九日目:補足・復習編その1「まだまだ知らないことが一杯あるッス……」※問題文解答!
文章作法の総まとめ、その他補足。小説講座というよりも日本語講座に近いかもしれません。
※8/16 9:30ごろ、八日目の[問九]と[問十]の内容を修正しました。問題の要点は変わっていないので、読み返すほどのことではありませんが。……しかし、いくらなんでもあの内容は酷過ぎた……。修正した今も酷いけどね。
【簡易人物紹介】
一彦:男、ツッコミ、解説。
双葉:女、腹黒、S、調教師、解説補助。
三波:女、後輩、天然ボケ、質問。
「うりゃぁー! やってきたッスよコンニャロォー!」
「今日はまた、随分とテンション高いな……」
「どちらかというとやけくそ気味ですね」
「だって、難しかったッスよ……。フタバ先輩の問題、ややこしすぎるッス」
「そうなのか? 実はまだ俺は見ていないんだが……」
「あら、それなら一彦さんも解きながらやってみませんか?」
「それがいいッス!」
「というか、実は解答例を作るのを忘れていたので、ついでにぱぱっと作っちゃってください」
「おいおい……。まあいい。お前も、俺が間違っていた場合は指摘して訂正してくれよ」
「はい。それでは、答え合わせと参りましょう」
【問題(双葉作成)】
小説における文章の決まり・文法に従い、問一から問十について文章に間違っている部分があればそれを正しく直せ。ただし、『縦書き』原稿での一般的な決まりに従うこと。
※以下、各修正箇所を山括弧〈〉で囲みます。
「まずは問一――――初っ端からややこしい問題出しやがって……」
「え? どこがややこしいッスか?」
「うふふ……」
「三波の解答は……ああ、なるほど。まず、前提として『ただし、縦書き原稿での一般的な決まりに従うこと』という制限があったことを思い出してくれ。なんだ、ただの国語の漢字間違い探しのテストか、なんて思った奴は間違えている可能性が高い。解答例はこうだ」
[問一;問題文]
今日は8月22日、和彦の二十五歳の誕生日だった。和彦はこのとき、牢獄の中でとある計画を実行に写そうとしていた。計画を細部まで思い出すために一週間前のことを回送する。
[問一;三波の答案]
今日は8月22日、和彦の二十五歳の誕生日だった。和彦はこのとき、牢獄の中でとある計画を実行に〈移そうと〉していた。計画を細部まで思い出すために一週間前のことを〈回想する〉。
[問一;正答例] (漢字変換間違い、漢数字についての問題)
今日は〈八月二十二日〉、和彦の二十五歳の誕生日だった。和彦はこのとき、牢獄の中でとある計画を実行に〈移そうと〉としていた。計画を細部まで思い出すために一週間前のことを〈回想する〉。
「漢字変換の間違いは、言うまでもないだろう。問題は日付の部分だな」
「〈八月二十二日〉……? 〈8月22日〉じゃあダメなんスか?」
「駄目だ。横書きならばそれでも正解なのだが、ここで注意すべきは、問題文に『縦書きで』と制限されていることだ。縦書きにおいては、普通、数字はアラビア数字(1、2、0など)ではなく漢数字(一、二、〇など)で書かなければならない」
「え~、聞いてないッスよ~……」
「言ってないからな。今知ったんだから良しとしておけ」
「補足ですが、『二十二日』を『二二日』、『二十五歳』を『二五歳』としていても正答です。位を表す『十』『百』『千』は省略することが多いためです」
「他に例としては、『一千五百万円』を『一五〇〇万円』と表記する場合が多い。なぜそうするのかというと、視覚的に分かりやすいからだな」
「確かに、一瞬で金額の大きさが理解できるッスね」
「また、年号は必ず『二〇一〇年』のようにすべきです。新聞などで『平成二十二年』などと書いているのは見たことがないでしょう?」
「うむむ……奥が深いッス。とりあえず“縦書きでは漢数字を使う”ってことだけ覚えていればなんとかなるッスかねー?」
「そうですね」
「纏まったところで、次だ。問二は――――これまた結構意地悪だな……」
「そうでしょうか?」
「白々しい」
「どういうことッスか?」
「三波の解答は……ふむ、やはりか。解答例はこうだ」
[問二;問題文]
和彦がこの鉄格子の牢屋に入れられてから数日―おそらくは四五日―は経っただろうか、その間、誰も彼の元へ訊ねて来る者はいなかった。
[問二;三波の答案]
