25 不健康聖女の食生活から叩き直してやる!
ローズは俺が作った朝食を見るとまだ寝ぼけたポケ〜ッとした顔で俺を見上げて声までとろけそうな程眠そうな声で訴え始めた。
「ベーコンや卵などの肉類は苦手で…、それにこの黒い飲み物はなんでしょうか?私はハーブティーの…」
「これはコーヒーだ!これを飲んでとにかくその眠そうな目をちゃんと開けろ!それから低血圧で貧血もあるんだろう?肉食え、肉!!」
俺が怒鳴るとローズはビクッと跳ね上がって体をシャキッと伸ばし、
「はッ、はい!!!」
と言って食べ始めた。だが食べ始めたのはやはりサラダと俺が叱っている間に蔓がそっとテーブルに置いていったブドウだ。おれはテーブルに置かれたブドウを没収してローズの向かいの席にどっかりと腰を下ろす。
「こんなもん、没収だ!いくら神聖力のおかげで栄養満点なフルーツだとしても毎日そればっかりじゃ栄養が偏りすぎてんだよ!しかも食べている量が確実に少くねぇ!」
ローズは説教を続ける俺をジト目で見つめながら口をモグモグ動かして、
「それは違います!」
と反論した。
そのモグモグと動く頬が妙にぷっくりしていてかわいい…、と思いながらも俺は鬼の形相を崩さない!ここで折れるわけにはいかないんだ。
ローズは急いで詰め込んだ口いっぱいのサラダをゴクンと飲み込んで、
「確かにここの温室の植物達は私の神聖力の影響を受けて成長し、立派な花や実を付けます。その実を食べた者は高濃度ポーションを飲んだ様なものですから、毎日食べているカデル様は今とても元気な状態なのでしょう!
ですが私の神聖力は私には効果はありません!ですのでここの温室で育った子達を私が食べても普通のお野菜とフルーツの栄養と大差無…」
「もっとダメじゃねぇかよ!!」
俺はローズの反論を途中で遮るようにして怒鳴った!
俺は怒りに任せてローズから取り上げたブドウを一粒食べた。甘くてジューシーな果汁が口いっぱいに広がり、魔力が体内に溢れるのを感じる。はっきり言って俺はこのフルーツがあれば一生健康を保てるだろう。
しかしローズにとってはまったくもってその効果はないと言うことか?それなのであればローズの今の状態は納得だった。華奢なのはただただ細く痩せ細っていて栄養が足りていない状態なだけだ。もしかしたら熱を出したのもただ単に体力がなかっただけなのかもしれない。
朝なかなか起きれいないのも低血圧なのもたまに歩いているときにふらふらして今にも貧血で倒れるんじゃねぇかと不安になるのもはっきり言って栄養が足りていねぇんだ。もしかしたら長時間眠っているのもエネルギー不足の可能性がある。
俺はおもむろに立ち上がるとキッチンに向かいバターと蜂蜜を持ってきてローズのパンに塗りたくり、
「カロリーの追加だ!ありがたく食え!」
と脅す。
本当は優しく接してローズとの距離を縮めたいと考えていたのだがもう諦めた…。ローズを甘やかすやつはこれ以上必要ない。俺が叩き直してこの部屋から出せる立派なプリンセス兼聖女にしてやる!
だがローズはいつまでも呑気だった。大好きなフルーツを没収され、サラダを全て食べ尽くしてしまうとベーコンと目玉焼きとトーストとにらめっこをしている。
「好き嫌いしてねぇでさっさと食うんだ!お前にはまずは栄養が必要だ!」
俺は腕を組んでローズを見下ろした。
俺が大きすぎるのもあるのだろうが座っていても体格差を感じる。男と女、年齢も違うし護衛騎士になりたくて体を鍛えてきたのもあるがそれにしても普通の15歳の女の子にしてはローズは小さすぎる。
ローズは渋々と言った様子でベーコンをパクリと食べた。小さな一口だがモグモグとゆっくり咀嚼してゴクンと飲み込む。その後もパンや目玉焼きを小さな口で時間をかけてゆっくりと食べ進めてくれた。
俺はと言うとローズを見守りながらブドウを食べる手が止まらなくなっていた。最高に美味しいし食べれば食べるほど心も体も癒えてゆく…。あっという間に俺は落ち着きを取り戻しモクモクと食べるローズに優しく話しかけた。
「なぁ、別にアレルギーがあるわけでもないんだろ?聖女だから精進料理とかしか食えないとか?…それとも食わず嫌いか?ゆっくりだけどちゃんと食べれてるじゃねえか?」
するとローズは顔をあげて俺を見つめ、
「ではカデル様は私のことを食べれますか?」
と、真剣な顔をして見つめてくる。
俺はあからさまに同様をして、
「なッ?!なんだよ急に?」
と、聞き返す。
ローズは真剣な表情で俺を見つめたまま、
「私でなくてもいいです。デューイお兄様やご学友の方達はいかがですか?
私は植物さん達や動物さん達とお話をすることが出来ます。一度お兄様にお願いして城の敷地内にある養豚場や養鶏場などに連れていってもらったことがあるのです。
そこの動物さん達とたくさんのお話をしました。でもそうやってお友達になった子達を食しているのだと思うと…食が進まないのです」
と語った。
俺は口をポカンと開けて困惑した。始めはローズが何を言っているのかわからなかった。動物達と話ができるだと?…だが確かに不思議なことじゃぇね。実際に植物達と仲良く話をしているのを俺は何度もみていた。と言っても、聞こえるのはローズの声だけで植物の声は聞こえない。だが植物達の動きから会話が出来ていることが明白だ。
ローズにとって肉や魚を食べることは友達を食べる行為だってことか?
「だ、だけどお前は野菜とかフルーツは食べるじゃねぇか?植物を食べるのは平気なんだろ?」
ローズはコクコクと頷き、
「植物さん達は『食べて!』と言ってたくさんくださるんです。でも動物さん達はそうではなくて…食べられるために命を落としたい訳ではないわけで…」
と最後は言葉を濁した。
俺は困ったように髪をガシガシかく。ローズの気持ちはわかった…だがローズの体調不良をこのままほっとくわけにもいかない。護衛騎士としても一人の人間としても…。
俺は立ち上がるとローズの横の席に移動した。そして優しく頭を撫でてやりながら、
「気持ちはよくわかった。だがな、お前はあからさまに栄養が足りてねぇんだ。肉が食べれねぇならその代用となる物を食べた方がいいが…、俺も料理は得意だが栄養士なわけでもねぇからそこの知識は疎い。
最低限の量にしてやるから少しでも食べてくれ。それからせっかく尊い命を落としてくれた動物達を使った料理は残さないで食べてくれ。お前の友達をゴミ箱には捨てたくねぇからよ!」
と優しく語りかけた。
ローズは目線をそらしてまったく納得いっていない様子でコクッと一度だけ頷いた。




