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バグ個体に転生した俺、魔物として進化しながら人間社会を喰らう  作者: HATENA 
第12章「継承(エピローグ)」

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第3話「存在」

 通りの流れは相変わらず途切れず、人の動きは滑らかに続いているのに、青年にはその中に一か所だけ“引っかかる場所”があるように感じられた。


 混雑の中でも歩きやすい状態は変わらず、誰ともぶつからないまま進めているのに、視界の端で何かがずれているような感覚が消えない。


 最初は気のせいだと思っていたが、何度か同じ場所を通るうちに、その違和感は偶然ではない気がしてきた。


 「……あそこか?」


 立ち止まるほどではないが、足の速度を少しだけ落として、青年は視線を向ける。


 通りの真ん中あたり、人が流れているはずの位置に、なぜか“間”のようなものができている。


 空いているわけではない。


 人は確かに通っている。


 だが、その場所だけ、流れがわずかに歪んで見えた。


 誰かがそこを通ろうとすると、ほんの少しだけ軌道が変わる。


 意識している様子はないのに、自然と避けるような動きになる。


 青年も近づいたとき、同じように足がわずかに外へずれた。


 避けたつもりはない。


 だが、結果としてその場所を通っていなかった。


 「……なんだこれ」


 思わず足を止めかけるが、後ろから来る人の流れに押されて、そのまま前へ進んでしまう。


 振り返ろうとした瞬間、すれ違った誰かと軽く肩が触れた。


 はずだった。


 だが、衝撃はなかった。


 触れた感覚だけがあって、実際には当たっていないような妙な違和感が残る。


 「……え?」


 思わず足を止めて振り返る。


 人はいる。


 普通に歩いている。


 だが、さっきの“何か”はもう分からない。


 通りの流れは変わらず、特別なことは何も起きていないように見えた。


 それでも、さっき見た場所だけは、確かに何かがおかしかった。


 もう一度そこを確認しようとして、青年は少しだけ進路を変える。


 人の流れに逆らわないように、ゆっくりと近づいていく。


 さっきと同じ位置に差しかかったとき、足がまたわずかに外へずれた。


 今度ははっきり分かる。


 自分で避けているわけではない。


 “避けさせられている”ような感覚だった。


 その瞬間、視界の端で何かが動いた気がした。


 人影のようにも見えたが、形ははっきりしない。


 そこに“いる”と感じたのに、視線を向けたときには何もなかった。


 「……いるのか?」


 小さく呟く。


 返事はない。


 周囲の人間も、特に何も気づいていない様子だった。


 ただ、誰もその場所にまっすぐ入ろうとしない。


 自然に避ける。


 理由は分からないまま。


 青年はしばらくその場を見ていたが、やがて小さく息を吐いて視線を外した。


 分からないものを考え続けても、答えは出ない。


 それに、実際には何も起きていない。


 危険もない。


 困ることもない。


 「……まあ、いいか」


 そう言って、再び通りの流れに戻る。


 背後では人が行き交い、同じようにその場所を避け続けている。


 それでも誰も立ち止まらず、疑問も持たず、ただ自然に動いていた。


 青年もまた、その一部として歩き続ける。


 さっき感じた“何か”は、確かにあったはずなのに、振り返るたびに曖昧になっていく。


 「……気のせいか」


 その一言で片付ける。


 完全には納得していない。


 だが、それ以上考える理由もなかった。


 通りは流れ続ける。


 人は歩き続ける。


 何も変わっていないように見えて、どこかだけが確かに違っていた。

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