第35話 冷たいお隣さんとビビる父と普段通りの娘(お隣さん視点)
スマホに映しだされているのはただのホーム画面。私は集中してる振りして意味なく右へ左へフリックする。
ふふ……困ってる困ってる。
なんでもないと言っておきながら、さっきから何度も何度も春秋さんが視線をこっちに寄越していることに私は気付いている。
春秋さんの気持ちが手に取るようにわかりますよ~。不安で不安で仕方がないんでしょう? この一週間、私に冷たくあしらわれてきた影響がこうも如実に……なんだかんだ、なんだかんだですね春秋さん。
春秋さんをからかいたい欲が沸いてきたが、私は我慢我慢と自分に言い聞かせてフリックする速度を上げた。
私に対して異性としては確実に嫌い、好きになる可能性はないと口にしたことを後悔するといいです。そしてその後悔を反省へと昇華させた時、その時こそ私への認識を改めることでしょう。それ即ち……ふふ、待ち遠しいですね。
押しても押しても開かないドアを前にしてムキになるか冷静になれるか、私は後者だ。引くことができる人間だ。
ああもうダメ、口元が、緩んでまう……〝こよりちゃん〟を呼び戻そ。
私はLINEを開いてこよりちゃんにメッセージを送った。
遠くでスマホを耳から離すこよりちゃんを確認し、私もスマホをバッグの中にしまう。
こよりちゃんが友達と遊ぶ予定を入れていたのは知っていた。会話の中でたまたま得られた情報だ。
それを聞いてピンときた私は、こよりちゃんに前もって頼んでおいた。一芝居付き合ってほしいと。
内容としてはこうだ。まず、直前まで一緒に出掛ける体でいる。
そして私が出てくるのを合図とし、電話がきたと言って春秋さんの元から離れ、再度、私からのLINEの合図で戻ってくる。そこでこう言い放つよう指示してある。
『友達と遊ぶことになったから、二人だけで楽しんで』……と。
回らないお寿司をご馳走することになったのはちょっと痛いけど。奢る価値は充分にある作戦だ。
こよりちゃんも一緒という安心感はまるっと不安に変わる。なにせ春秋さんからしたら今の私はひどく冷たい人間だから。
そんな相手と二人っきりでだなんて苦に決まってる……けど、その心理状態に陥らせることこそが今回の作戦の狙い、後は私がタイミングを見計らって――デレる、デレまくる! そこから先の展開は簡単、要は吊り橋効果の応用みたいなものだ。
ふふふ、春秋さんが頬を赤らめてもじもじする姿が目に浮かびますね。
「お、電話終わったのか?」
「うむ」
少ししてこよりちゃんが私達の前に。
〝こよりちゃん、頼んだよ!〟
〝ああ! ハマチの為だッ!〟
こよりちゃんとアイコンタクトをとった私は、春秋さんに怪しまれぬよう、すぐに笑顔を作った。
「おはよ、こよりちゃん!」
「はよーす。あのな安住、急で悪いんだけどウチ、今日一緒にいけんくなったわ」
「「へ?」」
私と春秋さんは同時にガスが抜けるような声を上げた。もちろん、私のはわざと。
「椎奈がどうしてもウチと遊びたいって言うから、面倒だけどちと行ってくる。ショッピングは……二人でたのしんでくれ。じゃな」
「――ちょ待てよ、こより!」
春秋さんの呼び止め虚しく、こよりちゃんは足早に去っていく。
「………………まじかよ」
うなだれる春秋さんに対し、私は急かすように問いかける。
「どうします? 二人きりになっちゃいましたけど行きます?」
「う~ん…………今日は残念でしたってことで解散しときますか!」
嬉しそうに言ってるところが凄く腹立つ。けど、そうくるのは予想できてましたよ。
「……チッ」
「――すいませんすいません嘘です行きましょう! ささ、助手席に」
俊敏に動いた春秋さんは、助手席のドアを開け、執事のようにその場でぺこりとお辞儀する。
ふふん! どんなもんですか! 私クラスになれば舌打ち一発で人を動かすことができるんですよ! 私クラスになれば――ね!
もちろんドヤるのは内でだけ。春秋さんに悟られないよう私は素っ気なく返す。
「はぁ……優柔不断な人ですね。行くなら行くと最初から言ってください」
「あ……はい」
わかりやすく肩を落とした春秋さんを横目に、私は助手席に乗り込んだ。
誠勝手ではありますが、今後、高卒会社員をカクヨム様の方だけで投稿してくつもりです。
なんだよ、こっちにも投稿しろよ、そんな手間じゃないだろ?って意見もあると思いますが何卒、ご理解のほどを。
だって、お金になった少しでもお金になった方がいいじゃない?
さあせーーーーーーんッ!欲深で、さあせーーーーーーんッ!