和彦がこの鉄格子の牢屋に入れられてから数日〈――〉おそらくは四五日〈――〉は経っただろうか、その間、誰も彼の元へ〈訪ねて〉来る者はいなかった。
[問二;正答例] (ダッシュ、漢数字、間違えやすい漢字)
和彦がこの鉄格子の牢屋に入れられてから数日〈――〉おそらくは〈四、五日〉〈――〉は経っただろうか、その間、誰も彼の元へ〈訪ねて〉来る者はいなかった。
「“ダッシュは二つ一組”で使うことを覚えていたのはいいな。『たずねる』もよく気がついた」
「『訊ねる』は質問すること。『訪ねる』は人の家などへ訪問することですね」
「あざーッス!」
「が、問題は『四五日』だ。縦書きで見るとこれは『四十五日』に見えるぞ? 前に『数日』とあるから、『四日または五日』という意味ということがわかるはずだ。そして“漢数字を連続して使う場合、漢数字の間に読点を入れる”のが普通だ」
「むうぅ……」
「ちなみに、『おそらくは四、五日』を『四日か五日ぐらい』などのように言い換えていても正解です」
「次、問三――――一気に難易度が下がったか?」
「これなら正解できそうッス」
「ふふふふ……」
「あ。一つ、微妙なのがあるな……三波の解答を正解とすべきかどうか迷うんだが……」
「ええっ?」
[問三;問題文]
和彦は牢獄からの脱走を考え始めてた。脱獄するにはどうすればいいのか、計画を周到に練ります。
[問三;三波の答案]
和彦は牢獄からの脱走を考え〈始めていた〉。脱獄するにはどうすればいいのか、計画を周到に〈練る〉。
[問三;正答例] (い抜き言葉、常体と敬体、訛りや話し言葉)
和彦は牢獄からの脱走を考え〈始めていた〉。脱獄するにはどうすれば〈よい〉のか、計画を周到に〈練る〉。
「まずは地の文の“い抜き言葉”。で、“敬体と常体の統一”だな」
「それは前回やったばかりだから分かったッス。でも、〈よい〉ってのは……?」
「元々、『良い』が訛って、俺達は普段、『いい』と発音しているわけなのだが……」
「『言う』を『ゆう』と発音するのと同じですね」
「それを文章で書くのはマズイってことッスか?」
「ううむ……どうだろうな。『ゆう』の方は確かにそうなのだが……『いい』の方は硬い文章でなければ別に構わないような気がしないでもない」
「うーん、どうでしょうね」
「そんなややこしいものを問題に出すなッスよ……」
「まったくだ。一応、三人称視点での地の文では『よい』を使った方がいいとだけ言っておく」
「結局アタシのは正解なのか、不正解なのか……」
「あー……三角?」
「微妙に納得いかないッス……」
「問四は――――今度こそ簡単だな。むしろ簡単すぎて、他にどこか間違いがないのかと疑心暗鬼になりそうだ」
「これは正解の自信があるッス!」
「……実は、問五を書くために、繋ぎとして適当に入れただけだったりして……」
「おい、ぼそっと暴露するんじゃねえ」
[問四;問題文]
まず考えたのは、古典的な手法。ずばり、食事時に持って来られるスプーンを使った脱走手段だ。即ち、スプーンで壁や床を掘り進めるというものである。
[問四;三波の答案]
〈 〉まず考えたのは、古典的な手法。ずばり、食事時に持って来られるスプーンを使った脱走手段だ。即ち、スプーンで壁や床を掘り進めるというものである。
[問六;正答例] (段落初頭の一字空け)
※三波の答案に同じ。
「“段落の初めに一字空ける”こと。ただそれだけの問題だ。ちなみに『即ち』は『すなわち』と読む。『つまり』『要するに』などと同じ意味合いだな」
「やっと普通に正解したッスー!」
「ヨカッタナー」
「な、なんで片言なんスか!」
「ヨカッタデスネー」
「フタバ先輩まで!」
「さくさく進めるぞ。問五――――詰め込み過ぎだろ……問四との落差が酷い。文章も長すぎるし」
「これは難しかったッスよ……」
「ちょっとした難問ですね」
[問五;問題文]
和彦は、囚われている牢屋の中の壁を観察して見る。どうやらコンクリート製のようだ。床も同様。しかも、汚れがほとんど目立たないことから考えて、建造されてから間もなさそうである。これをスプーン一本で掘り進めるなど、苦行どころではなく、たぶん絶対に無理だろう。そんなことを考えていると、牢の入口の方から誰かの足音が聞こえてきた。その人物は和彦の牢の前で足を止めると、声をかけてきた。
[問五;三波の答案]
