34 新たなる目標
「なんでこの話を俺にした?まだ出会って1ヶ月もたってねぇのに」
するとローズはすくッと立ち上がりまっすぐに俺を見上げてきた。
「アイリス様って誰ですか?」
急に聞かれて俺は一瞬戸惑ってしまった。
「なッ?!お、俺の妹の名前だけど…なんでお前がアイリスの名をを知っているんだ?」
「私のことを『アイリス』と間違えて呼んだことがありました。私が熱を出したときです。
失礼ですがアイリス様は…?」
あぁ…あの時か…。あの時は初めて経験する看病で確かにおれ自身もいっぱいいっぱいだったな。自分でも気がつかないうちにアイリスの名を呼んでいたのか…。
アイリスが生きていたのはほんの数ヵ月だ。俺自身物心がついてまもない頃のことだから思いでなんてほとんどない。それなのに間違えて呼んでしまうとは――俺にとってそれほどアイリスの死は衝撃的で大きな存在だったのか?それとも辛い思いをしたお袋達の姿が目に焼き付いているからか?
「…死んだよ。瘴気にやられて。でもなそれはお前のせいじゃ――」
「ごめんなさい!!!」
俺が言い終わる前にローズは深く頭を下げた。
「私がもっと早く生まれていれば、私がもっと早く聖女として成長していればもっと沢山の命が救えていたはずで、瘴気を発生させることもなかったしアイリス様も――」
「ちょ、ちょっとまてまて!」
俺は思わずローズの両肩をつかんだ。
「お前はなにも悪くねぇだろ。ただ神聖力をもって生まれちまったからそうおっもっちまうのかも知れねぇけど。それにお前の暴走は結果的には多くの人を救ったんだ。
マリア様達が犠牲になったかも知れねぇけど、でも代わりに救えた命だって…」
そこまで言って俺は気がついた。聖女であるローズが隠されていた理由はもしかすると国民のなかにローズに批判的な意見を持つ者が現れるかもしれないからか?
『もっと早くローズが神聖力を暴走してくれてたら助かる命があったんじゃないか?』『ローズのせいでマリア様とルーク様がなくなったんだ』と心ない言葉を言うやつはいるかもしれない。それに神聖力や聖女についての知識が乏しいヴァルデロス国民のなかには『神聖力の暴走』は恐怖を与えるものかもしれない。
色々な可能性を加味して、そしてそれらからローズを守るためにローズはこれまでここで閉じ込められて生きてきたのか?そしてその十字架を彼女は背負い誰にも相談できずに思い詰めてここで一人で祈りを捧げ続けてきたのか?
考えすぎであってほしい。自分のために両親がなくなっただなんてそれだけで十分過ぎるほど辛い思いをしたはずなんだ。
だがアイリスが死んだ後のお袋達を思いだす。お袋は立ち直るのに何年もかかった…、いや恐らくまだ立ち直れていない。小さな女の子を見るたびに思い出しているだろう。
そして親父はそんなお袋を支えるために悲しみを表に出さなかった。でも本当は辛かったはずだ。あの頃のヴァルデロス国民はみんな同じようなものだった。それに深い傷を負ったままの人も多くいるだろう。
人は恨むことで少しでもじ分の心を癒そうとする生き物だ。ローズを恨む人は少なからず出てくるだろう。
だがローズは憎める相手などいない。自分自身が両親を殺したと思っているから。自分自身を恨み続けて生きてきたのだろう。
「とにかく、もう頭は下げるな…。
それで?一晩中聖女の勉強して祈りを捧げて、祈りの舞を踊るんだっけか?それが俺たちやマリア様への罪滅ぼしとでも思ってんのか?」
俺が呆れたように聞くとローズはコクコク頷いて、
「私にはこんなことしか出来ませんから...」
と呟く。
俺は大きなため息をわざとらしくついてやった。お人好しにもほどがあるぜ。ローズに責任がある訳じゃねぇだろ…。
「先に言っておくが俺の妹はお前のせいで死んだ訳じゃねぇぞ。それにこれまで寝ずに一晩中聖女といて頑張っていたのかも知れねぇが、それはやりすぎだ。おかげでこの国は平和で豊かなのかも知れねぇが他の国と比べると豊かすぎだ。はっきり言ってそんなに頑張りすぎる必要ねぇだろ?」
「でも、私に出きる償いはこれくらいしか…」
「何を償ってんだよ?聖女として働くのは構わないが働きすぎだ!それにお前が言うその償いにだれも気がついてないんだぞ?この国は豊かなのが当たり前って思ってんだ!」
「でもでも…」
「でもじゃねぇ!」
俺と言い合っていたローズだが俺が少し声を低くして叱るように声をあらげるとピクッとからっだを震わせて黙る。
当たり前だ…、誰も知らないところで一晩中祈りを捧げて睡眠も食事もろくにとってねぇ。しかもその理由が訳も分からねぇ罪滅ぼしだ。
俺は拒否を認めない圧をかけるような鋭い瞳でローズを見下ろし、
「いいかローズ。俺は護衛騎士としてその生活を続けることを認めねぇからな!
しっかり寝てしっかり食べろ!それさえすれば聖女の仕事はさせてやる」
ローズの返事をまたずに俺は彼女を肩にに担ぎあげた。ローズは俺の背中で『はにゃぁ〜』と間抜けな声を出し、白兎達はあわててピョンピョンと跳びはねている。
「まずはめし食うぞ!
そこのウサギとキツネ!お前らにもなんか用意してやるから早く来な!!」
その日から俺は彼女の部屋にはいることを許された。どうしても祈りや舞の時間だけは一人にさせてくれと言われた為邪魔はしないようにしたが、ちゃんと寝てもらうために夜の10時以降はまた部屋に入れるようにしてもらった。
たまに10時以降に何度か抜き打ちで寝ているか確認をしてたが、よほど祈りの時間に人に見られるのが嫌なのかローズはきちんとクッションで寝ていた。欲を言えばベッドで寝てほしかったがベッドがないのだから仕方ない。
寝れば自然と朝も起きられるようになり、食事をとる余裕も出てきた。確実に血色がよくなってきたのに表情はくらい。窓のそとを見る彼女の表情はいつも心配そうだった。祈りの時間が急激に減ったことによる影響をきにしているのだろうが俺の目から見るとヴァルデロスは平和そのものだった。
彼女を外に出してやりたい…。きっと平和なヴァルデロスを見たら安心してくれるだろう。そしたらきっと無理をしなくなる…。俺が護衛騎士としての力量を認められばそれが一番の近道となるんだ…。




