第29話 ご飯にする?お風呂にする?それとも……一番大切な部分を間違えているお隣さん1
仕事が終わり、帰宅すると、
「おかえりなさーい春秋さーんッ!」
さも当然のように安住さんが居た。
彼女はカジュアルな服装の上からエプロンをつけ、右手にお玉を持っている。クッキング中だと一目でわかる格好だ。
「ちょっと、なに勝手に入ってきてんですか、つかどうやって入ってきたんですか。ピッキング?」
「失礼なッ⁉ ちゃんとこよりちゃんに許可貰ってますから、不法侵入とかじゃないですからッ! まったく、自分の彼女を天下の大泥棒呼ばわりって――春秋さんは一体いつどこでデリカシーをなくしてきちゃったんですかホントに!」
いや勝手に天下取らないでくんないッ⁉ 誰もそこまで言ってねーから! それとデリカシー云々はどうか鏡の前でお願いします!
顔プイ、腕組み、頬風船と、すっかりご立腹な様子の安住さん。
面倒だからここは失礼しよう。俺は身を屈めて安住さんの横を通ろうとするが、目の前に突き出されたお玉によって行く手を阻まれてしまう。
「……なんですか急に。危ないじゃないですか」
ジッと睨んでも安住さんはこれっぽっちも動じず、不遜な態度を貫いている。
「わかってない――春秋さんは全然わかってないッ!」
「なにがですか」
「彼女とはなんたるかを微塵も理解できていないようなので、今から私が教えてしんぜます! さぁ早く! 外に出てただいまからやり直してください!」
「やですよめんどくさい。ていうかただいまをやり直せってなんすか、意味わかんなすぎなんですけど」
「つべこべ言わないッ! さっさと出るッ! 言うこと聞かないなら二度と家の敷居を跨がせませんからね!」
「いやここ俺のすんでるとこッ⁉ ――っておい押すな! 無言で俺を押すなッ!」
「いいからぁ、早くぅ、してくださぁい……!」
後ろに回り「ふんぎいぃッ!」と馬鹿っぽい声を漏らしながら俺の背中を押してくる安住さん。
俺も全体重を後ろに預けるようにして踏ん張りをきかせる。なにも張り合ってるわけじゃない。こんな狭い場所で暴れてほしくないだけだ。
それにしても、なんつーパワーだよ! あんな細い腕の一体どこにこんな力が……あれか? 安住さんはいわゆる着瘦せするタイプなんか? 脱いだらボディビルなんか?
「ちょ、あの、わかりました! 外出ます! 出ますから押すのやめて!」
「わかればよろし!」
「うわッ⁉」
背中からスッと温もりが消えた。なんてことない、安住さんが手を離したからだ。
支えを失った俺の体が地に向かって落ちていく。わかりきった結果へと進むその過程がひどくスローモーションに感じられる。
確かに俺、押すなとは言ったよ? でも手を離すなとは一言も言ってないじゃん。こうなることぐらい予想……つくじゃん。
かくして俺の背中と床がフュージョンしましたとさ、お終いお終い。
「……なに遊んでるんですか、春秋さん」
オー、ファッ〇ン〇ッチッ!
呆れたような目で見下ろしてくる安住さんに対し、俺は一度深呼吸してから「いや別に」と吐き捨てるように返した。
「さ、早く起きてください」
「………………」
差し伸ばされた彼女の手をしばし見つめ、俺はその手を掴んだ。
「ヨイショ――ってヤバッ! コンロの火点けっぱなしだったの忘れてたッ!」
「おいちょ――」
が、引き上げてもらう途中でまたしてもアホ(安住さん)が手を離しやがった。
そしてあまりにも、あまりにも短い間隔で二度目のフュージョンを、俺は床としたのだった。
ここまで拝読いただきありがとうございます_(._.)_
この作品が面白い、続き気になるな~、と思っていただけたら幸いです(*´▽`*)
よろしければ、ブクマ、☆☆☆☆☆→★★★★★、お願いいたします(o・ω・o)
モチベアップに繋がりますので、何卒_(._.)_




