8 奇跡の夜
今年のヴァルデロス魔法学校入学者は俺を含め5名だった。毎年の入学者数は10人前後なのだらから今年は少ない方だろう。
デューイが言うには俺たちの年齢前後は子どもが少ないから合格者が少ないのは仕方ないそうだ。
子どもが少ない…その理由は世間知らずの俺でさえわかること…、いや身に染みているくらいだ。俺が3歳の頃、この国に瘴気が発生したのだ。発生源はまだわかっていないがその頃にたくさんの国民が亡くなった。俺の友達も…そして生まれたばかりの妹もそれで命をおとしたんだ…。
聖女がいればこの国は救われたのかもしれない。しかしヴァルデロスには聖女はいなかったし、聖女がいる他国への救援要請はできなかった…。救援要請は『今ヴァルデロスは弱っている、戦争をするなら今だ』と知らせるような物だからだ。この豊かな国を欲しがっている連中にそんなことを知らせることができるわけがない。
救援要請ができないのだらからやれることはひとつしかない。異世界からの聖女召喚だ。当時聖女召喚の儀式は何度も行われたそうだが成功しなかった。そんな簡単にひょいひょいと聖女を召喚できるほど異世界に聖女は多くないのか?それとも召喚の儀式そのものが難しいものなのかは分からないが、こう何度の魔法を扱うイエンツォ様が成功できなかったのだから仕方ない。
しかし何ヵ月も続いた瘴気との戦いは一晩で終止符をうたれることになる。クリスマスイブの真夜中にそれは起こった。真夜中だった為、目撃した者は少ないが光の粒子が雪のように降り注ぎ全ての瘴気を浄化されたのだ。荒れ果てた国はその光の粒子が降り止む頃にはそれまで以上に豊かになり、瘴気におかされた人々だけでなく関係のない病気・不治の病、先天性の障害があった者まで全ての者が完治したのだ。
この日のことをヴァルデロスでは『奇跡の夜』と呼ぶ。
しかしこの『奇跡の夜』を祝う者は誰もいない。光の粒子が降った直後、マリア姫…つまりデューイの母親が亡くなったのだ。
前日までマリア様は瘴気に毒された国民の救護にあたっていた。マリア様はとくに体調を気にされるような素振りも見せていなかったらしい。そんなマリア様の突然の死…。
光の粒子はマリア様が亡くなる少し前に降り始めたそうだ。だから公式な発表は今でもないが光の粒子とマリア様の死に関係があることは明白だった。
どんな魔法をマリア様が使われたのかは分かっていない。元々魔法で瘴気を消すことはできないとされているのだからもしかしたら禁断の古代魔法が使われたのかもしれない。
しかし奇跡が起こり国も国民も救われたことは事実だ。もしマリア様が禁断の古代魔法を使ったとしても責める者はいないだろう。そしてマリア様が亡くなった数時間後、夫であるルーク様も亡くなった。ルーク様が亡くなった理由も分かってはいない。
婿入りしたルーク様はヴァルデロスの伯爵の出身で魔法使いであり優秀な研究者でもあった。晩年は闇や瘴気についての研究をされていたことから表だって公表はされていなかったがルーク様は何かしらの打開策を見つけ出しマリア様とルーク様が命と引き換えにヴァルデロスを救ったと国民は思っている。
沢山の国民…特にからだの弱い赤ん坊や子どもが瘴気によって亡くなった。瘴気の発生源が不明なせいで誰かを責めることはできない。そして光の粒子についても謎が多く公式な発表はなかったがマリア様とルーク様を失った『奇跡の夜』はその後追悼の日となり祝われることは無かった。
俺が近衛騎士団や王族の護衛になりたい理由はこれだ。俺はあの夜…、『奇跡の夜』に『光の粒子』を見たのだ。3歳の頃の記憶だが今でも鮮明に覚えている。『光の粒子』がこの国を救ったのを俺は見たのだ!
感謝してもしきれない光…。マリア様とルーク様が命と引き換えに生み出した奇跡の光。もう少し早ければ俺の妹は助かっていたかもしれないがそこはそれは言うべきでないことは分かっていたし、あの光の粒子が降らなければもっと多くの国民の命が失われていただろう。きっと幼かった俺も死んでいた…。
俺は7歳になるまでにその恩返しがしたい思いを募らせていった。ヴァルデロス魔法アカデミーにどうしても入学したかったのはそれが理由だ。
またこの国が瘴気に包まれればもしかしたら今度はデューイが命がけでマリア様が行ったことをするかもしれない…。だが俺がいることによってもしかしたらデューイを守ることができるかもしれない!!
デューイを守ることがマリア様にできる唯一の恩返しになるかもしれない。
氷属性のデューイとは愛称の悪い炎属性の魔法を使えるのはチャンスだ!デューイをまかすことができれば実力を認めてもらいやすくなる。そしたらデューイの護衛騎士として一番地かくでデューイを守ることができる。
俺はできるだけ近い距離でデューイを守ることができる地位につきたい。
マリア様とルーク様の唯一の子どもで、唯一のヴァルデロスの直系。デューイはこの国の唯一の生命線であり、俺の命を捧げ忠誠を誓いたい唯一の存在なのだ。




