第34話 冷たいお隣さんとビビる父と普段通りの娘
メッセージ弁当事件を機に、安住さんの様子が変わった。
静か……というよりかは俺に対してだけ明らかに口数が減ったのだ。
特に食事中が顕著だ。一昨日なんか――、
『――それでね、保育園の子が私にこう言ったの。「あみしぇんしぇーは、かわいいけど、アホだから、モテないんだよ」って。だから私は「先生はね、ここでは敢えて馬鹿のフリをしてるの。プライベートだとモテモテなんだぞ?」って返したんだ』
『なに幼児相手にムキになってるんだ安住は。事実を指摘されて悔しかったんだろうが――』
『ななななに言ってるのこよりちゃんッ⁉ 悔しくないし事実じゃないし!』
『事実だろうがッ! おい、松田からもなんか言ってやれ。一応は彼氏なんだろ?』
『え、俺? ……あ~、客観的に自分を見ることをお勧めします』
『………………ご忠告、ありがとうございます』
俺が会話に入った途端に安住さんは素っ気なくなった。こよりと話してる時とは雲泥の差だ。
目を合わせない、交わす言葉もどこか業務的、冷めた声音、接し方はまさに嫌いな人間するそれだ。
ここ数日はずっとそんな感じの安住さんだが、俺的には今ぐらいの距離感が丁度いいと思っている。決して強がりとかではない。ゴミ出しの時に会ったら挨拶する、俺と安住さんの関係は本来その程度のものなんだから。
「ふぅ~…………おーいこより、そろそろ行くぞ~」
「う~い」
一服を終えた俺は、気だるげな顔したこよりと共に家を出た。
――――――――――――。
長いようでなんだかんだ短かった一週間を乗り切り、迎えた土曜。俺とこよりは駐車場で安住さんを待っていた。
「なぁこより。今日なにするのか安住さんから聞いてたりする?」
「ショッピングらしい」
隣にいるこよりはスマホをポチポチしながら返してきた。
「ショッピングかぁ……なぁこより、欲しい服とかないのか? なんつーかその、女の子っぽいやつ」
「女子女子してる服なら間に合ってるぞ。現に松田の目に映ってるだろ」
「いや映ってるけども……」
俺はこよりの姿を上から下までじっくりと見回す。
グレーのア〇ィダスのジャージセットアップで女子女子してるって、さすがに無理あるんじゃ……。
着心地がいいのか機能性に惚れたのかは知らんが、こよりは家でも外でもジャージを好んで着ている。しかも一着だけじゃなく、同色、色違いをそれぞれ複数所持しているのだ。
まぁ買ったのは俺なんだが、さすがに頼まれた時は耳を疑った……え? 同じやつそんな買うの? ってなった。
「なんだその微妙な顔は。まさか『センスねえなぁ……』などと思ってないよな?」
「いや、そんなことは思ってないぞ」
「ふむ、そうか…………あ、椎奈からだ」
俺からスマホに視線を戻したこよりがディスプレイを見て呟いた。
「どした?」
「友達から電話――ちょっと出てくるわ」
「あいよ」
こよりはスマホを耳に当てながらアパートの敷地外へと出ていった。
それから少しして。
「――お待たせしました」
後ろから声をかけられ俺は振り返った。そこにはベージュのワンピースを身に纏った安住さんがいた。
「あ、おはようございます」
「おはようございます……あの、こよりちゃんは?」
「友達から電話かかってきたみたいで」
こよりがいる位置を俺が指差すと、安住さんはその先を目で追い、姿を確認できたのか「そうなんですね」と平坦な声で返してきた。
「「………………」」
そして訪れたのは沈黙。安住さんはついさっきまでのこよりと同じく、スマホを弄っている。
黙ってれば超絶美人なんだけどなぁ……ほんと損してんな、この人。
安住さんの横顔を眺めながらそんな感想を抱いていると、視線に気が付いたのか彼女は訝しげな表情をしてこっちに顔を向けた。
「なんですか?」
「あ、いや、なんでも」
そう咄嗟に答えた俺は、安住さんの視線から逃げるように目を逸らした。
今ぐらいの距離感が丁度良い、それは強がりなんかじゃない……は、やはり訂正しよう。
ちょっと怖いわ……今の安住さん。
俺は平然を装いつつ、心中ではこよりカムバックと何度も繰り返すのだった。




