第2話「違和感」
昼を過ぎても通りの流れは途切れず、人の数は確かに増えているはずなのに、青年にはどこか“抜けている”ような感覚が続いていた。
混雑しているはずの時間帯なのに、足は自然と前へ出てしまい、止まる理由が見つからないまま進めてしまう。
誰かにぶつかりそうになる瞬間もあるが、その直前で体がわずかに軌道を変え、結果的に接触することはなかった。
「……やっぱ変だな」
朝よりもはっきりと違和感を覚えたが、それが何なのかは相変わらず説明できない。
前を歩く人の背中を見ながら歩いていると、その距離が近づいたり離れたりしているように見えるのに、歩幅は変えていないはずだった。
距離の感覚が揺れているのか、それとも相手の動きが変わっているのか分からないが、どちらにしても不自然なはずなのに、問題は起きていない。
列に並んでいる人たちも同じで、並んでいる順番は保たれているのに、間隔だけが曖昧に変化しているように見える。
長く見える瞬間と、短く感じる瞬間が交互に現れるが、待ち時間自体は普通に流れていた。
「……よく分からん」
考えるほど余計に分からなくなるため、青年は意識的に思考を切り上げた。
そのとき、近くを歩いていた男が何もない場所で足を止め、少しだけ体を傾けてから再び歩き出した。
転びそうになったようにも見えるが、実際には何もなかったはずで、周囲の人間も特に反応していない。
青年はその場所を通ろうとして、同じようにわずかに足をずらした。
避けた理由は分からないが、そこを踏むのはよくない気がした。
視線を落として確認しても、地面には何もない。
それでも、そのまま踏み込む気にはなれなかった。
「……気持ち悪いな」
小さく呟くが、声に出したところで何かが変わるわけでもない。
周囲を見渡しても、同じ違和感を共有している様子はなく、それぞれが普通に歩いているように見える。
ただ、よく見ると微妙に動きがずれていて、同じ方向に進んでいるはずなのに、完全には揃っていない。
それでも衝突は起きず、全体としては滑らかに流れている。
青年はその中に混ざりながら、自分も同じように動いていることに気づく。
合わせているわけでもないのに、自然と噛み合っている。
誰かが空を見上げた。
つられて視線を上げると、雲の形がゆっくり変わっているようにも、一瞬で別の形に切り替わっているようにも見えた。
どちらの見え方も同時に成立しているようで、どちらが正しいのか判断する意味がない。
「……まあ、空は空か」
そう言ってしまえば、それ以上考える必要はなくなる。
青年は視線を戻し、そのまま歩き続けた。
違和感は消えない。
だが、強くなることもなく、ただずっとそこにあるだけで、生活の流れを止めることはなかった。
結局、歩けている以上は問題ではないと判断するしかない。
「……大丈夫だろ」
自分に言い聞かせるように呟き、青年は通りの流れの中へと戻っていった。




