26 本は外の世界への窓口
食事をなんとか終えるとローズはまたいつものように本を読み始めた。本当なら体力作りのために軽いストレッチでもやらしたいところだが今はとにかく栄養を付けさせることを考えて諦めた。
いきなりとばして無理をさせ過ぎたらローズがまた熱を出してしまう可能性だったあるからだ。だからと言って俺はまったく変化させないつもりはない。この数日はローズの様子を観察するだけにとどめていたがコミュニケーションをとりたいとは常々思っていたし、さっき怒鳴ってしまった手前穴埋めしたいとも考えていた。
俺は1人で読書をしているローズの向かいの席に座ると、
「なにかおやつでも食べるか?プリンとか、クッキーとか…?」
しかし ローズは本から顔をあげると、
「読書中は飲み物以外は口にしないことにしているんです。本をできるだけ汚したくないので…」
と可愛らしく微笑む。
どうやらさっき俺が怒鳴ったことも強制的に食事をとらせたことも怒ってはいないようだ。少し安心しつつも俺はローズが読んでいる本を覗き込む。
「いつも何を読んでいるんだ?どれもずいぶんと分厚い本だが…」
「デューイお兄様が持ってきてくださるんです。私にとっては外の世界を知ることができる唯一の方法なんですよ」
「なるほどな…。なぁ、ちょっと見せてくれないか?」
するとローズは快く...と言うかどちらかと言うと、とっても嬉しそうに読んでいた本を俺に本を差し出した。
「是非読んでみてください!読んだ本の感想を話し合ったり感動を共有するってしてみたかったんです! この本は私が何度も読んだ本ですから遠慮しないでゆっくり読んでください!私は新しい本を持ってきますので!」
ローズは立ち上がりヒラリとワンピースをひるがえして、まるでスキップでもするかのように軽い足取りで自室へ新しい本を取りに行ってしまった。
その姿を目で追ってしまう。…小さくてかわいいな…、いやこれは絶対に口からこぼれないようにしよう。デューイにバレたら殺される。
だが嬉しそうなローズの姿を見いたらそのぶん顔がにやけてしまった。
「もっと早くに話しかけときゃよかったな…」
そう呟きながら俺は本の表紙に目をおとした。 それにしても立派な本だ。この埋め込まれているのは宝石…?いやいやまさかな…きっと大きめのラインストーンかガラス玉、じゃなきゃただのシールかもしれない!そうに違いない、きっとそうだ!
「えっと…、なになに?『Snow White』…、『白雪姫』って…これおとぎ話じゃねぇか?!」
こんなもので外の世界が分かるかよ?、と思いながらも表紙をめくる。読まなくてもだいたいのストーリーはわかっているがこんなに分厚い本のイメージはない。もしかしたら子ども向けのおとぎ話じゃなくて大人向けにキャラクターの気持ちの描写が入っていたりストーリーを膨らましているのかもしれない。
適当にペラペラとページをめくっていると、ローズがまた重そうに本を抱えて戻ってきた。彼女の細い腕に抱えられた本の表紙に目をやる…、『CINDERELLA』…なるほど今度は『シンデレラ』ときたか。
「ローズはおとぎ話が好きなのか?」
俺が質問するとまた可愛く微笑んでコクコクと頷いて、
「お兄様が持ってきてくださる本はどれも素敵なお話なんですよ?カデル様はこの本をご存知ですか?」
と嬉しそうに話す。
俺が本に興味を示しただけでそんなに嬉しいのか…。ローズに出会ってからこんなに嬉しそうに話すのを見たのは始めてな気がする。
「子供の頃にお袋が寝る前に読んでくれたよ…。まぁ、俺は『ジャックと豆の木』とか『ピーターパン』とかの方が好きだったけどな。 それにしても大きな本だな。見たところ挿し絵もまるで絵画みたいに繊細だし文字もびっしりとかかれていて読みごたえがありそうだ。 俺が子どもの頃に読み聞かせてもらっていた本とはずいぶんと違いそうで楽しみだよ」
俺がそう言って笑うとローズはまた嬉しそうに微笑み、
「読み終わったら感想を聞かせてくださいね」
と言って、自分が持ってきた本を開いて読み始めた。
大人になってからまさかおとぎ話を読むことになるとは思わなかったな…。子どもの頃から自分はデューイの護衛騎士になって忙しい毎日を過ごしていると思っていた。だが実際は昼下がりの暖かい光のなかでこんなに可愛らしい少女と一緒におとぎ話を読んでいる…、人生はどうなるかわからないものだな。
俺はまた少しだけはにかむと、本を読み始めた。
[Snow White]
昔々あるところに白雪姫と言うそれはそれは可愛らしいお姫様がおりました。
白雪姫の肌は雪のように白く、唇はバラのように赤く、全ての国民から愛されるプリンセスでした。 そんな白雪姫にはお父さんもお母さんもいません。白雪姫が幼い頃に2人ともなくなってしまっていたのです。
しかしそんな白雪姫ですが寂しくはありません。なぜならそれはそれは美しく、聡明で優しい継母がいたからです。 女王様は継母でありながらも、亡くなった王様を心から愛しておいででしたので、王様が亡くなられた後も王様が愛した王国を必死に守っていました。
…ほぅ、なるほど。白雪姫に出てくる女王様は始めは悪い人間ではなかったのか。分厚いだけのことはあって話しはおとぎ話と言うには申し訳ないくらい複雑で面白いものなのかもしれないと少しワクワクしてしまう…。
顔を上げるとローズは[CINDERELLA]を夢中になって読んでいる様だ。俺は彼女の邪魔をしないように静にまた本に目を落とす…。
しっかりと読んで、ちゃんと感想を伝えてやろう。感想を伝えてあの可愛らしい笑顔を見ることが出きると思うと今から楽しみだ!




