと、どうなる」
血。
痕跡。
回収時。
他の人間。
「……面倒だな」
処理はできる。
だが、目立つ。
「……今は」
手を引く。
「……優先順位が違う」
死体をそのままにする。
証拠は残る。
だが、問題ない。
これは“討伐”だ。
「……人間のやり方だな」
理解する。
処理しない。
そのまま報告する。
「……非効率だ」
だが、それが基準だ。
立ち上がる。
そのまま町へ戻る。
歩きながら、さっきの動きを反芻する。
速すぎた。
迷いがなかった。
「……やりすぎたな」
人間なら、もう少し時間がかかる。
無駄がある。
「……次は、合わせるか」
ギルドに戻る。
扉を開ける。
中の空気が流れる。
視線が向く。
さっきと同じ。
だが、違う。
「……早すぎるか」
空気がわずかに変わる。
受付に向かう。
紙を置く。
「……終わった」
それだけ言う。
女の視線が動く。
紙を見る。
次に、こちらを見る。
「……は?」
明確な違和感。
「もう?」
「……ああ」
短く返す。
「数は?」
「全部だ」
沈黙。
周囲の気配が止まる。
「……確認行く」
女が立ち上がる。
当然だ。
信じていない。
「……だろうな」
しばらくして戻ってくる。
表情が変わっている。
さっきとは違う。
「……本当だった」
声が低い。
「……問題あるか?」
返す。
余計なことは言わない。
視線が集まる。
さっきより多い。
興味。
警戒。
評価。
「……何者だ?」
誰かが呟く。
小さく。
だが、聞こえる。
視線を返す。
言葉は出さない。
説明もしない。
「……必要ない」
そう判断する。
報酬を受け取る。
金。
軽い。
だが、意味はある。
「……これでいい」
その場を離れる。
視線がついてくる。
完全には消えない。
「……目立ったな」
予想通りだ。
「……だが」
問題ではない。
まだ。
外に出る。
空気が変わる。
人の流れに戻る。
「……使える」
この場所。
この構造。
この密度。
すべて。
手を見る。
さっきの感触が残っている。
「……足りないな」
情報。
まだ足りない。
「――次だ」




