13 護衛対象者
「お、おいちょっと待ってくれよデューイ!俺は王族の護衛として雇われたんだぞ!その食いしん坊大じ…」
俺の抗議が言い終わらないうちにローブの女が顔をあげて俺は言葉を飲み込んだ。今日はフードは被っていない。栗色の長い髪を結い上げてアップにし、琥珀色の瞳…。デューイのような妖艶さはまったく感じないがクリッとした大きな瞳でとてもかわいらしいのは否定しないが容姿端麗で知られるヴァルデロスはかわいいと言うより綺麗な者ばかりだ。ヴァルデロスの血は絶対にひいていない外見…。見た目はだいぶ幼い。15、6といったところか?身長も低いな、150センチもないんじゃねぇのか?まさか内緒の婚約者か?!!
その白いローブの女はデューイを見るなり瞳を輝かせデューイにかけより抱きつく。おうおう、ラブラブじゃねぇか?!やっぱりな、このかわいいこちゃんはデューイの恋人で間違いない。しかも許嫁や政略結婚の類いではなく本当に愛し合っているみたいだ。デューイのこんなデレデレした顔なんて初めて見たぜ!デューイはローブの女の頭を優しく、そして愛おしそうに撫でると
「ダメじゃないかローズ、カデルの前で…」
なるほど、俺の護衛対象者の名前はローズと言うんだな。なかなかかわいい名前じゃないか…、だが俺の前でイチャイチャするんじゃねぇよ!いつまで抱きついて見つめ合っているんだ?まぁ、婚約者の護衛とはちょっと拍子抜けだがデューイが子孫を残すことはこの国の存続に関わる最重要課題と言っても過言じゃねぇ。婚約者の護衛は俺の望んでいた任務じゃねぇがこれも大事な仕事なことに変わりはねぇな…と、なんとか自分自身を納得させようとした矢先、白いローブの女は満面の笑みでデューイを見上げて
「だってお兄様にお会いするの久しぶりなんですもの!」
「お兄様ぁ〜?!!!!!!!!!」
俺は思わず大きな声をあげた。このヴァルデロスの容姿を完全に無視した容姿の女が妹?!そこで俺ははっとして手を叩いた。
「あぁ、腹違いか…」
ルーク様も確か美形で知られていて優秀な研究員で、ご健在の頃はファンクラブもあったくらいだとお袋が話していたのを思い出す。残念なことに浮気をしていたのだろう、貴族社会にはよくある話だ。隠し子ってやつか…。
するとローズはデューイに抱きついたまま頬をぷっくりと膨らまして、
「失礼な方ですね。私はローズ・ヴァルデロス。母はマリア、父はルーク。正真正銘のデューイお兄様の妹ですわ!」
「はぁ?!だって、その見た目…」
俺は反論しようとするがデューイが遮るように
「話すと長くなるんだよ。ローズ、お茶をいれてくれるかい?カデル、こっちへ」
デューイはそう言うとローズの腰に手をまわしてまるで繊細な宝物を扱うように優しくエスコートする。温室の隣の部屋…、扉を開けるとそこは独身部屋のように小さなリビングキッチンがあった。ローズは白いローブを脱ぐとコートかけにローブをかけた。確かに大きなローブで隠されていたがあんなに食いしん坊なくせにかなり細身だ。ウエストなんてぺっちゃんこ…胸は少し大きいが…やっぱりヴァルデロスの人間にしては妖艶さがまったくもって足りない!
俺がローズを目でおっているとデューイが少し不機嫌そうに
「そんななめるような目でかわいいローズを見つめないでくれるかな?…さぁ早く座ってくれ」
俺はそう言われてデューイに目をやる。そこにはこれまたちいさな丸い木製のテーブルに丸太を切っただけの椅子が4脚…。王族のものにしては装飾も飾り彫りもされていない質素な作りだ。チラッと目をやるとローズは鼻唄交じりにお茶の準備をしている。俺は肩をすくめてため息をつくとデューイの向かいの席に腰掛け、
「ヴァルデロスのお姫様がメイドも執事もなしでお茶を自分でいれるのか?」
デューイは腕を組んでふんぞり返る。いつもの妖艶な雰囲気はどこにいったんだ。もしかして俺がローズをすこし見下すような態度をしているから怒ってるのか?
「いいかいカデル。ローズはこの国の唯一のプリンセスだ。君はこれから24時間体制でローズを守る。もちろんこの部屋のセキュリティーは万全だから24時間ずっと気を張っていろとは言わないが彼女の執事やメイドの役割も君が担…」
「ちょ、ちょっとまて!俺が執事?メイド?なんの話だ?」
俺が困惑し、身を乗り出した時ローズがトレーにティーセットを持ってやってきた。ローズは俺とデューイの間の席にちょこんと座るとティーカップにお茶をそそぎながら、
「もしかしてお兄様、カデル様になにもご説明をされていなかったのですか?」
「説明しても信じてくれないと思ってね。見た方が早いだろう?」
ローズはただでさえ大きな瞳をさらにまん丸く見開いて、
「まぁ、呆れた…」
そう言うとローズはデューイと俺にそれぞれカップを差し出した。紅茶にしてはずいぶんと緑色な見たことのない液体で嗅いだことのない香りのする紅茶だ。カップに淹れられた緑色の液体をまじまじと見ている俺に向かってローズは、
「ハーブティーです。私が育てているハーブで作った体にいい飲み物ですから安心してください」
さっきまでデューイに抱きついていた甘えん坊の食いしん坊だと思っていたが落ち着いて話すと妙に安心感のある声だ。白を基調としたドレスは無駄な装飾は一切ないしプリンセスのわりにはジュエリーも一切つけていない。まとめ上げた髪に淡いピンク色の生花が飾られているのが唯一のおしゃれと言ったところか。正装のデューイと比べるとだいぶ質素だ。
そしてやっぱり顔もまったく似ていない。髪色や瞳の色だけでなく、まったくもって兄妹には見えない。しかし、2人が嘘をついているようにも見えなかった。
俺は考えを整理する時間がほしくて生まれて初めてのハーブティーをゆっくりと一口飲む。紅茶に比べると味も香りもまったくパンチがないがほのかな甘味を感じる。それに不思議と体が軽く感じリラックスしている。なるほど・・・妹は植物魔法を使うみたいだな。しかもかなりの使い手なんだろう、俺の体内の魔力が漲るのを感じる。
俺は大きくため息をついてから、
「わかったよ。1からちゃんと話してくれ。全部わかるようにな」