和彦は、囚われている牢屋の中の壁を〈観察する〉。どうやらコンクリート製のようだ。床も同様。しかも、汚れがほとんど目立たないことから考えて、建造されてから間もなさそうである。これをスプーン一本で掘り進めるなど、苦行どころではなく、たぶん絶対に無理だろう。そんなことを考えていると、牢の入口の方から誰かの足音が聞こえてきた。〈
その人物は和彦の牢の前で足を止めると、声をかけてきた。〉
[問五;正答例] (重言、用法間違い、改行)
和彦は、囚われている牢屋の中の壁を〈観察してみる〉。どうやらコンクリート製のようだ。床も同様。しかも、汚れがほとんど〈見当たらない〉ことから考えて、建造されてから間もなさそうである。これをスプーン一本で掘り進めるなど、苦行どころではなく、〈〉絶対に無理だろう。そんなことを考えていると、牢の入口の方から誰かの足音が聞こえてきた。〈
その人物は和彦の牢の前で足を止めると、声をかけてきた。〉
「三か所も間違えたッスか……」
「いや、二か所だ」
「へ? でも、正答例とは三か所違ってるッスけど」
「一行目の『観察して見る』。これは、実は二つ解答法があるんだよ。“重言”ととるか、漢字変換ミスか」
「じゅーげん?」
「そう言えば、前回は軽く流してしまいましたね。重言とは言葉の意味が重複しているものを指します。説明しても分かり難いでしょうから具体例を出しますと、『後で後悔する』『頭痛で痛い』などが重言です」
「あー、確かに意味が重なってて、なんか変な感じッスね」
「『観察』という単語にはそれ自体に『見る』という意味が含まれているから、『観察して見る』では重言となる。単に『観察する』でいいということだ。重言だという知識はなくとも、三波は半ば無意識に不自然だと感じたんだろう」
「じゃあ正答例の方は何なんスか?」
「ここの『見る』を試みの意味の『~してみる』だと解釈した場合、『みる』は平仮名で書かなければならない」
「なるほどッス。ここは〈観察する〉と〈観察してみる〉の両方が正解なんスねー」
「なんだか国語の授業の様相を呈してきましたね……」
「まあ、小説執筆なんて、詰まるところ国語の授業でやったことの応用だからな」
「むぅ……。じゃあ、この『汚れがほとんど目立たない』を『汚れがほとんど見当たらない』に訂正してるのはどうしてッスか? 『目立たない』でもいいんじゃ?」
「間違っていると断言はしませんが、若干違和感を覚えますね」
「違和感ッスか?」
「『汚れが目立たない』だと、{汚れがそこにあると確信しているのに}汚れが目立たない、と言っているように聞こえるぞ。ここでは{汚れを探している}わけだから、『汚れが見当たらない』がより適切な表現だ。『目立った汚れがない』でもいい」
「細かいッスね……」
「確かに些細なことですが、小説の体裁としては、できるだけこういう“ニュアンス”も大事にしていきたいですね」
「了解ッスー」
「納得したなら次だ。『たぶん絶対に』、これは意味不明だな。『たぶん』は{可能性がある}状態のこと、『絶対に』は{確実}であることだから、どちらを言っているのか分からん。『たぶん』が『絶対に』を修飾し、{確実である可能性がある}と解釈できなくもないが、それもやはり不自然さが拭いきれないから、やめた方がいい」
「こういった矛盾を孕んでいる言葉は話し言葉では『たまによくあり』ますね」
「たまに、なのか、頻繁に、なのかをはっきりしてほしいッス……」
「それ、どちらかというと、ネット界の一部でのネタじゃないか?」
「言わなければ分かりませんよ」
「そうかもしれんが。で、この問題の最後、改行についてだな」
「“描写する人物の変更による改行”です。よく覚えていましたね、三波さん」
「へへーんッス」
「ただ、これはおそらく、反論もあるだろうな。改行の基準は人それぞれで意外と曖昧だからな。だからここで改行は相応しくないという意見があれば、甘んじて受け入れるつもりだ」
「度量の深いことですね。……三波さん、ここは『惚れちゃいそうッス』と言うところです」
「えっ……」
「聞こえてるぞ。変なことを刷り込むな」
「ちっ……」
「…………」
「次へいこうか。問六――――最多の間違い数だな。最後の二つが厄介だ」
「これは割と自信あるッスよー」
「そうなんですか……」
「なんでそんなに残念そうなんだ。喜んでやれよ」
[問六;問題文]
「おい。ここから出たいか。」
その人物は、低いような高いような、中性的な声でそう告げた。
