第15話「限界」
――遅い。
再生が、明らかに遅い。
岩の裂け目の奥で、俺は静かに身体を広げたまま、その変化を観察していた。
削られた部分は戻りつつある。
だが。
完全ではない。
表面は繋がっている。
だが、内部の密度が足りない。
“薄い”。
そんな感覚が残っている。
……これが、限界か。
その認識が、静かに浮かぶ。
さっきの戦闘。
勝てた。
一体は、確実に食えた。
だが。
あれ以上は、維持できなかった。
処理速度の上昇。
思考の加速。
あれは、確かに強い。
だが同時に。
制御できない。
負荷が、かかりすぎる。
その結果。
……崩れる。
自分自身が。
その事実を、はっきりと理解する。
その時。
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【システム】
再生状態:不完全
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【システム】
要因:損傷過多/処理負荷
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……やはりか。
ダメージだけじゃない。
思考の“使いすぎ”。
それも、影響している。
つまり。
戦い方が悪い。
無理に加速しすぎた。
あの状態は。
“切り札”であって。
常用するものじゃない。
その結論が、はっきりと固まる。
ゆっくりと、周囲を探る。
気配。
匂い。
さっきの人間たちは、離れている。
追ってこない。
……当然か。
あの状況なら、無理に追う理由はない。
向こうも、損耗している。
そして。
俺の正体も、完全には掴めていない。
なら。
今は、安全だ。
だが。
それは一時的なものに過ぎない。
次に遭遇すれば。
同じ展開では終わらない。
むしろ。
対策される。
……厄介だな。
その認識が、強く残る。
そして。
それ以上に。
問題は、自分だ。
現状。
牙獣鼠。
腐敗人形。
その程度なら、問題なく処理できる。
だが。
腐食狼以上。
人間。
そして、あの異形。
それらに対しては。
“安定しない”。
勝てるかもしれない。
だが、確実ではない。
そして。
失敗すれば、終わる。
その状態。
……足りない。
何かが。
明確に。
足りない。
その答えは、すぐに出る。
――段階。
今のままでは、限界がある。
どれだけ積み上げても。
同じ枠の中にいる。
なら。
必要なのは。
変化。
根本的な。
その時。
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【システム】
進化条件の進行を確認
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【システム】
現在条件:
・レベル:6以上(達成)
・捕食数:基準値到達
・異常適応:進行中
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……来ている。
進化。
その段階が。
だが。
まだ、足りない。
────────────────────────
【システム】
追加条件:未達成
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……追加条件。
内容は表示されない。
だが。
予測はできる。
より強い個体。
もしくは。
異常な状況。
……あの戦闘。
あれは。
条件の一部になっている。
そう理解する。
なら。
やることは決まっている。
強い相手と、戦う。
だが。
無理はしない。
制御できる範囲で。
確実に。
積み上げる。
その判断が、完全に固まる。
その時。
わずかなノイズ。
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【エラー】
進化経路に異常を検出
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────────────────────────
【エラー】
分岐数:増加
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……分岐。
通常ではない。
それだけは分かる。
だが。
問題ではない。
むしろ。
選択肢が増える。
その方がいい。
その思考が、自然に出る。
……完全に、慣れたな。
自分でも分かる。
異常。
バグ。
それを。
受け入れている。
利用している。
もう。
戻ることはない。
その時。
遠くで、音。
気配。
……人間。
別の個体か。
それとも。
さっきの連中。
判断はつかない。
だが。
問題ない。
今は、戦わない。
まだ。
準備が足りない。
その判断が、冷静に下される。
ゆっくりと、身体を動かす。
裂け目の奥。
さらに深く。
安全な位置へ。
そして。
静かに、思考する。
何が足りないか。
どうすればいいか。
その答えは、一つに収束する。
――進化。
今のままでは、足りない。
なら。
越えるしかない。
その段階を。
そのために。
次にやるべきことを、整理する。
強い個体。
異常な状況。
そして。
自分の限界。
それらを、すべて。
越える。
その意思だけを、はっきりと持ちながら。
俺は、静かに次の狩りの準備を始めた。




