第33話 ご飯にする?お風呂にする?それとも……の、一番大切な部分を間違えているお隣さん5
しばらくし、安住さんは落ち着きを取り戻した。現在は自分の作った料理に手をつけず、ただ眺めているだけ。心なしか彼女が小さく見える。
ちなみに俺とこよりはすでに完食済み。
厄介なことになると察したのだろう、こよりは食べ終わるや否や早々に部屋を後にしていった。
「………………」
さっきまでの騒がしさが嘘かのように口を一文字に結んでいる安住さん。
感情の起伏が激しすぎてこっちまで調子狂うんだが……。
お地蔵様のようにびくともしなくなった安住さんがどうしてか不憫に思え、俺は溜息交じりに訊ねた。
「悩んでることでもあるんですか?」
「………………」
覇気のない顔をこっちに向けてきた安住さんだったが、なにも言葉を発さずに再び俯いてしまった。
これはこれでめんどくさいな。
「あのぉ、安住さん? 溜め込んでてもしょうがないですよ? 他人に聞いてもらう、それだけで気持ちが晴れることだってありますから、遠慮せず俺に言ってください」
「………………いいんですか?」
「ええ! 構いませんよ」
気遣わしげな目をして確認してきた安住さんに、俺は気前よく返した。
すると彼女は目の前にある料理に視線を落として、ポロポロと話し出した。
「彼氏彼女って、なんなんでしょうかね。どうあるべきなんでしょうかね」
彼女とはなんたるか教えてやる! とか言ってた人のセリフとは到底思えねーよ。
「えっと……と、言いますと?」
「私達、全然カップルっぽくないですよね」
「まぁ、形だけですからね」
「……重ねてになりますが、春秋さんは私のこと、好きじゃないんですか?」
「異性としては確実に嫌いですね」
俺が包み隠さず言うと、安住さんは顎に手を添えて「う~ん」と唸った。
「理想のカップル像からかけ離れてしまうのは仕方がないことなんでしょうか」
「安住さんの理想のカップル像がどんなのかは知りませんけど、俺と安住さんは好きでもない同士なんですから、どう繕っても友達が限界でしょうね」
「仮に今の関係を続けていったとして、いつか私に惚れちゃう可能性は?」
「ないですね」
と、断言はしたものの、こればっかりはぶっちゃけわからない。万が一、いや億が一という場合もある。
ならばどうして言い切ったか。それはひどく曖昧な理由で〝なんか嫌だったから〟、だ。分かりやすく言えばプライド、ってやつだろうか。
俺の言を受けた安住さんはムスッとした表情で睨んでくる。
「そうもバッサリ切り捨てられると、女としてくるものがあるんですが……」
拗ねたように言った彼女は更に続ける。
「わかりました。春秋さんが可能性はない言い張るのなら、こっちにも考えがあります」
「え、なんですかその考えって。嫌な予感しかしないんですが」
「今週の土曜日、空いてますか?」
安住さんは俺の言葉を無視して、予定の有無を確認してきた。
「一応、空いてはいますけど」
「じゃあその日は空けといてください」
「え、なにするんですか?」
「秘密です――あ、こ、食べちゃっても構いませんから。それじゃ今日はこれで」
そう言い残して安住さんは嵐のように去っていった。
一体なにを……企んでやがるんだ。




