23 サンタさんは配送がお上手
ハーブティーを飲ませてやるとローズをまたそっと寝かせた。ぐったりとして苦しそうに息をする彼女を見ていると胸をギュッと握り潰されたような気分になる。自分の不甲斐なさに、さっきみたいに本を床に投げつけたくなるような気分にさいなまれるがなんとか深呼吸をして自分を落ち着かせた。
ローズは目を覚ましてはハーブティーや水を数口飲むと寝て、また目を覚ますとハーブティーや水を飲むのを繰り返していた。
ただでさえ小さくて華奢なローズを見ていると本当であれば今すぐ栄養満点でハイカロリーなものを食べさせて体力を付けさせたくなるが、医学書にも『水分がとれていれば心配はない』『はじめは消化のよいものから口にし…』と書かれている。俺はそれを信じてとにかく水分補給だけはさせるようにした。
さっき床に叩きつけた医学書が今は俺の安定剤代わりになっているのは驚きだが植物達のおかけで考えは変わっていた。
今俺が出来ることは彼女を冷静に見守り、対応することだ。俺が取り乱せばローズもゆっくりと休めないだろうし、そんな奴を頼ろうともしないだろう。
俺は一晩中彼女の看病をしていたがいつのまにかローズの寝ているソファに寄りかかったままうたた寝をしてしまっていた。魔法や戦闘訓練よりよほど看病をする方がも疲労感を感じた。
だがローズがモゾモゾと動いたのを感じて俺の意識も浮上してハッと顔をあげた。すぐに彼女の顔を覗き込むと熱を帯びていた頬から赤みがひいていたことに安堵した。俺は彼女の頬を撫でて、
「体調はどうだ?まだ熱があるみたいだから無理するなよ?何か欲しいものあるか?」
「えっと…スープかな…」
彼女の返事を聞いて俺は思わず笑顔になった。昨日までのか細い声のとは違いだいぶ声がしっかりしているし、食べ物を口にする気になってくれたことが嬉しかったのだ。
俺はローズの頭を優しく撫でて出来るだけ穏やかな声で、
「よし!今作ってきてやるからな!待ってろよ?」
そう言って俺はキッチンに向かった。
キッチンの横に備え付けてある食糧庫を開く。お姫様が使うにはあまりにも小さい箱形だが女の子が1人で暮らしてきたのであればこれで十分なのかもしれない。
しかし開いた瞬間、俺は絶句した。調味料くらいでろくな食材が入っていないじゃないか?!
自分で体を起こして俺が用意しておいた水を1人で飲んでいるローズの背中に向かって、
「お前、今までなに食って生きてきたんだよ?」
と声をかけた。こんなんじゃ具無しのスープしか作れねぇ…。
ローズは座ったまま少し振り向くと、
「お野菜やフルーツは植物達が分けてくれるんです。お肉や魚はあまり得意ではないのですがどうしても必要な時はサンタさんがプレゼントしてくださいます。それにデューイお兄様がいらっしゃる時はお土産を持ってきて下さいますし、他に必要なものはサンタさんかお兄様にお願いすれば…」
「ちょ、ちょっと待てよ!…『サンタさん』って誰だ?」
俺は大きな声を出してローズの話を遮った。
サンタって…、あのサンタクロースか?!クリスマスイブに来る?!お前は1年に1回しか来ない奴に肉や魚を欲しがるのか?!しかもおもちゃとかをお願いしないで食糧をお願いしているのか?!
するとローズはキョトンとして、
「サンタさんは欲しいものをお願いするとプレゼントしてくれるんです。ほら、あそこ…」
ローズは部屋の隅にあったもみの木を指差す。そこには小さな小箱が置かれている。プレゼントと言うには包装もされていない白い箱…、あんな箱昨日までなかったぞ?俺はキッチンから出て白い箱に歩みよった。
もみの木は俺の背丈よりは小さいが妙に立派で青々とした葉がもっさりと生え、床に根を生やしまさかの自生していやがる…。色々規格外すぎなんだよな、この部屋。
俺は警戒しながらも白い箱に触れてみると転移魔法の痕跡を感じた。どやら『サンタさん』はクリスマスとは関係無しに来てくれて、しかも転移魔法でプレゼントを届けてくれるらしい。
白い箱を持ち上げてみるとなかなかずっしりと重い。白い箱とローズの顔を何度も見てから、
「開けても?」
と聞く。
ローズはコクコク頷いて、
「もちろんです。アクセル様の為にお願いしたものですから」
と言って、また水を飲む。
「俺のため…?」
恐る恐る箱を開けてみる。中には保存魔法がかけられた肉や魚、ハムや卵等の食糧が詰め込まれていた。俺は肉の塊をひとつ手に取った。上等な牛肉…この部屋に来てやっとお姫様らしい高級品を見たような気がするぜ…。
驚く俺にローズが説明を続けた。
「私は食べませんがアクセル様には必要になるかと思ってお願いしておいたんです。何がお好きなのかは分からなかったのと私自身あまり詳しくないので『男性が喜ぶ食材』をお願いしてみたのですがいかがでしたか?他に必要なものがあればサンタさんにお願いすれば次の日の朝には届くんですよ」
なんだよその宅配システムは?!絶対普通のサンタさんじゃねぇだろ!だが、この食材はありがたくいただくことにした。
サンタさんについては謎が多いがこの何重にも重ねられた結界のなかで許されている転移魔法なのだから一応安全なのだろう。今はサンタさんについては考えないようにした。
この部屋に来てから俺は植物達が用意してくれたフルーツとハーブティーしか口にしていない。ローズの神聖力が宿ったフルーツもハーブティーも口にすれば体力は回復し空腹はまったく感じなかったがどうもそれだけじゃ味気なく感じていたところだ。もちろん美味しいのだが…なにか物足りない。
俺は食糧庫に食材を移しながら、
「ありがとうな!その…サンタさんによろしく伝えといてくれよ!また頼むって!」
俺がキッチンに再び立った頃にはキッチンカウンターには新鮮な野菜がつまれていた。蔓が隣の温室から運んでくれたんだろう。こんな神聖力入りの新鮮な野菜を用意してもらえて上等な肉をもらえたらここでの食事には困らなそうだ。
「待たせたな、今すぐスープ作ってやるから待ってろよ!」




