↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
23/36

第23話 あっけらかんなお隣さんと、啞然とする娘と、天を仰ぐ父2

「というわけで松田さん、もう一度考え直してくれないですかね? 表明した通り重くとらえず気軽にでいいので! 気に入らなかったら放棄してもいいので!」


 自分大特価セールかな? それと最後のは絶対余計だろ。なんだ放棄って、ワードチョイスから狂気を感じるわ。


 おててのしわとしわ、合わせてな~む~、でなくて、軽いノリで頼み込んできた安住さんに、俺は頭を掻きながら答えた。


「確かに、試しに付き合ってみようから始まる恋物語も珍しくはないと思いますよ? ただ、自分の持ってる恋愛観とかなり違うと言いますか、俺は急がず焦らずゆっくりとがいいんで……さーせん、お断りします」


 そう、俺はゆっくり育みやがて咲くような恋がいいんだ。王道でいい、いや王道がいい! だから安住さんの要望は受け入れられない。


「ほへぇ……」


 気の抜けた声を漏らした安住さんに、俺は「どうしました?」と聞き返す。


「案外真面目ですよね、松田さんって」


「なんですか急に。てか案外は余計ですから」


「ふふ、ごめんなさい」


 いたずらっぽく笑った安住さんは、立ち上がり、お辞儀した。


「短い間でしたがお世話になりました。誠勝手ながら、本日づけで松田家の料理担当を降ろさせてもらいます」


 …………え?


 それはいきなりだった。安住さんの唐突な辞任表明に俺とこよりはなにも言えずにいる。


「……どうして、急に?」


 沈黙を破ったのはこよりだった。


 こよりからの純粋な疑問を受け、安住さんは寂しそうに微笑む。


「しょうがないよ。振られちゃって、居づらいし」


「安住はそういうの気にしない人間だろ?」


「気にするよ……私、こよりちゃんが思ってるほど強くはないんだよ?」


「けど……それじゃ、明日からの飯はどうなるんだよ。またコンビニ弁当生活に逆戻りか? それとも、松田が作る暗黒物質を無理にでも食わなきゃなんか?」


「……ごめん」


「そ、そんな……」


 吹けば消えてしまいそうなか細い声で謝った安住さん。そして何故か、批難するような目で俺を見るこより。


 雲行きが夏場の夕方みたいにがらりと怪しくなったんだが……俺のせいかどうかはひとまず置いとくとして、今は安住さんだ。


 俺は安住さんの元に寄り、こよりに聞こえないようそっと小声で耳打ちする。


「ちょっと、聞いてた話と違うんですけど! 元々はこよりのために始めたことでしょ? それをこんな、ちょっと無責任すぎませんかね?」


「そうです、こよりちゃんのために始めました。でも同時に私のためでもあったんです。お酒を断って女として、人として魅力を上げたかった……まぁ結局、そのどちらもかないませんでしたけどね。はぁ……なんて、不甲斐ないのかしら、私って」


 自分を責める言葉を吐いた安住さんはその場で崩れ落ち、両手で顔を覆ってわんわん泣き出した。


「松田…………」


 さらにこよりの視線が鋭さを増す。


「ちがっ、別に俺はなにもしてないからな?」


「別になにも言ってないけど?」


「あ、確かに! ……けど目が怖いよ?」


「気にしすぎだろ」


 こよりは一拍間を置き、そして他人事のように言う。


「もう付き合っちゃえばいいだろ。減るもんでもないし」


「いや減る減らないの問題じゃないんだって!」


「ウチの腹はいずれ減るんだよッ!」


 なんちゅう切り返しッ⁉


 こよりの訴えに俺は心中でツッコミを入れた。


 ん? なんか、静かじゃね?


 と、ここで俺はあることに気づき、視線を移す。


「――――ッ⁉」


 指の隙間から俺たちのやり取りを窺ってたであろう安住さんとバッチリ目が合った。


「うわああああああああああんッ」


 驚いた表情を見せたのもつかの間、安住さんは再び顔を隠した。


 噓泣きじゃねえかああああああああああああッ!


「松田、女を泣かせた罪を滅ぼす意味でもここは安住と!」


 急かしてくるこよりに嘘泣く安住さん。状況的にはかなり不利、挟み撃ちもいいとこ。


 焦るな、選択を強制されるな、王道を行け! どんな理不尽な状況にでも立ち向かえる信念が俺にはあるだろうがッ!


 意は固まった。鬼を心に宿し、嫌われる覚悟で、いざゆかん!


 ――――――――――――。


「――改めてよろしくお願いしますね! 〝春秋さん〟!」


「良かったな、安住。これで明日も堂々と作りに来れるな!」


「うん! ありがとう! こよりちゃん!」


 残念ながら、俺にはなかった。嫌われる覚悟というものが。


「ふふ、今日がいずれ記念日になるんですから、忘れないでくださいね? 春秋さん!」


「え、あ、はい」


 こうして俺と安住さんは、好きでもない同士で、付き合うことになったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 作者が動揺しすぎて・・・ 同じ話を二話とうこうしておるぞ(
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。