39 第一歩
部屋の窓から見下ろすと沢山の馬車が門から入ってきていた。もちろんこれは全て計画のうちだ。ローズを一度外に出して門から客人としていれる訳にも行かないので沢山の馬車と荷物、そして人をいれることによってロースが場外から来たと見せかけさせるのだ。
馬車にはデューイへの献上の品やローズのドレス等の洋服から化粧品など滞在に必要なものが入っているわけだが、金の出所は全てデューイだ。あのシスコンのことだからこれでもかと言うほどのプレゼンを用意したに違いない。
人の出入りが少し落ち着くのを待ってから俺たちは部屋を出た。さすがに不特定多数の者の中にローズを連れて行くわけにはいかないからだ。
俺達が塔の階段を降り始めたのは日が一番高く上がった頃だった。俺にとっては半年振りのこの階段…。半年前、まさか俺が聖女の護衛につくとは夢にも思わずこの階段を上っていた。半年間引きこもった生活を続け、まさかその聖女に好意を抱くことになるとは…人生分からないものだ。
俺はローズの数段前を歩いていたが急にローズが少しスピードを上げてトコトコと階段を降りてきた。歩みを止めて、振り替えると、ローズの表情は不安一色に染まっていた。ただでさえ白い肌なのにさらに青ざめて見えた。今この瞬間のローズが頼れるのは俺だけだ…。そう思うだけでローズには悪いが少し嬉しくなってしまう。
「どうした?」
俺は出来るだけ優しく話しかけた。暗い階段は、俺の炎魔法で照らされてはいるがやはり暗い。彼女の不安を掻き立てるような暗さだと気付き、俺は炎の光を強くした。
「暗くて怖いのか?あと少しで外だから…。でも安心しろ、外に出てもちゃんと守ってやるから」
するとローズは俺の袖にそっと触れる。その手は少し震えていた。その震えは何の震えだ?暗闇か、それとも外へ出ることの不安?それとも浴びせられるかもしれないの批判の声か?
「握ってても…いいですか…?」
今なんて?―――。
俺の思考停止―――。
――――――――――――――?
いやいやいやいやいや…。可愛すぎだろ!
震えている小さな手…、俺の許可を取っていないから握れずに触れるだけにとどめている仕草。これは反則だ!これは計算の上か?!それとも素か?!
「くっ…」
なんとか理性を保ち停止していた思考をフル回転で再開させる。
今からローズはデューイの妃候補の令嬢として城を歩くことになる。護衛騎士の俺が仲良く手を繋いで歩く訳にはいかないしもちろん袖をつかまれて歩くわけいもいかない。いや…階段を降りるときに手を貸すのはありか?!ここには他の人間はいないし?!手を繋ぐチャンス?!…いや、絶対に今手汗ひどいからダメだ!デューイに見られたら殺される!
俺は片肘をつきだし、
「もちろん。エスコートするって言っただろう?」
俺の言葉にローズら顔をパッと明るくさせて嬉しそうに微笑むとコクコク頷いて、俺の腕に手をかけた。
よし!!完璧だろう?ローズには頼れる騎士に見えただろう?少しでもかっこよく見えたか?!護衛騎士が令嬢をエスコートするならこれが自然だろ?!…なんて心のざわめきをできるだけクールな顔に隠してまた階段を降りた。
女の子をエスコートなんてしたこと人生の中でしたことはなかったな…。今後のために勉強するのも悪くないかもしれないな…。
階段を降りるとローズは階段の奥を指差した。
「カデル様、あちらです…」
初めて来たときには気がつかなかったが階段の奥には扉があった。ローズを背後に隠し、扉を警戒しながら開く。階段側が暗かったためにドアの向こうはとても明るくて一瞬めが眩む。
塔の上とはいえ、窓はデューイの作った窓がひとつだけ…。光魔法があったとしてもやはり自然光に当てられるだけで心が穏やかになる気がした。
ドアの向こうはデューイの部屋に繋がっていた。なのでもちろんその部屋の主がいないわけはない。まるで待ち構えていたかのように両手を広げて、
「ローズ!よく来たね!なんと愛らしいのだろう…。まるで女神…いや美の女神ヴィーナスでさえ嫉妬する美しさだ!
こんなに可愛い子が――」
デューイのシスコン病が再発し、抱き締めようとしたところで俺は制止に入る。
「だから何度も言ってるだろ?おまえが触るとローズが凍るんだよ!」
デューイを見下ろす形で威圧する。だが俺の本当の思いは例え兄であってもローズに触れさせたくないと言う強い独占欲からくるものだ。もちろんそれは口が裂けても言えない。もしデューイに知られたらローズの護衛騎士を解任されるだろう…。
デューイにはゲイだと…とても不本意ではあるがデューイのことが好きだと思われているくらいがちょうどいい。




