3 たぶん寝不足
「さて本題ですが、あなたと姫様の結婚の約束は何の効力もありません」
まぁ一種の冗談で済むものです。
姫様は律儀な人だから直接あなたにあやまりたいと。ですからあなたはここにいます。
姫様はかわいい人ですよね。
わたしはエスパーではないが彼のまわりにハートが浮かぶのが見えた。
この男溺愛粘着系か。
「…そうですか。わかりました」
じゃあ今すぐわたし帰してもらえるんですね!と気を取り直して問えば
目の前の男は少し思案するよいに真面目な顔になり
そうですねぇ、とこっちを凝視する。
そして目を細める。
「すべて片付けてしまいましょうか」
「は?」
目を細めたまま男は続ける。
「姫様とあなたの祖先の約束はまだ有効です。姫様はまだ見返りを貰ってませんから。
しかし姫様はワタクシという伴侶を得るわけで
独りではありませんから話し相手は必要ありません」
分かりますかというように眉があがる。
「あなたが嫉妬で記憶を消したから憶えてないけど
わたし姫様としゃべったんでしょ?話し相手にはもうなったんじゃない?」
嫌味を込めつつ言ってやった。人の記憶を勝手に弄るなんてコワイわ!
「いえ、向こうのあなた方の世界ではいけません。
…変則的ですがこの世界で独りぼっちの人を見つけて話し相手になって下さい。
それで約束は果たされます。もちろんこの天界ではなくこっちの地上でですよ」
ここはごたついてますし、姫様のまわりに居てもらっては花嫁修行の邪魔になりますからね。
わたしの嫌味を聞き流し因みに、と今日一番の優しい顔でこう続ける。
「万が一、約束を果たせず姫様が儚く散ってしまわれたら
天からあなた方一族に恐ろしいしっぺ返しがきます。…やってくださいますね」
姫様の憂いの種はすべてワタクシがとりのぞきます。
激しくノーと言いたい。
「…………ところでわたし帰れるんですか?」
「当然です。ワタクシ異界渡りの名人に教えを請うていました。
時の調整は姫様は勿論もはや師さえ上回る勢いです。」
「……あなた何者?」
「強いて言えば姫様と結婚すべく成り上がった者です」
…本日何度目かの頭痛がする。
「じゃあ一旦帰りたいんですけど」
これが現実なのか確認したい。
「わかりました」
ちょっとそんなにあっさり出来る事なの!
そして男の手が淡く光るとわたしの額に触れた。
「姉ちゃん!」
見慣れた正門前。
呼ばれて振り向けば弟が紙袋を渡しながら笑みを浮かべている。
袋の中身はプリンタだった。
「助かったよ〜。
何とか提出出来た。姉ちゃんのおかげ。マジサンキュ」
じゃあ俺いそぐから。
言うなり颯爽と去っていく弟。
放心状態のわたしは何も言えず弟を見送った。
真夜中の電話。 「プリンタ壊れた!朝一でレポート提出なんだよ!姉ちゃんのプリンタ持ってきて!」
きっと寝不足なんだ。立ったまま夢見てたと思いたい。