……こいつは、なにお言ってるんだ?馬鹿馬鹿しい。
和彦は訝しみながらも、目の前の人物をじっと見つめる。
その人物の外見は……………黒。闇そのものから産まれ落ちたかのように黒いロングコート、光を決して通さないサングラス、夜に紛れる漆黒の髪。極みつけに、コートから微かにはみ出ている肌の色すらも、墨を塗りつけたかのように真っ黒だった。
年齢も性別も判別できないその人物に和彦が下した感想は、不気味だということのみだ。
[問六;三波の答案]
「おい。ここから出たいか〈〉」
その人物は、低いような高いような、中性的な声でそう告げた。
……こいつは、なに〈を〉言ってるんだ?〈 〉馬鹿馬鹿しい。
和彦は訝しみながらも、目の前の人物をじっと見つめる。
その人物の外見は〈…………〉黒。闇そのものから産まれ落ちたかのように黒いロングコート、光を決して通さないサングラス、夜に紛れる漆黒の髪。〈極めつけに〉、コートから微かにはみ出ている肌の色すらも、墨を塗りつけたかのように真っ黒だった。
年齢も性別も判別できないその人物に和彦が〈抱いた〉感想は、不気味だということのみだ。
[問六;正答例] (約物、助詞、日本語の表現)
※三波の答案に同じ。
「やったッス!」
「全て見抜かれるとは、してやられました……」
「だから素直に喜んでやれっての。一応解説もしておこう。まず一行目、“鉤括弧内の末尾には句点は要らない”んだったな。そして三行目、助詞『を』の使い方と“疑問符の直後の一字空け”。これらが間違っていたらもう一度はじめからやり直すところだ」
「セーフでしたね、三波さん」
「また最初っからは勘弁ッス……」
「次に、真ん中辺り。三点リーダは、ダッシュと同じく二つで一組だ。五個もあったら一瞬見ただけではわからないから引っかけ問題に近い気がするが、よく気付いた」
「引っかけポイントでしたのに……」
「ホントに性格悪いな……。次。『極みつけ』ではなく、普通は『極めつけ』と言う。たまに間違うことがあるから注意だ」
「これ、あやうく見逃すところだったッス」
「最後に、『下す』と『抱く』の違いだ。感想は『抱く』や『漏らす』が適切だな。『下す』のは、評価・結論・判断などだ」
「これは正直、見抜かれない自信があったのですが……やりますね、三波さん」
「ふっふっふ。甘いッスよー、先輩」
「とか言ってたら次の問題に足元を掬われるぞ」
「一彦さん、一彦さん」
「なんだ?」
「『足元を掬われる』ではなく、『足を掬われる』が正しいかと」
「…………」
「ぷっ」
「まさに足を掬われましたね。ちなみに、『足を掬う』とは、相手の隙をついて失敗させることです。まあ、一彦さんの場合は自滅ですけどね。『空き樽は音が高い』ということが証明されたのでしょうか」
「………………」
「せ、先輩。その言葉の意味はよく分からないッスけど、そのぐらいにしてあげてくださいッス。カズ先輩がヤバいぐらい凹んでるッス」
「いや、いい……。少し調子に乗り過ぎていたのは事実だ。そしてこいつが超ドSなのも事実だ」
「うふふ……」
「気にせず、次いくぞ。問七――――こいつ、やりやがった……。まさにドS」
「うーん、これ、難しかったんスよねー。どこが間違いなのか、判断しづらかったッス」
「ふふ……」
「怒るなよ、三波? 怒るならせめて双葉に怒ってくれ」
「へ?」
[問七;問題文]
「どうなんだ」
再び、その人物は問うてくる。
「そりゃ、出たいに決まっている」
和彦が投げやりに答えると、その人物はにやりと口元を歪め、さらに質問をしてきた。
「出て、何をする? 雪辱を果たすか? お前をこんな目に遭わせた奴に、同じ様な経験を味わわせてやるか?」
[問七;三波の答案]
「どうなんだ」
再び、その人物は問うてくる。
「そりゃ、出たいに決まっている」
和彦が投げやりに答えると、その人物はにやりと口元を歪め、さらに質問をしてきた。
「出て、何をする? 雪辱を〈晴らす〉か? お前をこんな目に遭わせた奴に、同じ様な経験を〈味あわせて〉やるか?」
[問七;正答例]
※問題文そのままが正解。
「ま、間違いがないとかありッスか――――――!?」
「出題直後の注釈のここ、読んでみろ」
「文章に間違っている部分があればそれを正しく直せ。……間違っている部分が、『あれば』、直せ……!?」
