12 配属先は…
家をでる俺の荷物はバッグひとつで事足りた。デューイの話では服は制服が用意されるらしく、部屋も用意され身の回りのものも要望を出せば全部揃えてくれるビッグ待遇だった。家を出れば当分の間帰ることはできないが親父もお袋も合格を伝えた日は喜んでくれたし、家を出発した時は涙を流して見送ってくれた。
俺は採用決定通知書を握りしめ城の門を叩いた。だが叩いてから気がついた…
なんで正門じゃなくて裏門?やっぱり城で働く者は裏から入るのか?それにしてもこの裏門、小さいし、目立たねぇし朽ちたような木製の門だ。…大きくて立派なヴァルデロス城には不釣り合いっていうか…?
「だいぶボロボロ…んッ?まてよ、門番もいねぇじゃねぇか。ここから侵入されたらどうするんだよ。しかもツルまで巻き付いていやがる」
俺はそう言うと門を押してみた。ギィーと軋んだ音はするもののなんの抵抗もなく門は開いた。
「マジか?!鍵もねぇのかよ!!!」
すると聞き覚えのあるクスクスと言う笑い声が聞こえた。デューイが塀に寄りかかり俺の反応を見て笑っている。俺はため息をついてから門を閉めた。
「おい、デューイこの城のセキュリティーはどうなってんだよ?ここから攻め入られたらひとたまりもねぇだろ?」
デューイはアカデミーの時とは違う正装だった。やっぱりこの国の王子なんだな。平民の俺とは着ている物の生地から違う。俺は今日からこいつの護衛に当たるのか…、分かっていたことだが俺達の関係は今日からは同級生でも友でもなくなるのだ。やっぱりアカデミーの時のようにフランクに接する訳にもいかないだろう。俺は咳払いをしてから、
「デューイ様、本日より…」
「あぁ、そういうのいいから!」
俺がせっかく膝をつこうとしてるのに軽くあしらわれてしまった。190センチの高身長の俺が中腰のまま固まる。
「さぁ、君の部屋に案内するよ。君には特別な部屋を用意したんだ!これから住み込みになるけど出入りはこの裏門だけにしてくれよ?君は正門使うの禁止だからね?」
デューイはそう言うと門に触れた。その瞬間朽ちた木製の裏門はみるみる他の石造りの高い塀へと変わり完全に城を守る塀と同化した。俺はそれを口を開けたまま見守った。
「あのボロボロに朽ちた門は魔法の門だったのか?」
「この門はね、限られた者しか通さないようにできているんだよ。通れるのはヴァルデロスの直系、それからカデル…君だけだよ」
「へぇ…イエンツォ様とお前しか通ることのできない門に俺も仲間入りとはな。山ほどスイーツを作らされただけのことはあったな」
デューイはクスクス笑って歩き出す。俺は持っていた肩掛けのバッグをひょいっとしょい直して後に続いた。
「確かにあの採用試験では君はよくやってくれたよ。あの場にいた者で君に不合格を出した者はいなかったよ。完璧な満場一致合格で…と言っても言葉遣いだけは直す必要があるとの意見はあったけどな」
「そりゃぁどうも…。そう言えばあのローブの大臣は何者なんだ?魔女か研究者なんだろうがずいぶんと食いしん坊なやつだったな」
「あぁ…彼女?驚くと思うが彼女はあれでいて少食なんだよ。食事を抜くことも多くてね、ローブに隠された彼女の体はとても細いんだよ。僕も彼女の体調を心配していることが多かったんだが、があんなに食べるところを僕も見たことはなかったから驚いたよ!それに彼女、試験の後に余り物を全部持って帰ったんだよ?君にも見せたかったなぁ」
デューイはそう言って笑うと城の外壁に触れた。すると外壁に人が1人通れるくらいの小さな穴が現れた。穴の向こうは光りひとつなく暗闇の中へ螺旋階段が続いているようだ。俺は思わず口笛をならして、
「この城には秘密の入り口が何個あるんだ?」
「この城のどの外壁に触ろうと同じ部屋に繋がる階段が現れるんだ。もちろんこの入り口はさっきの裏門と同じでイエンツォおじい様と僕、そして君しか通ることはできない、開きかたは後で教えるよ。さて、申し訳ないんだけどね、光を灯してもらえるかな、カデル君?」
俺はフッと笑ってから人差し指を立てる。すると人差し指に小さな炎が灯った。デューイは満足そうに笑って暗闇に包まれた階段を登り始めた。俺は低い入り口に体を少し縮こませるようにしてくぐり中に入った。俺は炎の光を少しだけ強くする。螺旋階段はだいぶ上まで続いているらしく先が見えない。俺はデューイに続きながら
「ずいぶん湿気の多い場所にあるみたいだな」
デューイはクスクス笑いながら
「部屋に行くまでは辛抱してくれ。でもこの階段も許された者しか登れないんだよ!もし許されざる者が登れば一生登り続け脱出することはできない魔法の階段だ。裏門に入り口、そしてこの螺旋階段。3つのセキュリティーに守られているこの城最大の極秘の部屋さ」
「なるほどねぇ、この国の唯一の王位継承者であるデューイ様をお守りする部屋は最高のセキュリティーで守られているってわけか?」
俺が冗談半分にそう言うとデューイは足を止める。そして俺を見下ろし
「言っておくけど君が護衛するのは僕じゃないよ?」
「ぁあん?!!なんだって?!!!」
俺は自分でも驚くくらいの大きな声をあげた。しかしこの螺旋階段は驚くほど声が響かなかった。恐らくこの闇に音までも吸い込まれ、外に助けを求めることもできないようになっているのだろう。そう言えば足音も響いていなかった。いや、今は音のことはどうでもいい!俺は『王族護衛騎士兼料理人』として採用されたのだ。デューイの護衛でなければ残る王族はただ1人、
「ま、まさかイエンツォ様の護衛?!」
デューイは腹を抱えて笑い出す。そんなに笑ってるところ見たことねぇぞ!!一発芸をかました記憶は俺にはねぇ!
「笑い事じゃねぇだろ!!国王の護衛なんて…そ、そんな大仕事だったとは…いやもちろん受けねぇわけねぇんだが、面識って言ってもあの採用試験の時だけで…それに俺、おまえとはフランクに話しているがイエンツォ様にはそうはいかねぇだろ?喋りには自信ねぇよ…」
デューイは笑いをこらえながら歩き始める。いつもの妖艶な笑い方でもなくかわいらしい笑い方でもない。ガチで笑うときはおまえそんなに無防備な笑い方すんのかよ!!!10年の付き合いだが見たことねぇぞ!!!
そして階段はひとつの扉の前で終わった。デューイはその扉を押し開く。重圧な扉が開くと眩しさに目が眩みそうになる。外か?!いや窓ひとつない室内だ。光り魔法で照らされているだけだが、まるで植物園のように木々がそびえ水が流れている。
「温室…か?」
そして見覚えのある白いローブ姿の…あの試験の時の食いしん坊大臣が花の世話をしていた…。俺は口を開けたまま立ち尽くしていた。なんでこいつがいるんだ?と…そんな俺にデューイは
「君が守るのは彼女さ」




