42 こんどはカデル様のことが心配です…
ローズの神聖力で癒されたせいかシスコンだからか、ローズに手を握られた瞬間からデューイは嬉しそうにニヤケていた。
「ローズ、デューイには癒しなんて必要ねぇよ。十分元気そうだ」
俺はそう言うとしゃがんでいたローズをひょいっと抱き上げた。やっぱり体が冷えきっていやがる。デューイに見えないようにホッと吐いた彼女の息はまたあの時のように白くなっている。また肺まで凍りそうなのを我慢していたのか?…まったく困った奴だ。
俺はそのままベッドに腰を下ろして彼女を膝の上に座らせると背中を優しくさすりながらゆっくりと熱を送り始めた。
「こんなになるまで我慢してんじゃねぇよ。今度からはもっと早く俺にSOSを出せよ?」
するとローズは俺の空いている方の手を両手で握りしめてコクコク頷いた。氷のように冷たい手の甲を優しく親指でさすってやる。
―――俺の大きな手はローズにとっては湯タンポがわりなんだろうな?だが優しく擦る俺の手にはお前への『愛情』が混ざっていることにお前は気がついているか?
「あのさぁ…、いつも温める時はそんなにイチャイチャしてるのかい?」
顔を上げるとデューイがジト目で俺を見ている。ふてくされるよう椅子の上でふんぞり返っている姿は一国のの王子らしくない振る舞いだ。さっきのメイド達が見たらどう思うだろうか?
だが仲の良い兄妹の兄に嫉妬されるのは悪くない。優越感を感じすぎて広角が上がってしまいそうなのを必死にこらえながら俺はポーカーフェイスを貫く。
「ローズは魔法の影響を受けやすいから、最新の注意を払いながら温めてるんだ。邪魔しないでくれるか?」
ローズの背中を大きな手で一定のリズムで撫で下ろす。もちろん彼女に振れることに他意はある!だが何よりも彼女を安全に温めることに最新の注意を払っていることは事実だ。
だが彼女に振れれば振れるほど集中力を保つのは難しく感じてゆく…。
―――はじめでローズの背中に振れた時は骨ばっていたが今はずいぶんと柔らかな肌を感じられるようになってきた。
俺と暮らすようになって半年、やはり健康的な生活をおくるようになってずいぶん女性らしい体つきに…、そう言えばローズもうすぐ16歳になる。18歳になれば結婚適齢期だ。あと2年で嫁ぎ先も考えなければならない年齢なのか?
いや、その前にヴァルデロスの聖女だぞ?王族の保護下にあるべき存在を嫁に出すなどあり得るのか?!いや、シスコンのデューイが許すはずがない!だとすれば未婚のまま…、それなら俺がずっとそばで添い遂げるのもありなのか??!だが今後の長い人生、ただそばに寄り添うだけの生活?耐えられるのか?!いや耐えられないだろう?!そっと気持ちを伝える程度ならしても大丈夫なのか?見返りなど求めない、ローズから愛されることを望んでいる訳ではない!ただ自分の気持ちを伝えたいだけだ。
いや、そもそも平民出の俺がいくら称号を持ったところとてプリンセスと聖女のダブル称号を持っているローズと結婚など夢のまた夢だし、そもそも好意を持つこと事態おこがましいのでは?!
…だがローズは王位継承権は破棄すると言っていた。ならばプリンセスでも意味合いはかなりかわってくるのではないのか?!ここはヴァルデロスだぞ?実力があり認められれば平民だって貴族の上に立てるんだぞ?!もしかしたらローズを嫁にすることさえできるかも…?!
「あの…カデル様?」
俺が心のなかで妄想を繰り広げている間にすっかり体温を取り戻したローズが俺の顔を覗き込んでいる。
「あ、あぁ…、悪い。ちょっと集中してたんだ。もう大丈夫そうだな?」
ローズは何かに怯えるように琥珀色の瞳を潤ませている。そうだよな、今は俺の気持ちなんかよりローズを支えないといけないよな…。護衛騎士としてローズを支えなければいけないときに俺はいったい何を考えているんだ…。
俺を心配そうに見上げる小さな聖女…、その心配そうな顔でさえ愛おしくてが俺の冷静さを失わせる。無自覚と言うのは時に凶器だな。
「立てそうか?それとももう少し休もうか?」
「もう大丈夫です。カデル様は大丈夫ですか?こちらに到着してからずっと気を張り詰めていらっしゃるように感じます」
ローズはそう言うとさっきデューイにしたように俺の手をとった。淡い神聖力の光は熱はないのにほんのりとあたたかく感じた。俺のドロドロとした独占欲が甘い幸福感に溶けてゆく。
―――お前はやっぱりズルいよ…。