「ま、そういうことだ。古典的な引っかけ問題だな。しかも、間違いが詰め込まれていた問五と問六の後にこれを持ってくるとか、鬼畜すぎる」
「うふふふふふふふ……」
「…………」
「邪悪な笑いはやめろ……。三波が呆然としてるじゃねえか」
「あらあら。一彦さんに続いて三波さんもですか」
「……後でお前も撃沈させてやる……」
「ッス……」
「うふふ。では、補足です。雪辱は『果たす』あるいは『遂げる』ものですね。『雪ぐ』というのは(恥・汚名などを)晴らす、という意味ですから、『雪辱を晴らす』では重言になってしまいますよ」
「重言はそれぞれの“漢字の意味を考え”れば防ぐことができる。まあ、『雪ぐ』の意味を知らなければ、結局はわからなかっただろうが」
「む~……」
「そして、『味わわせる』は誤字ではなく、『味あわせる』の方が間違っている。『味わう』『味わい』とは言うが、『味あう』『味あい』とは言わないだろう? こうやって、“別の語尾に変化”させれば、その語が合っているかどうかを判断することができる。どちらかわからなくなったときに試すといい」
「な、なるほどッス……」
「狙い通りの間違いを犯していただけて、恐縮にございます」
「…………」
「…………」
「次だ、次。問八――――問七に続き、ややこしいものばかり集めたか……。というか、完全に国語の勉強だな、これは」
「うぁぁっ、嫌な予感がするッス……!」
「さて、どうでしょうね?」
[問八・問題文]
「…………」
和彦は相槌を打つことができなかった。
それは目前にいる『そいつ』の言葉を否定できなかったから――――ではない。それ以前の問題として、和彦は自分の心がわからなかったのだ。ここを出て、何をしたいのかが。出たところで、ここでしているのと同じく、暇を持て余すだけなのではないか、とも思う。
それを見た『そいつ』は、「まあ、いい」と続けた。
「出たいというなら、出してやろう。これを持っておけ」
そう言って、黒い名詞のようなものを差し出す『そいつ』。
受け取るか否か、一瞬迷った和彦だったが、『そいつ』はそれを鉄格子の中に投げ入れてきた。床を滑ってきたその黒い物体を、和彦は反射的に手に取る。そのカードのようなものは表面はつるつると滑らかだったが、裏面は砂を撒き散らしたかのようにざらついていた。
「これは――――」一体、と続けようとした和彦は、思わず口を噤んだ。
そこにはもう、『そいつ』はいなかった。
[問八・三波の答案]
「…………」
和彦は相槌を打つことができなかった。
それは目前にいる『そいつ』の言葉を否定できなかったから――――ではない。それ以前の問題として、和彦は自分の心がわからなかったのだ。ここを出て、何をしたいのかが。出たところで、ここでしているのと同じく、〈暇を弄ぶ〉だけなのではないか、とも思う。
それを見た『そいつ』は、「まあ、いい」と続けた。
「出たいというなら、出してやろう。これを持っておけ」
そう言って、黒い〈名刺〉のようなものを差し出す『そいつ』。
受け取るか否か、一瞬迷った和彦だったが、『そいつ』はそれを鉄格子の中に投げ入れてきた。床を滑ってきたその黒い物体を、和彦は反射的に手に取る。そのカードのようなものは表面はつるつると〈滑らか〉だったが、裏面は砂を撒き散らしたかのようにざらついていた。
「これは――――」一体、と続けようとした和彦は、思わず口を噤んだ。
そこにはもう、『そいつ』はいなかった。
[問八・正答例]
「…………」
和彦は〈相槌〉を打つことができなかった。
それは目前にいる『そいつ』の言葉を否定できなかったから――――ではない。それ以前の問題として、和彦は自分の心がわからなかったのだ。ここを出て、何をしたいのかが。出たところで、ここでしているのと同じく、暇を持て余すだけなのではないか、とも思う。
それを見た『そいつ』は、「まあ、いい」と続けた。
「出たいというなら、出してやろう。これを持っておけ」
そう言って、黒い〈名刺〉のようなものを差し出す『そいつ』。
受け取るか否か、一瞬迷った和彦だったが、『そいつ』はそれを鉄格子の中に投げ入れてきた。床を滑ってきたその黒い物体を、和彦は反射的に手に取る。そのカードのようなものは表面はつるつると滑らかだったが、〈裏面〉は砂を撒き散らしたかのようにざらついていた。
「これは――――」一体、と続けようとした和彦は、思わず口を噤んだ。
そこにはもう、『そいつ』はいなかった。
