45 タルトを1口食べただけなのに
ダイニングルームに着くとデューイはローズを華麗にエスコートし、椅子に座らせた。よほど楽しいのだろう、ルンルンと今にも飛んでしまいそうだ。俺はローズの後ろに立ち、アフタヌーンティーの準備を進めるポルトを見た。ローズを相手に浮き足立っているやつを目の前にして護衛としての職務を全うするのはある意味の試練だ。
ポルトはと言うとさっきまでの情緒不安定な彼とはうってかわって今は上品な立ち振舞いで紅茶をいれている。
そしてそのポルトを心配そうな目で追うローズ…完全にポルトの動きに合わせて顔が動いてしまっている。
まだポルトが目を潤ませたことに動揺しているのだろうか?ローズの反応一つ一つが気になって仕方ない。ローズが肩を震わすたびに彼女が少しでも何かに心が痛むのであればどこかに閉じ込めておきたいと言う衝動にさえかられてしまう。
―――あんなに外に出してやりたいと思っていたのに、いざ出したら閉じ込めておきたいと思うだなんて俺も身勝手すぎる。
ポルトはローズの好きそうなレモンのタルトを2人の前に出した。城のパティシエが作ったものだろう、昔料理を教わった時に何度か食べた覚えがある。だが甘いものが好きな彼女が実は酸っぱいものも好きなのを俺は知っている。城のレモンタルトは少し酸味が少ないからローズには物足りないだろう。そんなことを知っているのはおそらく俺だけだろうと思うと少し優越感を感じてしまう。
「ローズ嬢、是非食べてくれ。君はタルトが好きだろう?」
デューイに促され、ローズはコクコク頷くとレモンタルトを1口パクリ…。ローズの後ろに立っているから表情は分からないがおそらく『もっと酸っぱいのがいい!!』と言いたいのを我慢している顔をしているのだろう。嘘がつけない彼女は顔に出やすいからきっと食べた瞬間に微妙そうな顔をしているのだろうな。―――想像しただけでも可愛すぎる。
「酸っぱすぎたかい?」
案の定、デューイが心配で押し潰されてしまいそうな顔でローズを覗き込む。
―――その逆だ!!
いっそのことデューイにツッコミを入れてやれれば爽快だが、さすがに今の立場ではできない。護衛騎士として…、そして建前上妃候補のローズとその妃候補に興味津々の王子デューイの交流を邪魔してはいけないのだ。でしゃばるわけにはいかない。
そもそも相手が兄…、いやシスコンなのだからローズは言いたいことを言っても問題ない。デューイなら100%肯定するに違いないと言うのにローズは黙りこくってしまう。
だがすかさず動いたのは有能な執事であるポルトだ。彼はレモンソースの入っている器を持ち、ローズの横に立つと、
「よろしければ追加でレモンソースをお掛けしましょうか?少々酸味が強いと思い少なめにお掛けしておりましたので」
するとローズは顔を上げてポルトを見上げて嬉しそうにコクコク頷く。ローズの表情ひとつで『もっとレモンソースをかけて欲しい』と気付くとはさすがポルトだ。おそらくレモンソースを見つめていたんだろうな。本当に分かりやすいやつだ。
そしてたっぷりのレモンソースをキラキラした瞳で見つめていたのだろう。デューイがニコニコとそれはそれは幸せそうに見つめている。今日はどいつもこいつも情緒不安定だ。だが表情に出ていないだけで一番不安定なのは俺だ!
「ローズ嬢は甘いものが好きだと思っていたが酸っぱいものも好きなんだね」
ローズはデューイの言葉にピクンッと肩を震わしてから少し言うのを躊躇うように小さな声で、
「は、はい…。フルーツのような甘酸っぱいものは特に好きです」
「そうか、では城での滞在中は甘いものと酸っぱいものをたくさん用意させよう!ポルト!キッチンに連絡を!温室にも至急連絡をし、甘酸っぱいフルーツの用意を急がせろ!ローズ嬢が欲した時には至急対応できるように準備を整えるんだ!これは優先事項だ、人手が足りないようであれば兵士を数人…、いやこんな時こそ近衛兵団を総動員して―――」
「デューイ様、ローズ様がドン引きして震えていらっしゃいますよ?」
ローズへの愛を爆発させたデューイをポルトが華麗に制した。少食のローズの胃袋を満たすために近衛兵団を総動員されたらたまったものではない。祭りでもする気か?!
先が思いやられるな…。ため息を付きたくなるのを必死にこらえる。するとポルトが俺を見上げて、
「ところでカデル殿。とてっも立派になられましたな。ローズ様、カデル殿はデューイ様の御学友でいらっしゃいます。魔法アカデミーでもデューイ様についで常にトップの成績でいらっしゃいました。魔法だけでなく剣術も秀でていらっしゃいますので護衛騎士として彼ほど信頼のおける者はおりません。デューイ様の暴走も食い止めてくれましょう。
カデル殿、申し訳ないですが護衛騎士としてだけではなくその他のサポートもお願いできますか?どうやらデューイ様は冷静なご判断が出来ておられないご様子ですので」
俺は小さく頷き一歩前にでる。
「承知いたしました」
ポルト、良いアシストだ!これで大義名分ローズを色々な意味で守ることができる。デューイに物を申しても『護衛騎士の域を越えた対応』をしても問題はないと言うことだ。俺は鋭い視線でデューイを見下ろしてやった。
「いや、ポルト!待て待て、なんの権限があってカデルにそんな命令をしているんだ?そんなことが許されているのは僕の補佐官くらいだぞ?」
ローズとのイチャラブ時間を邪魔されたくないのかデューイが柄にもなく慌て出す。だがその結果デューイは墓穴を掘った。
俺はローズが見えない角度なのを良いことに腕を組みさらにデューイを冷たい蔑むような目で見下ろす。
「そう言えばデューイ様、補佐官はどちらに?」




