43 素性の知れない令嬢
ローズを床に降ろしてやり俺は立ち上がりながらデューイの様子を確認した。俺がローズを温めていることに嫉妬していたやつがローズが俺の手から離れ回復した様子を見せるとすぐに満面の笑みに変わった。俺と違って素直に感情表現が出来る立場なのが羨ましくもあり憎たらしい。
「よし、じゃぁ次はダイニングルームへ行こう。そろそろお茶の時間だしね」
デューイはまたローズをエスコートし始める。ローズの足取りにはまだ緊張感を感じるし出来ることならここでもう少し休ませてやりたいが荷解きが終了していないこの部屋にずっといることはできない。この城を歩き回るよりかはダイニングルームでお茶を飲む方がよほどいいだろうと言うデューイの考えには賛成だった。
だがドアを開けた瞬間、こちらに向かう足音を感じ、俺は警戒を強めた。遠いがこの足音は確実にこちらに向かい、そして『怒り』や『焦り』を感じる足音だった。
俺は咄嗟にローズとデューイの前に立ち手を前に付き出した。もし相手がローズに危害を加えるような人間だった場合、すぐに燃やし灰にできるように…。
だがその足音が近づくと俺はゆっくりと手を下ろした。その足音が聞き覚えのある足音だと気付いたからだ。
そして俺の考えが正解だったことを証明するように長い廊下の向こうからデューイの執事であるポルトが顔を出した。歳は40代半ばだろうか?俺がアカデミーでデューイと出会った頃にはすでにデューイの執事として働いていた彼は恐らくデューイが幼少の頃からの世話役だったのだろう。
いつもシワひとつない服に身を包み、髪はオールバックで髪の毛ひとつ乱れさせたことはない。そんな彼がカツカツと足音をたててこちらに向かってきている。
「デューイ様!!!!!」
―――あぁ…、これ怒ってるやつだ。
俺はすぐにローズの肩に優しく、だが抵抗を許さない力で後退させ俺の背に隠した。ローズは何が起ころうとしているのかまだ理解できていない様子だ。何が起こるか?…今からデューイが叱られるんだよ!
ポルトはデューイの前で足を止めるなり、
「なぜ私にご相談もせずにローズ様をご案内されているのですか?!なぜ私をまいたのです?!!」
「お前に相談すればお前が案内すると言うだろう?お前がいてはローズ嬢とゆっくりお城案内デートができないではないか?」
デューイが妖艶に微笑み『デート』と言った瞬間、ポルトの顔が一転喜びに満ち溢れた。そしてその目線が俺…いや俺のは以後で小さく震えているローズに向けられた。
今まで女性に興味を示さなかったデューイが1人の令嬢に好意を持ち、城の案内を執事に任せずに自ら案内しそれを『デート』と呼ぶ。さらにデューイが一番信頼している俺をその警護に当たらせている。これは『妃候補の本命だ』とポルトは一瞬で理解したようだ。ポルトにとって女性に興味を示さなかったデューイの妃探しは悩みの種だったはずだ。ローズを特別扱いしているデューイを見て喜ばないはずがない…、残念なことに本当は妹だけど。
ポルトは背筋を伸ばし俺に体を向けた。恐がるローズのことを思って無理に覗き込もうとはしない、いつもの気品溢れる執事としてのポルトに戻っている。
「大変お見苦しいところをお見せしました。私、デューイ様の身の回りのお世話をさせていただいております執事のポルトと申します。以後お見知りおきを…」
俺の大きな背中の後ろでビクビク震えながらローズが少しだけ顔を出す。俺は一歩横に避けてローズにポルトを見せてやる。
「ローズ様、ご安心下さい。ポルトは有能な執事です。将来は執事頭になることでしょう。デューイ様の一番の側近ですので困り事があれば彼に相談してまず間違いはありません」
ローズは小さくコクっと1回だけ頷いた。どうやらさっきまでのポルトの勢いに圧倒されているのだろう。それでもドレスの裾をつまみ、
「ローズ・ブレイドです…」
と、緊張しながらも偽名を伝えた。
ポルトは一瞬でローズの頭から爪先までに目線を走らせた。恐らく身なりの確認だろう。素性の分からない令嬢をドレスやジュエリーで何かしらの情報を得ようとしているのだろう。
大丈夫だろうか…?はっきり言ってローズが身に付けているものはどれも豪華さにかける。髪に飾られているのは生花だし、そもそも着付けやヘアセットをしたのは蔓とウサギとキツネだ。差別が少なくシンデレラストーリーもあり得るヴァルデロスだが唯一の王位継承権を持つデューイの執事だ…、もし平民の令嬢と思えば難色を示すかもしれない。
だが俺の心配をよそにポルトの瞳は喜びと優しさに満ちていた。どうやら合格だったようだ。