「ルビを無駄に振ることにより、どれが間違った読みなのかを推測し難くしたわけだな、これは……。あと、長すぎ。誰が長文を作れと言った」
「書いている内に長くなってしまいまして……。大丈夫です。残り二つの問題は短いですから」
「まあいいが。一応、間違いを列挙すると、相槌は〈あいずち〉ではなく〈あいづち〉、〈名詞〉ではなく〈名刺〉、裏面は〈うらめん〉ではなく〈りめん〉。この三つだけだ。他に文法上間違っている箇所はない」
「ダミーとして、『暇を持て余す』などを入れてみたのですが……」
「見事に引っかかってるな、三波……」
「うわぁーん、ッス!」
「弄ぶとは、手で何かをいじることや、好き勝手に扱うことを言う。だから、『暇』を弄んでいたなら、あまり暇ではなさそうに思えるな。文脈上、ここは『退屈』のような意味が入るはずだから、『暇を持て余す』が適切だ」
「暇は持て余すもの暇は持て余すもの暇は持て余すもの……」
「覚えたいのは分かるが、不気味だから背後でぶつぶつ呟かないでくれ……」
「一彦さんは弄ぶもの一彦さんは弄ぶもの一彦さんは弄ぶもの……」
「おいこら腹黒」
「一彦さんは女を弄んでポイ一彦さんは女を弄んでポイ一彦さんは女を弄んでポイ……」
「腹黒女の虚言はスルー腹黒女の虚言はスルー腹黒女の虚言はスルー」
「お二人は仲良しお二人は仲良しお二人は仲良し、ッス」
「…………」
「うふふ……」
「……次。漢字の読みについての補足説明だ。相槌など、『ず』と『づ』どちらか分からなくなった場合は、“その漢字単独でどう読むか”を考えればいい。槌は『つち』だから、それに濁点を付けて、『づち』になるわけだ。他にも『気がつく』だから『気づく』、『近くに着く』だから『近づく』など、“元の読みや語源を考え”れば判断しやすいものも多い」
「暗記だけが全てじゃないってことッスねー」
「詰め込み教育反対という感じですね。もっとも、その元の読みや語源を知らなければ意味がありませんが」
「あと、『滑らか』についてだが、実はこれは『なめらか』とも『すべらか』とも読める。『すべらか』は日常では滅多に使わないし、おそらく学校のテストではバツ印を付けられるだろうが、小説内ではたまに使われることがある」
「えぇー……どう違うッスか?」
「『すべらか』はどこか優美で艶めかしい印象を読み手に与える……ような気がいたします」
「気がする、ッスか」
「受け取り方は千差万別ですので。書き手側にも同じことが言えますけども」
「ま、このように、一般的にはそうは読まないが、小説の表現としてはあり得る読み方というのもあるわけだ。下手に『間違ってるぜバ~カ』とか言ってしまうとしっぺ返しを喰う場合があるので注意しておけ」
「そんな揚げ足取りするのはカズ先輩ぐらいッス」
「…………」
「空き樽は音が高い空き樽は音が高い空き樽は音が高い……」
「もうお前ら黙ってくれ……。最後に『裏面』だが、これは別に〈うらめん〉のままでも、一応は構わない」
「ただ、正式には〈りめん〉ですね。音訓の観点からすると、二字熟語では音読みと訓読みが混在する言葉はあまり望ましくないとされています。所謂、『重箱読み』と『湯桶読み』ですね」
「重箱と湯桶……?」
「重+箱が、音読み+訓読み。湯+桶が訓読み+音読みです。あ、別にこの言葉は覚えなくても結構ですが」
「可能な限り、二字熟語の中で音読みを使うなら音読みだけ、訓読みを使うなら訓読みだけ、とした方が“美しい”日本語になると言われることが多いのさ。反論もあるが。ただしこの問題においては湯桶読みの正誤以前に、この文には『裏面』の直前に『表面』という言葉があり、その読みが『ひょうめん』であることから、その“対”として〈りめん〉と読むほうが適していると言える。まあ、次点として『表面』を〈おもてめん〉と修正してもいいかもしれないが」
「まだまだ知らないことが多いッス……」
「だから、それを学んでいるんだろう」
「向上心さえあるならば、今できていなくても何の問題もありませんからね」
「う~ッス……」
「問九――――随分短いな。というか問題って、問十までだったよな? 次でちゃんとこの脱出劇の話は終わるのか?」
「…………」
「…………」
「なんだその沈黙は……」
[問九;問題文]
しばらく男のいたところを見つめていた和彦。しかし、男が消えてから一瞬後には頭を切り替え、脱出手段を考え始めた。
[問九;三波の答案]
