第22話 あっけらかんなお隣さんと、啞然とする娘と、天を仰ぐ父1
ことの詳細を説明するとこうだ。
まずこよりは俺が作った黒焦げチャーハンを目にして、今日は飯にありつけないんじゃと危機感を覚えたそうだ。あの時、飄々《ひょうひょう》としていたのは態度だけで、バッドステータス〝空腹〟は相当のものだったらしい。
そこでこよりが頼ったのは安住さんだった。
トイレに行くと言って席を外したのは実は安住さんに電話をかけるためだったのだ。
こよりは大至急来るよう促したが安住さんからの反応はいまいちだったそうで、受話口から流れてくる安住さんの暗く沈んだ声を聞いて落ち込んでいると悟ったこよりは、なにかあったのか? と訊ね、そして原因を知った。
俺に振られたと嘆く安住さんに、一刻も早く空腹を満たしたかったこよりは一つの噓をついた。
『松田は安住のこと好きだぞ? きっと昨日は突然すぎて焦りのあまり真逆な態度をとっちまったんだろ』
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安住さんの作ってくれた料理はいつもより見た目的にも時間的にも簡単なものだった。それでもこの美味しさを提供できるのだから、さすがとしか言えない。
しかしまぁ、こよりもこよりだけど、安住さんも安住さんだ。大の大人が小学生の安直な噓に騙されるかね?
どうして安住さんが盛大な勘違いをしていたのかについて、食事中にこよりが全部話してくれた。ぶっちゃけ言ってどっちもどっちだ。
とはいえ文句は言えない。なんせこの事態を招いたのはあの禍々《まがまが》しいチャーハンなのだから……俺に文句を言う権利はない。
「え? てことはなに? 松田さんは私にアイラブユーじゃないってこと? こよりちゃんが電話で言ってたのは私に料理を作ってもらうための嘘だったってこと?」
「――ふぅ~食った食った! 安住、ごっそさん」
「こよりちゃんッ!」
「ん? ああ、んだんだ。腹減ってたからテキトー言ったんだ」
「そ、そんなぁ……」
腹をさすりながら満足そうに答えたこよりと、しょぼんと項垂れてしまった安住さん。
対極という言葉の定義のような状況だな。
「にしてもまさかまさかだな~、想像すらしてなかったぞほんと。なぁ安住、一体全体松田なんかのどこがいいんだ?」
俺が口を出さずに静観していると、対面に座るこよりが意外そうな顔して安住さんに疑問を投げた。
ちょっとちょっとこよりさん? なんては失礼でしょ? なんては。こう見えてお父さん、昔はモテモテでしてよ? おーっほっほっほ!
心中で扇子を広げ高飛車気取っていると、隣からヒリヒリと肌で感じるほどの視線が。
なんぞ? と横を向けば、安住さんが食い入るようにこっちを見つめているではないか。
「う~ん……やっぱりぃ……う~ん」
「どうかしました?」
「あ、いえ! 松田さんのいいとこってなんだろうと思いまして、必死に探してるんですが、これがまた大変で」
おいこの女マジか。素か? 素で言ってんのか? だとしたらデリカシー何処に捨ててきたんだ、あ?
神経を疑わずにはいられない。遠回しに良いとこなしと侮辱しておきながら、よくヘラヘラできんな。彼氏できない理由がより強固になったわ!
俺と同じように感じてくれたのか、こよりの困惑した声が割って入ってきた。
「その、ウチはまだ恋だの愛だのを経験したことないから、ドラマや漫画とかの知識しかないんだけど、告白って好きな人に対してするもんじゃないの?」
「う~んどうだろ? 時と場合によるんじゃないかな? ……なんで?」
「いや、なんとなくだけど……安住、松田のことそんな好きじゃないよな?」
「そうだなぁ……」と、言って安住さんは俺を見る。
「人としてはまあ好きな方かも? だけど異性としては別にって感じかな」
「なのに告ったん?」
「ふっふっふ、とりあえず付き合ってみて、そこから好きになる恋だってあるのよこよりちゃん!」
と、小学生相手に夢のないこと言っちゃう大人がここに。
うん、まぁそうだろうなとは思ってたから驚かないけどもね? どこか打算的で形にこだわってるようだったし……うん。だから面と向かって言われたけども全然傷ついてないから! ちょっと泣きそうになっちゃったとかすらないからね!




