32 聖女のお部屋はシンプルイズザベストです!
みんなが必死に仲良しアピールをしたおかげなのかそれとも白兎達が俺を仲間と認めたからなのかローズの表情は泣き顔からケロッと笑顔になって、扉を開けて俺を部屋に迎え入れてくれた。
「カデル様、どうぞどうぞ!」
人生で初めて入る女の子の部屋に少し緊張しつつ俺はなかを覗いたが俺は部屋に入ってすぐに歩みを止めた。
「は?!」
部屋にはなにもなかった。ただの白い壁だけがある白い部屋。俺の腕のなかに静かに収まっていた氷狐が少し苛立つように、
「さっさと中に入れよ」
と言ってきて俺はやっと我に返ったように部屋に入って扉を閉めた。
窓がないことはどの部屋も同じことだがだからと言って家具もないことに俺は動揺が隠せなかった。
にこにこしているローズを見下ろして、
「お前…いつもどこで寝てるんだ?」
と聞くとローズは俺のすぐ後ろを指差して「こちらです」と誘導する。
振り返ると小さな階段があり見上げるとロフトになっているようで少し安心する。さすがに何もない部屋すぎたので床の上で寝ているのかと心配になってしまっていたが上が居住スペースと言ったところか?
ローズについていく形でロフトに上がるとロフトの奥に大きな本棚が2つとクリスタルの杖、そして大きなクッションが床に置かれていた。
本棚のひとつにはローズがいつも読んでいるデューイが原作オールシカトの脚色をされたおとぎ話の本がならび、もうひとつにはずいぶんと古そうな本が並んでいた。
デューイプロデュースの本が煌びやかなせいか古い本がとても色褪せて見えた。背表紙を見たがなんと書かれているのかよく分からない。
「古代文字で書かれている本なんです」
俺が質問する前にローズが答える。『古代文字』と聞いて俺は目を丸くした。俺もアカデミーで少し勉強はしたがこれはそれとは違っていた。恐らくヴァルデロス解読が不可能とまで言われいる最古の古代文字だろう。
「古代文字読めるのか?ヴァルデロスの学者連中でも解読が出来ないって聞いたことがあるが…」
「なぜか子供の頃からスラスラと…。白兎が言うにはこれを書いた人は文字に神聖力を込めたそうなんです。だからきっと神聖力を持った人にしか読めないんだと思います。どちらかと言うと現代の文字の方が覚えるのが大変でした」
ローズは何事でもないように笑う。確かに魔法に頼りっぱなしのヴァルデロス国民には神聖力を持ったものはいない。だから学者でも解読不可能なのか…。
その本棚の横にはローズの背丈ほどの長いクリスタルの杖のようなもの。杖のの先にも小さなクリスタルの装飾が沢山ついている。高価そうなので振れないように注意しながら近づいて見た。
なにか特別なカットが入っているわけでもないのにキラキラとしている。ただの透明なクリスタルではないのか?
俺が黙って色々な角度から見ていると、腕のなかで静かにしていた氷狐が俺を見上げて睨んでいることに気がつく。
「分かっていると思うが壊すなよ。一点もので貴重なものなんだ。」
「分かってるって…」
俺たちのやり取りを見ながらローズはクスクス笑いながら杖を手にして、俺に差し出す。
「舞を踊る時に使うんです」
俺は差し出された杖を片手で受け取るがローズが手を離した瞬間すごい重みに思わず抱いていた氷狐を落としてしまった。氷狐はそれを予測していたように床に着地し、ローズはすぐに杖を手で支えてくれた。
「あっぶねぇ…。落とすところだったぜ…っていうかローズが支えてくれなかったら重すぎて落としてた」
ローズは杖をまた壁に立て掛けた。パワータイプの俺が持てないって言うのに華奢な彼女が軽々と…。
「この杖、保有している神聖力量によって重さが変わるんです。神聖力を沢山持っている私にとっては鳥の羽の様に軽くて、神聖力をお持ちではないカデル様には重すぎて持つことは出来ません。
それから特別な素材で作られているので落としたくらいで壊れないので安心してください!私も舞の練習中に何回落としたか…」
ローズがクスクス笑うと俺はホッとして強ばっていた肩の力を抜いた。
「そ、そう言うことは早く言えよ…。壊すかと思って焦ったぜ」
俺は頭をガシガシかきながらロフトのなかを見渡した。他にあるのは大きなクションがひとつだけだ。ローズはその大きなクッションにポンと座る。クションはポスッとローズを包み込むように形を変えた。ずいぶんと柔らかいクッションだ。ゆっくりくつろぐにはソファ代わりになっていいかもいれないと思ったが
次のローズの言葉に俺はまた驚くことになった。
「ここで寝てます」
「は?」
「これが私達のベッドです」
そう言ってローズはクッションの上で丸くなり白兎と氷狐も見せつけるようにローズの腹の近くで丸くなる。
いやいや、それじゃクッションの上の犬と変わらねぇぞ!!さすがにこれも冗談だろうと思ってロフトの上をもう一度みる。すると小さな扉があったので俺はそれに手を掛けた。
「冗談はやめろよここにもうひとつ部屋が――」
だが俺が勢いよく開いたのはただのウォークインクローゼットの扉だった。開いた先にはローズがよく着ている白いワンピースドレスや厚手のローブなどの服が並んでいた。
さすがに勝手にクローゼット見たことに罪悪感を感じて俺はすぐに扉を閉めた。
「わ、わりぃ…。でもそんなクッションじゃ体が休まんねぇだろ?」
ローズはクローゼットを開けたことはあまり気にしていない様子でクッションに座り直すとなんでもないことのように、
「長時間寝ないのであまり問題はありません」
と言い放ちやがった。そして勝ち誇ったように氷狐が補足する。
「ローズはな、仮眠程度にしか寝てねぇんだよ。この部屋で一晩中古代文字の書かれている本で聖女について学び、祈りを捧げて祈りの歌を歌って祈りの舞を毎晩舞ってんだ。ヴァルデロスを闇と瘴気から守り、恵みの雨を振らせて幸福の光でこの国を守ってんだよ」