しばらく男のいたところを〈、〉見つめていた和彦。しかし、男が消えてから一瞬後には頭を切り替え、脱出手段を考え始めた。
[問九;正答例](読点の位置)
※三波の答案に同じ。
「読点の位置に関する問題だな」
「『しばらく』という言葉がどこを修飾しているのかを、読点の位置によって明確にさせるのですね」
「『しばらく(男が)いた』のか、『しばらく(和彦は)見つめていた』のか、ってことッスよね」
「その通り。そして、その直後の文により、和彦が見つめていた時間はほんの少しだということが分かり、ここで正しいのは前者ということになる」
「ちなみに、『 しばらく〈、〉男のいたところを見つめていた和彦。』とすると、和彦が長い間見つめていたことになりますね」
「また、読点を打つのではなく、文章を並べ変えても構わない」
「〈男のいたところをしばらく見つめていた和彦。〉……って感じッスか?」
「正解。基本的に修飾語は、“その直後の単語を修飾する”場合が多いので、読点を打つよりはこのようにした方が自然だろうな」
「この問題文は非常にややこしいですね」
「自分で書いたんだろうが……」
「ところで、“ぎなた読み”というものをご存知ですか?」
「あからさまに話を逸らすんじゃない……ちなみに俺は知ってるが」
「アタシは聞いたこともないッスよ~」
「たとえば、このような文章はどうでしょうか」
わたしはいしゃです。
「『私は医者です』ッスか? ……あれ? 『私、歯医者です』とも読めるような気がするッスけど……?」
「ふふ。では、これはどうでしょう」
一彦さんって実は、じなんですって。
「えっ……カズ先輩、『痔』だったんスか……!?」
「違う! そして『次男』でもない、俺は一人っ子だ。適当なことを書くな、双葉!」
「うふふふふ……」
「ったく……。で、このように、文章の区切りなどを間違えて読ませたり、そう捉えられる文章を使った言葉遊びを、ぎなた読みと呼ぶ。ぎなた読みという言葉の由来については省略するが、興味があるなら調べるといい」
「さっそく調べてみるッス。どれどれ……ほほう、弁慶がなぎなたを――ッスか」
「ということで、“ぎなた”にならないためにも、読点は必要不可欠です、というお話でした」
「読点を使わなくても分かる文章にできるなら、そうした方がスマートな気がするがな」
「でも、書いた本人としてはなんて読むか分かってるだけに、他の人に指摘されるまで気付かないことも多いんじゃないッスか?」
「ですね……。その辺りも意識してしっかりと見直さなくてはなりません」
「そこから先は“慣れ”だな」
「とにかく書いて経験を積むこと、ッスね!」
「では、次へ行こう。いよいよラスト、問十――――これは……。なるほど、さっきのお前たちの沈黙の意味がよーく理解できた。――で、この問題を作成した双葉よ。物凄く言いたいことがあるのだが」
「アタシも、問題見た瞬間に思ったことがあるッス」
「なんでしょうか」
「……いや。まず、解答例からだ」
[問十;問題文]
文字通り、持っている手札は一枚。何に、どう使うのかはわからないが、『そいつ』の言を信じるならば、これが脱出の役に立つのだろう。
和彦の直感は、これがワイルドカードであることを指し示していた。これはきっと、希望の光となるに違いない。
和彦の大脱走劇はこれから始まったのだった。
――――完。
[問十;三波の答案]
文字通り、持っている手札は一枚。何に、どう使うのかはわからないが、『そいつ』の言を信じるならば、これが脱出の役に立つのだろう。
和彦の直感は、これがワイルドカードであることを指し示していた。これはきっと、希望の光となるに違いない。
和彦の大脱走劇は〈これから始まるのだ〉。
――――完。
[問十;正答例](正しい日本語)
※三波の答案に同じ。
「『これから始まったのだった』。うーん、なんとなく、変な言葉ッスよね」
「『これから』が未来を指しているのに、過去形の文章なのは不自然ということですね」
「一応、未来の視点から見ている(描写している)と解釈するならば、そのままでも正しくはある。が、不自然に思う人は出てくると思われるので、やはり修正した方が無難だろう」
「また、『~したのだった』という文は、過去形が二回使われていると捉えることができるので、少々くどいとも言えます。勿論、使わざるを得ないときもございますが……」
