36 外の世界へ
「ところでさっき部屋に入った時にも思ったがずいぶんとお互いの距離感にもなれてきたみたいだな」
その言葉を聞いて俺はハッと顔を上げた。やはりこいつは全て計算した上えで今日ここに来たな?もうそとに出てもいい頃合い…、そう言いたいんだろ?
俺はデューイの言葉に賛同する様に、だが実際はローズを説得するように、
「ローズもだいぶ頑張ってくれてるよ。今じゃ俺のテリトリー内での行動をしてくれている。出きればもう少し広い場所や人のいる場所へ行っても平気な頃合いだと思っていたところなんだ。
もちろん、お前もそのつもりで今日ここへ来たんだろ?
ん?ローズどうしたんだ、そんな顔して…」
ローズ不安そうな顔で俺とデューイの顔を何度も見ている。俺とデューイがこの部屋を出る話を進めようとしていることに反対したいのに急に話が進み始めたことに戸惑い、、言葉が出てこないと言った様子だ。
彼女にとっては15年間殆ど許されなかったこと、そして俺が来て半年でそれが許されようとしていることに驚きや不安に押し潰されそうになるのもわかる。だからと言ってずっとここにいるわけにはいかないのだ。俺たちの目標はここを出ることだけではない。ローズの存在を公表し安全を確保しつつ聖女としての責務を果たし、そして1人の人間として幸せになってもらうことでもあるのだ。
俺はローズを温める名目で撫でていた背中をさっきよりも優しく撫で始める。ローズを温める俺の手が少しでも彼女を安心させられることを祈りながら何度も優しく撫でた。
「ローズ、お前は少しでも外を知った方がいい。お前は聖女としてこの国を守りたいんだろ?なら国の状況が分かったうえで行動した方がいいだろう?この国の人々が何を望んでいるのか、自分の目で確かめるんだ」
俺の言葉にローズは目を輝かせた。半年も一緒にいればローズの考えは手に取るように分かる。彼女はとにかくこのヴァルデロスのことを思って行動している。ヴァルデロスの為になると分かればすぐに興味を示すことはわかっていた。
だがな…、それは俺にとっての目的とは違う。俺はローズ…お前がこの国のために身を粉にして責務を全うするのを手伝いたいんじゃない、お前の努力がやりすぎだと言うことを知って欲しいんだ。
寝る間も惜しんで祈りを捧げていたこと、毎日古代文字で書かれた本を読んで神聖力について学んでいる努力…豊かすぎるこの国の現状を見てその全てがやりすぎなことに気付いて欲しい。
そして『奇跡の夜』によってどれほどの人々が助かったか…?あの出来事によって失われた命もあったし間に合わなかった命もあったが真相を知ったところで彼女を責める人は殆どいないだろうと言うことを実際の国民を見て知って欲しい。
窓から見ているヴァルデロスと言う国は広すぎてもっと頑張らないといけないと思っているんだろうが実際はこの国はもう十分すぎるほど幸せな国なんだ。
デューイもまたローズを安心させるように微笑んで頭を撫でる。俺なんかとは比べものにならないほどの妖艶な美しい笑顔…これは反則だと思う!その甘いマスクで全てを解決しようとするな!!
「大丈夫だよ、始めから街に行ったりパーティーに行くようなことはさせないから。まずは城のなかを歩いてみよう?それだけでも色々な人にふれあえてお前にとってはいい刺激になるだろ?僕と一緒に何度か城の中を歩いたことがあるだろう?それと同じさ。
まずはカデルと一緒に城の中を歩いてみよう?少し広いところでカデルも護衛騎士として練習が必要なんだよ」
デューイに説得されたからかローズは小さく1回だけコクりと頷いてちいさなか声で、
「わかりました…」
俺はそれを見てため息を付いた。
始めは気がつかなかったがローズの頷きには癖があることにこの半年で気がついた。話をちゃんと聞いてない時や納得していない時は1回、そして話をきちんと理解して聞いているときは2回以上コクコクと頷く。
ローズが頷いたことでデューイは嬉しそうに微笑み掛けて頭を撫でているが、ローズは今1回しか頷かなかった。つまりローズは今納得していないのだ。本当の兄さえ知らない癖に俺は気付いていることに少しだけ優越感を感じていた。
どちらかと言えばデューイの微笑みより俺の話の方にローズは食いついていた。デューイの『色々な人にふれあえる』なんて言葉はローズの不安を煽っているくらいだ。本当の兄貴の癖にローズが対人関係に不安を抱えていることを理解できていないのか?
俺の採用試験の時に彼女はローブを着て大臣達に混ざっていたがきっとあれも好きで外に出てきたわけではないのだろう。だがあの時の彼女はとても堂々としていた。その理由だって今の俺にはわかる。あの時は彼女にとって最高のエサがあったのだ。彼女の大好きなスイーツ。試験で俺が作るスーツ目当て、ただ甘いものにつられてローズはこの部屋から出たのだ。
単純すぎるが贅沢をしない彼女にとっての唯一の嗜好品は本とスイーツ、そして植物や動物を愛でることなのだ。それ以外に興味がないのか…それともこの部屋のなかにないから選択しに入らないのか…?
俺はローズの肩を掴んで俺の方を向かせた。彼女の琥珀色の瞳を見てやはり納得いっていなかったことを確信する。
「いいかローズ、城の中は安全だ。この部屋と違って人は多いが城の回りは兵士が守っているし結界も張られてる。城内は近衛兵士の巡回もあるんだ。それにおまえの存在はみんな知らないんだからおまえのことを責めるやつもいないさ」
そして彼女の顔を覗き込むようにして目線を合わせた。ローズは押しに弱いが今は無理矢理彼女を外に出すんじゃなくて自主的に外に出たいと思って欲しい。強制的にやるより自主的にやるよう方が得られる結果は変わってくる。
ローズを外に出すエサは2つ。ひとつはヴァルデロスの為に出きることを探すという聖女としての欲求を満たすこと、そしてもうひとつは――。
「城の中を歩くことに慣れたら少し庭園を散歩しよう?ここの温室にない季節の花がたくさん咲いてるぞ?窓から見えるたくさんの植物と話して見たくないか?」
するとローズはパッと目を輝かせた。触れたことのない植物達とふれあえるのは彼女にとって最高のご褒美なのだ。




