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第21話 騙した娘と騙されたお隣さん

「こ、こんばんは……今日は、やけに遅かったですね」


 〝マイダーリン〟なんてあからさまな地雷をけ、俺は安住さんに挨拶を返した。


 すると彼女はしたり顔で「あれぇ? あれあれぇ?」と挑発するような声で呟きにじり寄ってくる。


「ひょっとして松田さん、私のこと心配してくれてたんですか? そうなんですか?」


 ちょ、近い近い!


 パーソナルスペース? なにそれどんな味? とでも言うように距離を縮めてきた安住さんは、なにやら期待をはらんだ目で俺を見てくる。


「いやまぁ、心配とまではいきませんが……用事があるんだろうなぁ、ぐらいには」


 しかしこの俺、期待を裏切りもしなければ応えもしないと定評(自称)のある松田春秋に抜かりはない。角の立たない返答+作り笑いで相手を配慮しつつ、数歩後退し、それ以上は踏み込んでくるなという意思表示も欠かさず行った。これぞ余裕ある大人の対応。


「――またまた~、そんなこと言っちゃって~。本音は心配で心配で仕方なかったんですよね? ね?」


 あ、あれぇ? おっかしいな、効果がまるでないぞぉ?


 からかう態度を継続したままの安住さんは、こっちの意を一切汲まずに間隔を詰めてきた。


「いやだから心配とまではいってませんて。というかそもそも心配するほどのことじゃないでしょ? たかが一日来なかったくらいで。実際、ついさっきまで安住さんはのことなんて忘れて出前頼もうとしてましたからね? 俺」


 彼女にそう返しつつ、俺は後ろに下がった。


 けれども安住さんは詰めてくる。「またまた~」と言って詰めてくる。


 こうなりゃ意地よと俺も後退する。「いやいや」と言って後退する。


 またまた~。いやいや。お互いが壊れたロボットかのように繰り返し呟き、お互いが磁石の同じ極であるかのように迫っては離れるを繰り返す。


「……なにやってんだお前ら」


 そして、こよりが呆れた声を漏らした時には、進行してくる安住さんによって俺は壁際に追い詰められていた。


 さすがに安住さんも気付いたようで、半眼で俺を睨んでくる。


「あの、どうして私から逃げるんですか?」


「安住さんが近づいてくるからですよ。それと、逃げてるわけじゃないです」


「思いっきり逃げてるじゃないですか」


「違います。適切な距離を保とうとしてただけです」


「…………」


 一体なにを考えてるやら。


 あごに手を添え思案顔している安住さんを見て俺がそう思っていると、彼女は閃いたと言わんばかりにポンと手を打った。


 かと思えば今度はよからぬ考えが浮かんだかのようにニヤニヤしだす。


「ふふぅん、さては松田さん……照れちゃってますね?」


「いえ、別に?」


「強がらなくてもいいですよ~松田さ~ん! せっかく〝彼氏彼女〟の関係になれたんだから、もっとオープンでいきましょ!」


「……彼氏彼女?」


「ええ! 彼氏彼女です! もう、いくら恥ずかしいからってそれまで白を切るのはどうかと思いますよ?」


 このこの~と俺の腹を肘で軽くつついてくる安住さん。


 そんな彼女を無視して俺は黙考する。


 初っ端、安住さんは俺をマイダーリンと呼んでいた。特に意味なくふざけて呼んでいるのだろうと流していたがどうやら違うようで。彼氏彼女の関係だと言い切った安住さんは明らかにそう主張できるだけの理由を保持しているっぽい。


 となればどこでその理由を手に入れたかになるが…………。


 さりげなくこよりに視線を向けると目が合った。


 一瞬驚いた表情を見せたこよりだったが、すぐに顔を逸らされてしまう。

 やっぱりな。


「…………」


 腹をつつかれる感覚がなくなったことに気付き、俺は視線を戻した。安住さんはムスッとした顔をしている。


「無視……するんですか。そうですか」


「あ、すいません、ちょっと考えごとしてて」


「ふぅん。彼女をほったらかしにして考えごとですか……もしや別の女性のことでも?」


「違います違います。てか付き合ってないですからね? 俺ら」


「…………え?」


「いや、え? じゃなくてほんとに」


 ポカンとする安住さんだったが、すぐに瞳に色を取り戻した。


「あ、なるほどなるほど! 私としたことが先走りすぎでしたね。まだ正式に告白を受け入れてもらってないですもんね。では早速――」


「あ、いえそうでなくて。単純に安住さんのこと異性として見てないです」


「…………え?」


 ひゅるるるるぅ……と吹く木枯らしが、モノクロになった今の安住さんにはお似合いだろう。


「……こ、こよりちゃん? ど、どゆこと?」


 安住さんはおもむろに首を回し、絶え入りそうな声でこよりに訊ねた。


 ならって俺もこよりに目をやる。


「ごめんな安住、騙しちゃって」


 俺と安住さんからの視線を受け観念したのか、こよりは素直に謝った。


「どうして、私に噓をついたの?」


「それは……」

 顔を上げたこよりは安住さんと俺を交互に見つめ――そして、


「腹減りすぎてお腹と背中がくっつきそうだったから」


 ケロッとした様子でそう言った。

どうも、最近執筆が滞ってる深谷花です。一言、よろしいですか?


モーハンとウマ娘、面白すぎだよね~。面白さって、罪だよね~。以上。

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