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第26話 問う部下と問われる父1

 午後の業務もとどこおりなく、いやむしろ円滑に進みすぎていつもより早く終わった。


 どっかで休憩してくればよかったなぁ。


 小さな後悔をしながら、俺は事務所へと戻る。


「お疲れ様です」


「………………お疲れ様です」


 他の人らはまだ出払ってるようで、事務所には茶ノ前さんしかいなかった。彼女はタイピングする手を止め、目だけを動かしてじっと俺を見つめた後、ワンテンポ遅れて返事をした。


「………………」


 茶ノ前さんはすぐさまパソコンに視線を戻し、再びカタカタと小気味の良い音を立てだす。


 普段であればどちらからともなく話題を振って会話に、てな流れになるが、どうにも空気が悪い。


 なんか気まずいなぁ……サクッと書いて喫煙所に逃げよ。


 俺は数枚の報告書を手に取って席に座り、各施設の点検記録を書き写し始めた。


「「………………」」


 さてさて、この酸素濃度が低い時間を紛らわせるために、茶ノ前さんの紹介をしよう。


 茶ノちゃのまえ夕涼ゆずみ、俺より二つ下の女性だ。


 黒髪ロング、透き通るような白い肌、端正な顔立ちにすらりとした体、なのに出るとこは出てるまさに理想的なプロポーション。簡単にまとめよう、彼女は美しい。それでいてちょっと怖い。夜道で白い服着た茶ノ前さんと出くわしでもしたら、きっと俺はビビッて変な声をだしてしまうだろう。


 とまぁ、外見の紹介はこれくらいで。


 茶ノ前さんは3年前にここに入社してきた。大卒の彼女は長く務めてる高卒の俺より多く貰ってるだろうか? 正確な額は知らないが仮にもらっていたとしても文句は言えない。


 人当たりの良い性格で人望があり、仕事もできる、凡庸ぼんような俺とは打ってかわり高スペックな人だから。


 ……これでよし、と。


 書き物が終わり、さてさてとんずらこきますかと席を立とうとした瞬間、


「松田さん。一つ、お伺いしてもよろしいでしょうか?」


 茶ノ前さんが沈黙を破った。


「な、なんでしょうか?」


「彼女さんができたようですが、どうしてまた急に?」


 視線をPCに固定したまま、一瞥いちべつもくれずに訊ねてきた彼女に、俺はどう答えたらいいのやらと頬を掻いて笑う。


「う~ん、まあなんていうかその……成り行きで、みたいな」


「成り行き……ですか」


 繰り返し呟いた茶ノ前さんは、そっとキーボードを打つ手を下げた。


 そしてしばらく虚空を見つめた後、彼女は思い出したような口振りで言った。


「私の記憶が正しければですが……松田さんはよく、彼女なんていらないと皆さんに豪語ごうごされてましたよね?」


「そ、そうですね。確かによく言ってました」


 茶ノ前さんの記憶は間違っていない。が、本心で言ってたわけじゃない。欲しいという気持ちはあった。まぁ、ただあっただけで行動を起こす気は全然なかったが。


 じゃあ何故、彼女なんていらないとしょっちゅう口にしてたかといえば……その方が楽だったし、なによりキャラ的に正解だと思ったからだ。


 要するに深い意味はないってこと。


「なのに、彼女を作ったんですね」


「えっと……はい」


「あ、別に責めているわけじゃありませんよ? 松田さんが誰と付き合おうが自由ですし、言ってることとやってることが違っても全然構いません。そもそも、私が口を挟むことでもないですからね」


 そう言った茶ノ前さんは、おもむろに立ち上がり、くるっとこっちに向き直った。


「今は彼女ができて浮かれている上司と、惚気のろけ話を聞かされる部下の構図。だから遠慮なく自慢してきてください」


「いや、そう言われても、困るんですが……」


「わかりました。自分からは言いにくいので振ってきてくれ、ということですね。仕方ありません」


 自分の頬がピクピクしてるのがわかる。これはきっとやれやれと肩をすくめている茶ノ前さんのせいだろう。


 申し訳ないですが茶ノ前さん――まったくもって的外れなんですがそれは。

ここまで拝読いただきありがとうございます_(._.)_

この作品が面白い、続き気になるな~、と思っていただけたら幸いです(*´▽`*)

よろしければ、ブクマ、☆☆☆☆☆→★★★★★、お願いいたします(o・ω・o)

モチベアップに繋がりますので、何卒_(._.)_

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