29 ここは動物園ですか?
ローズの部屋から飛び出してきたのは小さなウサギだった。手のひらサイズ程の大きさしかないので子ウサギか?ちょこんと床に座ってつぶらな瞳で俺を見上げてくるのはとてもかわいいが白いモコモコした綿毛のような毛は光を帯びていて少し揺れるだけでキラキラと光る。小さいくせにすごい存在感を感じる不思議な感覚を覚える…ただのウサギではないことだけは確かだ。
俺は蔓を踏みつけるのをやめて床に片ひざをついた。するとウサギは俺をまっすぐに見上げたまま口を開いた。
「護衛騎士殿。お初にお目にかかる。私はローズ様の第一聖獣の白兎と申す。以後お見知りおきを」
ウサギがしゃべったことに俺はまず驚いた。声はとても落ち着いた男の声で若く感じるが、俺みたいな大男相手にしっかりとした物言いをするところをみると俺より遥かに年上に感じる。
「主は現在寝ておられる。護衛騎士殿の気持ちはわかるがもう少し待ってくれぬか?
あと蔓をいじめるのは控えてやって欲しい。物言えぬ物を脅すのを見るのは我々としては気持ちのいいものではない。蔓は蔓なりに毎日努力はしているのだよ」
「『主』…っていうのはローズのことだな?
悪いが、少しの間様子を見させてもらってはいたがだいぶ不健康な生活をおくっている様に見えるんだわ。こんな生活を続けていたらいつか体が壊れちまうし聖女としてもちょっとな、なまけものすぎだ…」
すると白兎はコクコク頷きながら、
「それについては半分は同意する。このままでは主は倒れてしまうだろう。だがけっして怠けているわけではない。主なりにやりたいことがあり一生懸命に取り組んでいらっしゃる」
と弁護する。
「やりたいことって、『植物を愛でること』と『本を読むこと』か?まぁそれは否定するつもりはないが他の人間は朝から起きて働いているんだ。いくら王族の聖女様だからってちょっと自由すぎるぜ。
毎日毎日蔓に何度も起こされて昼過ぎにやっと起きてきたかと思えば身だしなみまで全部植物任せだ。聖女の仕事は俺には良くわからないがはっきり言ってなにもしていない様に見える」
「確かに主はせっかくかわいいのにおしゃれには無頓着だな」
「いや、そう言う話じゃねぇんだ。はっきり言って『聖女』じゃなくて『ニート』って呼び方の方がしっくりくるんだよ!」
のらりくらりと言い返してくる白兎に俺の語気が強くなる。するとまたローズの部屋の扉からまた白い物が飛び出してきた。今度はキツネだ!
白兎よりは一回り大きいが普通のキツネよりは小さくて、白兎と同じで真っ白な光るが白い体毛。だがモコモコな白兎とは違い艶やかな毛並をもったキツネだった。白兎と違い牙をむき出しにして俺を威嚇している。
「ニートとはローズのことか?!今すぐ訂正し謝罪しろ!この下等な人間め!」
すると白兎が首を横に振りながらうつむき、
「やれやれ…氷狐よ。ここは私に任せろと言っただろう?そんなことを言っては主が悲しむ。
すまなかったなカデル殿、第二聖獣の氷狐だ。こう見えて――」
「こんな野郎に名前を覚えられたくなんざないね!
それから白兎、さっきっからそのしゃべり方ムカつくんだよ!」
「はぁ…氷狐、聖獣の評価は契約者の評価に繋がることぐらいわかっているだろう?威厳や風格…それからどんな者にも敬意を持つようにと主がいつも――」
「うるせぇ!ローズをけなしたやつなんざ俺がいますぐ――」
よくわからないが白兎と、氷狐とか言う名前の狐が喧嘩を始めた。本人達は真剣に取っ組み合いをしている様だが小さな癒し系小動物が短い手足でじゃれあっている様にしか見えない。
ふと顔を上げるとローズを起こそうと部屋にのびていた蔓が2匹の喧嘩をどう止めようか右往左往している。
「ハァ…、面倒なことはいつも俺だ…」俺はそう言って大きくため息をつくとどっかりとあぐらをかいて2匹の首根っこをつかんで顔の高さまで持ち上げた。
白兎はしょんぼりして静かになり、氷狐はジタバタ暴れている。小さいわりに氷狐の力は強いが俺からすれば赤子お同然だ。
「確かにローズをけなすようなことを言ったかもしれないな。それは謝る、俺も言いすぎた。だがな、そう言われても仕方のだいくらいローズはぐうたらな生活してるように俺には見えたんだよ…。
ただ口は悪かったかもしれないが俺がローズのことを心配していることはわかって欲しい。俺はローズの体を一番に心配している。だからできるだけ健康的な食事を三食とらせたいんだ。
寝てばかりいるのがいい生活とは俺には思えないんだよ」
「そう言うのを『有難迷惑』と言うんだ!覚えておけ!
それからいつも聞いていりゃぁ『ローズ』だの『お前』だの!護衛騎士なら言葉遣いから学んでこい!『ローズ様』と呼べ!!」
氷狐は今にも俺に噛みつきそうな勢いで暴れている。なんで俺の気持ちわかってもらえないんだろうな…。ローズが健康になるのが嫌なのか?
氷狐が大騒ぎしている横で白兎が落ち込んだようにブツブツと、
「僕もうやだ…。ローズはなんでこんなやつと契約したんだろう。聖獣だって僕だけで充分じゃんか…。だから野良は嫌だったんだよ…」
と呟いていた。
白兎が俺に見せていた落ち着いた姿は演技だったのか、急に喋り口調が変わってしまった。声もさっきよりだいぶ幼く感じる…。もしかしたら俺にナメられないようにわざと落ち着いているように見せていたのかもしれない。
俺は二匹に向かって、
「どっちでもいいけどよ…。ちょっと冷静に話し合おうぜ。今日はローズを早く起こすのは諦めるからさ」




