35 俺の中の嫉妬心
ローズの護衛騎士となってから半年が過ぎた。俺としてはローズとの信頼関係は築けているつもりで、護衛騎士として彼女を守る上でも彼女の立ち回りにもだいぶなれた。
貴族は子供の頃から護衛やメイド等が横にいるものだ。それは赤子の頃から当たり前に行われていて、貴族の子供も守られていることに慣れている。ある程度の年齢になれば守られていることを意識して自然と守りやすい行動をとってくれる。
あの向かうところ敵なしのデューイでさえアカデミーにいる間に一人で行動することは無くなっていたくらいだ。万が一に備えて守るがわも守られる側もある程度の制約のなかで行動を共にするのだ。
だがローズは違う。植物や聖獣はそばにいたが1人で暮らしてきたし安全な場所で暮らしていたせいで危機感もない。守られている意識がないからすぐにひょこひょこ動き回ってしまう。
そして改善のしようがない難点が彼女の小ささだ。人混みで見失ってしまったら小さな彼女を探すのは骨が折れそうだ。そう言う意味では背の高い俺は小さな彼女を探すのには適任だろう。
だがそもそも護衛対象を見失うのは護衛騎士として論外だ。だからローズには一緒に暮らす間に俺のそばを離れないことにも慣れてもらう必要があった。
聖女はみんなそうなのかローズの性格なのかは分からないが彼女は出来るだけ俺の指示を聞こうと努力してくれた。そうしている間にお互いの行動が予想できるようになり、ローズも好き勝手行動するのではなく俺の目の届く範囲、そしていつでも俺が守れる範囲内で行動できるようになってくれた。
そろそろこの部屋を出てもう少し広いところで行動をしたいと思っていた頃…まるではかったかのようににデューイがやってきてくれた。
ローズが毎日の日課である温室の植物を愛でていた時、ノックもなしに扉が開いた。俺は反射的にローズの前に立ち戦闘態勢に入ったがデューイの顔が見えた瞬間呆れたようにデューイを見下ろして、
「おいおい…。ノックくらいしろよ…。久しぶりだな、見ない間にずいぶん――」
「お兄様!!」
俺が話し終わるより先に俺の背中に隠れていたローズが飛び出してデューイに抱きつく。
デューイは自分の胸に飛び付いてきたローズを受け止めてそのまま一回転クルリと彼女ごと回り、ふわりと彼女を地面に下ろして頭を撫でた。
…ラブラブのカップルか?!漫画でしか見ねぇよ!そんなの!!!!
「ローズ久しぶりだね。見ない間に顔色もよくなって、見違えるほど美人さんになったじゃないか?」
デレデレするデューイ…。
いくら俺が長い時間ローズと一緒にいようと、妹のように可愛がったり、心配しようとも本当の兄にはかなわないってことか?アイリスに出来なかったことを俺がローズにしたところとてただの兄妹ごっこに過ぎないのだと思い知らされた気分になる。そもそもローズは俺のことなど何とも思っていないだろうから俺が勝手にかわいい妹のように接しているだけなんだが――。
「アクセル様がいつも美味しいご飯を作ってくださるんです!」
「完全に胃袋を捕まれてしまっているじゃないか…」
俺はデューイがデレデレしているのを見ながら少し呆れていた。これも全部計算ずくだろう?俺に料理を覚えるように言ったのはお前なんだからな!
リビングに移動するとローズはいつものようにハーブティーをいれ、俺は今日の午後にでも食べようと思って作っておいたフルーツタルトを切り分けた。タルトに乗っているのはローズの温室で作ったものだから神聖力の含まれた最高のフルーツだ。
ここにきて半年…。俺は完全に運動不足だがローズの神聖力に当てられたおかげで魔力量も筋肉量も確実に上がっていてここに来る前よりも確実にレベルを上げている。もしかしたら身長ものびているかもしれない。
ハーブティーとタルトを口にするとデューイの顔が綻ぶ。
「城で食べる食事よりこっちの方がいいな…」
そう言ってデューイがローズの頭を撫でようとすると俺は素早くその手を払い除ける。
「お前が触るとローズが凍るんだよ!お前ほんとはお前のせいでローズが凍ることに気付いてただろ?だから俺を護衛騎士に選んだな?」
俺の払い除けた手にはローズへの心配とほんのちょっとの嫉妬も混ざっていた。数ヵ月に1回しか会えない兄妹…ならば俺とローズが一緒に過ごした時間はデューイよりも長いはずだ。それなのに俺は本物の兄には勝てない…。
「カデルどうしたんだよ、怖い顔して…」
デューイが珍しく戸惑いを含む苦笑いをした。デューイの一言で俺自身も驚く…、いつの間にこんなにローズに執着して嫉妬心を持つようになったんだ?ローズを守ると言う大前提のもとこの狭い空間で2人きりで生活をしていたせいだろうか?外に一歩も出られない環境は例え聖女の癒しの力があったとしてもストレスがかかっていたのだろうか?
どちらにしてもただの言い訳だ!冷静さに欠けるとは…俺としたことが!
俺は腕を組んで胸を張る。誤魔化すように
「前回ローズは大変な目に遭ったんだよ。こいつは魔法が使えないから魔法の影響を受けやすいんだ。
ただでさえお前の魔力は強いんだからな、むやみやたらに触らないでやってくれ」
しかし言ってるそばからデューイはローズの手を両手で包み込むように握り、
「そうか…、それは知らなかったなぁ…。しかしカデルが溶かしてくれるのであれば安心だな!
ローズ聞いたかい?カデルのおかげでお兄様はお前のことを抱き締め放題だ!最高の護衛騎士だな!」
白々しく言うデューイを見て俺は大きなため息をついてからローズの横に座り彼女の背中に触れた。やっぱり彼女の体にはデューイの魔力が入り込んでしまっている。俺以上の魔力量を保有するデューイはいくらコントロールをしたところとて完全に魔力を消してローズに触れることは難しいのかもしれない。
仕方なくデューイが心置きなくローズを愛でている横で彼女が凍らないように俺の熱を送り込んでやる。世話のかかる兄妹だ!




