30 俺が悪いんじゃねぇ!こいつが可愛いのがいけないんだ!
ローズを起こすのを(今日は)諦めると言ったからか2匹とも俺を見上げて動きを止めた。俺はそっと床に2匹を降ろすと、
「それで、そもそも聖獣って何だ?お前らのこと…あとローズとの関係を俺にもわかるように説明してくれ。
それから俺としてはローズの不健康な生活を改善したいわけだが、お前らとしてはどうして欲しいんだ?理由によっては俺もある程度は妥協するが?」
と言った…が、始めから妥協する気は全くない。昼まで寝ていて食事もあまりしない生活が聖女としてもプリンスとしても…その前に人間としてもいいわけがないのだ。
2匹は行儀よくお座りをした。小さいのが可愛らしく見えるだけできちんと座っていると凛々しく感じるのは聖獣だからか?聖って言うくらいなんだから神秘的なものを感じる。
氷狐は今にもまた牙をむき出しにしそうだが白兎は落ち着きを取り戻しているようだ。白兎は氷狐の怒りを制するような素振りさえ見せ余裕を感じさせる。体格差も力の差も氷狐の方が遥かに上だと思うが氷狐は不思議と白兎にしたがっている。第一と言っていたくらいだから、白兎の方が位が上なのだろうか?
「聖獣は魔物の一種だが神聖力を使う聖なる生き物だ。魔物と言っても人を襲う魔物とは違う、…まぁ人間達の言葉で言うと精霊のようなものと思ってくれて構わない。
僕達聖獣は普段、姿は見せずに自然界に溶け込んでいるが神聖力を使う者と契約を結ぶことがまれにあるんだ」
「へぇ〜、まれなのか?2匹もいるみたいだが?」
俺が茶化すように言ったのが気にくわなかったのか氷狐がガルルルと唸り出す。しかし白兎が片手を上げて制している。やはり立場は白兎の方が上な様だ。
「ローズは特別なんだ。
契約は人間側が強い神聖力を持っていなければ契約をすることができない。それにお互いの神聖力の相性も大事だ。素質もあり相性もいい相手なんてそう簡単に見つけられるものじゃないから神聖力を持っている者のほとんどは聖獣を見たことさえないだろう。
ローズの神聖力の保有量は規格外なんだよ。だから多頭契約が出来たんだ。」
白兎の説明に被せるように、
「そんな特別な存在の護衛騎士に選ばれたのだ!ありがたく思え!」
と氷狐が叫ぶ。
俺は戸惑うようにガシガシと頭をかいた。『ありがたく思え』と言われてもなぁ、初めは誇りに思ったがあんなにぐうたらだと敬う気持ちなんて消えちまうんだよな…。
「そんなに聖獣からモテモテのローズなのに実際に契約しているのはずいぶんと小さくてかわいい聖獣なんだな。
それに名前は異国の名だな…、何でだ?」
すると白兎は不服そうに眉間にシワを寄せた。
「僕はね聖獣界でも歴史のある名家の生まれなんだ。でも氷狐は元々野良だ。ローズにずっと猛アタックをしてなんとか契約してもらったんだ。だから僕と一緒にしないでくれ。
それから名前は契約者がつけるんだけど…、ローズはネーミングセンスがちょっとね…」
「野良は関係ないだろ?お前だって、幼かったローズにわけもわからないまま契約させたって聞いたぞ?」
白兎と氷狐の話を聞けば聞くほど聖獣との契約が特別なものに感じられなくなってきた。それに名家だとか野良聖野とかは俺には良くわからないが精霊にしてはちっこくて頼りない。
「とにかく、僕達はローズと契約をしているんだ。ローズを支持し、全力でサポートしている。
もちろん護衛騎士の仕事を邪魔するつもりはない。だから君も僕たちの邪魔をして欲しくないんだよ」
「全力でサポートするって…、そんなにこのぐうたらな生活続けさせたいのかよ?デューイもサンタも蔓もお前らも、ローズのこと甘やかしすぎだろ?だからぐうたら不健康聖女に――」
ついついまた本音がでかかって、氷狐が俺に飛びかかろうとしたのと同時にローズが部屋から出てきた。
みんな目を丸くして驚いた。今日は起こすことを諦めていたのに1人で起きてくるなんて…、やれば出来るじゃねぇか…。
だが髪の毛はまだボサボサのままで瞳も閉じかかってふらふら歩いている。起きてきたのは偉いが脳みそは半分眠っている様な状態だ…、こんな状態で低血圧なのによく立ち上がれたものだ。
ローズは床の上に座っていた俺たちをみてボソッと、
「さむい…」
と呟いた。
あまりにも小さくて可愛らしい声に一瞬気を取られて俺はバカみたいになにも返事が出来なかった。その隙にローズが俺の膝の上にちょこんと座り抱きついてきた。
「なッ?!」
いきなり抱きついてきて俺は完全に思考が停止する。軽すぎる重み、鼻をくすぐる甘い香り、ふわふわとした肌…、全てか俺の判断を鈍らせる。何度触れようと何度抱き上げようと慣れない女の子の感触…。
「おい、仕事しろよ湯たんぽ!」
氷狐に言われてハッとする。俺は頭をガシガシかきながら、
「なだよ、頑張って起きてきたのかと思ったらただ寒かっただけなのか?」
と言ってローズの頭を撫でた。
ゆっくりとローズの体に俺の熱をおくり始める。彼女の背中をさすると確かに体の冷たさを感じたがいくら探っても魔法の痕跡は感じられない。ただ本当に冷え性なだけなんだろう。
それでも魔法の影響を受けやすい彼女のために時間をかけて慎重に熱を送り込んでやる。ずっと震えていたローズの震えが止まる頃、彼女の規則正しい呼吸が聞こえてくる。
顔を覗き込むとかわいい顔して眠っていやがる。長いまつ毛が小さく揺れて小さな唇が少しだけ開いていて、俺の熱を帯びて少し色づき始めている頬…不覚にもずっと見ていても飽きないなと心から思ってしまい口角が少し上がってしまう。
だが白兎と氷狐の言葉で俺は我に返った。
「寝かしつけたな…」
「あぁ、寝かしつけたね」
…ヤバ!!やっちまった!!
俺は天を仰いだ。まいったな…『甘やかしすぎだ』って言ってたが人のこと言えねぇな。かわいい妹が出来たみたいでどうしても甘やかしちまう…。
ローズの寝顔なんて、熱でうなされている辛そうな寝顔しか見たことなかったからな…。それどころか学校で忙しくしすぎて女の子と触れ合ったことがあまりない俺にとってははっきり言って免疫がない。見惚れるのはしかたねぇだろ!こんなにかわいい子が無防備に可愛く甘えてきたら!!




