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牡丹の国  作者: ひさぎぬ
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5 昼から夜へ

月季楼ではちょとした女の話し合いが開かれていた。


「…それで琳さん、新しい子入れますよね?」

「勿論よ。人手は足りないくらいだから早めになんとかしたいわね」

「私、柚以ちゃんいいと思うなぁ〜」

「柚以?柚以って誰?」

「昼番の子だよ〜私と同室で柚以子って名前。ねっ琳さんも柚以ちゃんいいと思いません?」

「そうねぇ。

ここに来て日は浅いけどしっかり働いてくれてるし…華やかさは足りないけど肌は綺麗だしなんとかなるかしら」

「でしょ!楼主様も髪はちょっと短いけど結って髪飾りでも付ければいけるだろって言ってたし!」


「「…桃花、もう楼主様に聞いて来てたの?」」


夜番の一人が玉の輿結婚で店を辞めた。

その欠員をどうするかの話し合い。

話し合いは桃花の一言で幕を閉じたのだった。



「ただいま〜」

夜更け前、夜番の桃花が帰ってきた。

「お帰り。いつもより遅かったんじゃない?」

「こういう日もあるよ〜!ねぇ柚以ちゃん。いきなり胸を揉まれたらどうする?」

「えっ?」

今なんと言いました!?

胸、を揉む…

初対面のときは気さくな美少女だったのに、日が経つにつれ、何かが崩れていく。

「例えばこう…」

座っていた私を立たせると、桃花が後ろから胸元に手を伸ばしてきた。

実際に触ってはいない。

「…えっーと同性にってこと?」

「とりあえず男。多少お酒は飲んでるかも。泣きだしちゃう?」

「…泣くより驚くかな。状況によるけど」

中学高校の頃なら泣いたかも知れないが、今は場合によっては反撃に出る。

桃花は腕を下ろしわたしの正面に来るとにっこり笑った。

「柚以ちゃん明日から一緒に夜番ね!」

この流れでなぜ夜番!?

夜ってことはお酒におつまみ…無理だ!浮き浮きしてる桃花には悪いけど今は無理だ。

「ごめん、昼の料理の名前やっとで覚えた所で…、夜番はわたしには勤まらないと思う…」

これ以上料理名の文字を覚えるのは身体が拒否してまして。

「料理?大丈夫だって〜だいたい皆が知ってるものばっかりだよ。

でも柚以ちゃんて不思議だね〜言葉は丁寧だし、教養ありそうなのに文字には不慣れで料理にも詳しくないなんて〜」

…あはは。乾いた笑いしか出ない。



最近押しに弱くなったのかな。

さっきまでひたすら料理の暗記。わたしは結局夜の月季楼に来ていた。

制服を着て薄く化粧しただけではこの場で浮く。

「今日から夜に入る柚以子です。よろしくお願いします」

するとおねー様方の一人から声が上がる。

「柚以子?あまり聞かない名前ねぇ、柚以でいいんでしょ?」

「はい。柚以と呼んでください」


またしても子を省かれてしまった。この際柚以に改名すべきか。


「柚以ちゃん本当にその格好でいいの?」

「うん。まだ慣れてないし動きやすい方がいいかなぁと」

この制服は結構好き。

上着の丈は長く足首近くまであり両わきに切り込みがある。下はゆったりとしたズボンだから動きやすい。

首まわりや胸元はちょっと違うけど帰ったらアオザイが買いたくなった。

それに服を借りてもし汚しても弁償するあてがない。


「う〜ん柚以ちゃんには似合ってるし、髪は綺麗に結ったし…まっいっか!」


前は夜も昼と同じように制服を着ていたらしい。

でもいつからか制服に手を加えて着用、やがては露出等の最低限の決まりを守れば自由な服装になったみたい。

桃花に言わせれば、男相手の仕事だから女として成るべくしてなった自然なこと!だと力説された。


「柚以ちゃんはお酒運んでね〜分かんない事あったら何でも聞いてね!じぁあね〜」

あのーそういえば胸を揉まれるような仕事なんでしょうか?

桃花の背中にそっと呟いた。



「お待たせしました。どうぞごゆっくり」

たまに新入り?と聞かれるぐらいで、昼と変わらずひたすら給仕に没頭。

やはり男のお客が多く店内の席はほぼ埋まっていた。


「ねぇこれ運んでくれるー?」

「あっはいわかりました」

「奥の階段から上がってー」

渡されたお盆には酒が二瓶載っていた。

行き先は二階の個室だった。


「失礼します。お持ちいたしました」

扉を開けると衝立てがあり奥にある飯台がちらりと見える。

衝立ては黒地に赤い大きな花の刺繍があり綺麗なものだった。

「誰だ?」

衝立ての向こうから声が聞える。

「あのお酒を…」

「頼んでいないが」

げっ!部屋間違えた。

失礼しましたと部屋を出ようとして、なんとなく飯台の方を見た。

そこには男が三人いた。

すると奥にいる男が口を開いた。

「酒を貰おうか」

「!しかし…」

「お前達は下に行くか帰ってろ。暫く人を近付けるなよ」

「…分かりました」

奥の男以外の二人は部屋を出ていく。

その内一人の顔は幾分疲れている。


「…あの、このお酒は、部屋を間違えたみたいで…」「そうなのか?寨門」

寨門と呼ばれた疲れ顔の男はさらに疲れた顔をして、分かりましたよ、と言うと今度こそ部屋を出ていった。


「座ったらどうだ?」

いいんだろうか?でも…

「いえ勤務中なので」

すると男は可笑しそうに方眉を上げる。

「これも仕事の内だろ?」

そうなの?とりあえずお酒を男の前に置き、向かいの席に座った。

男と真正面から見つめ合う形になり、なんとなく気まずく視線をずらす。

目鼻立ちが整った顔だ。

猛々しい感じもする。

着崩れてはいるが、洗練された服装に見える。

何者?

「どうした?」

考え込んでいると聞いたことのある声。

顔を上げると男の顔。

思い出した!昨日の深い声!

「昨日の…人?」

「気付いていたのか」

男はわずかに笑った。



寨門はサイモンと読んで下さい。

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