20 置き土産
俺を部屋に連れていった時の素っ気ない態度も、植物達がドアノブを押さえたのも草玉でローズを隠したのも全部デューイのせいで凍りついていることをばらされたくなかったってことか…。
だがデューイは俺に『湯タンポになれ』と一番始めに言ってきた。それに自分は炎魔法が使えるようになりたいとも…。
「デューイはお前のその状態に気付いてると思うけどな」
ローズはうつむくと、
「もしかしたら…。でも言ってしまったら…ハアハア…お兄様はもう来てくれないと思うんです…」
なるほど。1人閉じ込められているローズにとってはデューイと言う存在は唯一の会える人間なのだろう。
だが不思議なのはデューイは自分の氷魔法は無効化できんじゃないか?と言うことだ。
俺が子供の頃にあいつに凍らされたときはあいつが溶かしてくれた。やっぱり魔法の影響を受けやすいローズでは勝手が違うんだろうか…。
俺はローズの横に腰かけた。どうも隣にちょこんと座っているローズが小さくてかわいく見えて仕方ない。デューイが
「まぁいい、俺がいつでも温めてやるからいつでも言えよ」
ローズはコクコクと頷くと、
「では温めてください?」
「は?!今か?今さっき温めてやっただろう?」
「でも、寒いんです…」
そう言ってローズは小さな両手を俺の手にのせた。
確かに冷てぇな…。さっき温めたばかりだってのにまた氷の様に冷たい。それに完全に消したはずのデューイの魔法の痕跡をまた感じた。
「取りきれてなかったのか…?そりゃ悪かったな」
俺はそう言うと、ローズの手をさすりながらまた俺の熱を注ぎ込んでゆく。ローズの小さな手はあまりにもひ弱に感じてしまい、俺は壊さないように優しくあつかった。
今度こそ完全に取り除くとローズの頭をポンポンと撫でて、
「ほら、今度こそ大丈夫だ」
ローズは自分の両手を見つめる。今度こそお礼を言われると思ったが、
「まだ寒いです…」
「は?!」
今度は俺からローズの手を握る。確かにまた冷たくなっているし、デューイの魔力を感じる。
俺は困ったように頭をガシガシかきながら、
「なんでだ…?」
今までこんなことはなかった。デューイの氷を溶かせるようになってからは色々なもので練習をしてきたし、採用試験の時が実際に人を相手にしていた。もちろん一瞬で溶かすほどのことは俺にはできないが、それでも一度消せばデューイの魔法の痕跡は完全に消せていて再発することなんてなかった。
「魔法の耐性がないのは不便だな…」
俺が呟くと、ローズは不思議そうに首をかしげる。
15歳なんてまだまだ子供だ。しかもローズはずっと部屋に閉じ籠っていたせいで経験する場もなかった。これからの生活は全てのことが手探りになりそうだ。
ローズは嫌かもしれないが一度デューイの魔力に当てられただけでこんなに影響を及ぼすのであれば会うのは危険だ。
俺はローズを見た。まだ会ったばかりの俺がデューイに会うのは危険だと伝えたところで反発するだろう。それにこんなに可愛らしい琥珀色の瞳に見詰められちまったらさすがに何も言えなくなっちまう。
だが一瞬、ローズの瞳が揺れたのを俺は見逃さなかった。
「んッ?」
目線の先には大きな窓があった。デューイが作った窓…。そう言えばあんなに暑かった部屋がもう涼しくなり始めている。
俺はジト目でローズを見下ろすと
「なんかまだ隠してるだろう?」
ローズはピクッと肩を振るわせて手を引っ込めようとするが、俺はそれを逃さず握っていた手をさらに強く握った。
さっきまでは繊細なガラス細工を扱うように優しく触れていたが今は手加減なしだ…と言っても痛くなるような強さではない。俺が本気を出してしまったらローズの骨など簡単に折れてしまう。
俺は顔を近づけて、
「早く言った方が身のためだぞ?」
と少し脅してやる。ここまですればさすがに吐くだろうと思ったのだが、予想に反してローズは瞳をウルウルさせる。
恐すぎたか?!190センチの大男が圧をかけてるんだからな…。
ローズは口をパクパクさせて小さく震える。めんどくせぇな…、やっぱり女の子ってのは扱い方がまったくわからねぇ…。
俺はため息をついてからローズの頭にポンッと手をのせた。叩かれると思ったのかローズは目をギュッと固く瞑り体を縮こませたが俺がその手をそのまま撫で下ろすと恐る恐る瞳を開いた。俺はそのまま優しく頭を撫でてやりながら、
「俺に秘密は禁止だ。お前を護衛する上で大事なことだから、分かっていることは全部俺に教えろ。半信半疑でもいいから俺に言え。デューイに内緒にしてほしいことは内緒にしていてやるから俺を頼れ」
優しく話してやるとローズは少し考えるように目を伏せたがすぐに顔をあげてコクコクと頷いた。
ローズは手をもじもじさせながら、
「お兄様に触れられるといつも凍えてしまうのです。今日はお兄様に長い時間手を握られていましたし、帰り際にキスもされましたから…特にひどかったんだと思います…」
「なるほど。確かに手や頬が特に冷たかったな、実際は頬じゃなくて額だったんだろうが…」
そしてまたローズは窓を見ると、
「たぶん今寒いのはあの窓のせいだと思います…」
俺はそう言われてすぐに立ち上がった。
「お前はそこに座ってろ…」
俺に続いて立ち上がろうとするローズを後ろ手で制した。もし原因が本当にあの窓ならローズを近づけない方がいいだろう。
あんなに暑かった部屋が涼しくなったり、ローズの体内に残るデューイの魔法の痕跡を何度消しても再発させたり…。まったく、厄介な置き土産を残していってくれたもんだぜ…。
俺は窓ガラスに触れて目を閉じた。