「文章は“読みやすい表現で書く”ことが基本だ。折角物語にのめり込んでいたのに、文章で変に引っかかると、流れを途切れさせてしまう。そうなると読者は現実に引き戻され、読書の面白みが半減してしまいかねない」
「何を取り違えたか、難解な語句をふんだんに使おうとしている人がいらっしゃいますが、読む人のことを考えれば、それもやめた方がよろしいでしょうね」
「でも、あんまり簡単な言葉ばかり使ってたら、子どもっぽい文章だとか思われないッスか?」
「いいや、幼稚な文と、簡易的表現を用いた文は全くの別物だ。とあるところで、こんな言葉を見かけた。個人的に名言だと思うので、ここに引用させていただく」
“本当に文章力がある人は、難しいことをやさしい言葉でわかりやすく伝えられる人です。”(出典:「ライトノベル作法研究所」第二研究室・文章力をつけるためには?http://www.raitonoveru.jp/howto/c.htm#03)
「難しい言葉をやさしい言葉で、ッスか……確かに、難しい言葉をそのまま使うより、そっちの方が難易度高そうッス」
「簡潔ながらも技巧を凝らした文というものはあるからな。言い回しを変えて説明したり、比喩を使ったり、昔の格言を引用したり……表現する方法はいくらでもある」
「その数ある表現の中で、やさしく分かりやすい表現を選ぶことが、文章力の有無に繋がるわけですね」
「三波の言う通り、それが非常に難しいんだけどな」
「精進あるのみ、ってやつッスね」
「そういうこと。まあ、表現云々の詳しい話はまた今度だな」
「それでは、今回はここまでですね。さあ、解散しましょう、すぐしましょう」
「まあそう急くな、双葉よ。解散する前に、一言いいか? この問題文の結末について、物申したいことがある」
「アタシもあるッス。たぶん、言いたいことは同じッス」
「……なんでしょう?」
「――投げたな」
「――投げたッスね」
「……。約束通り和彦編を完結させましたがなにか」(※約束=五日目【他の会話を引用する例】直後の会話)
「開き直るなよ」
「開き直っちゃダメッス」
「……作品は完結させることが何よりも肝要なのです」
「まさに打ち切り漫画的な終わりだけどな」
「打ち切りと完結は違うと思うッス」
「単なる練習問題用に即興で作ったのですし、内容は別にどうでもいいかなー、と……」
「その問題ですら適当に思えるのだが……」
「そうッスね。問八までと比べたら、最後の方は適当としか思えないッス」
「…………」
「まあ、作者のモチベーション低下による打ち切りや放置はネット小説ではよくあることだが」
「フタバ先輩がそんなことをするなんて……」
「………………」
「展開もいみふめー、しりめつれつだったッスからね。途中で面倒になった感がありありと出てたッスよ」
「三波もなかなか言うな」
「……………………」
「読み物としては最低ッスよね?」
「ああ、いや、うむ……」
「…………………………」
「しょしかんてつが守れてないッスよ」
「……落ち着け三波、その辺にしておかないとしっぺ返しが――」
「…………十問中、四問しか正解してないくせに……」
「お、おい、双葉?」
「うっ……。で、でもそれはこれから学んでいけばいいって――」
「確かに言いましたね。しかし、それはまだ先の話。今できていない事には変わりません。それを無暗に期待するのは、取らぬ狸の皮算用というものです」
「くっ……! わざと難しい言葉を使うなんて卑怯ッスよ!」
「これぐらいは常識の範囲ですよ? それすら知らないなんて、やはり高が知れますね」
「むむぅ…………。フタバ先輩って、実はいんぎんぶれいッスよね。それに、常にちぼうひゃくしゅつ考えてそうッス」
「……言うようになりましたね」
「カズ先輩の言う、腹黒って意味が最近分かってきたアタシッス」
「…………お、おーい、二人ともー……?」
「それに先輩、表面上は気取ってるッスけど、ほーかいりんきだったりするし」
「……そんな難しい言葉をよくご存知ですね。しかし、新しい言葉を仕入れたから使いたがっているようにしか思えません。それこそ、児戯に等しい。付け焼刃はすぐに剥がれてしまいますよ」
「……もはや俺には止められん……。女の戦いとはかくも恐ろしきものか……」
「なに一人だけ日和っているのですか一彦さん?」
「そうッスよ! だいだい、カズ先輩が最初にアタシをけしかけたんッスよ」
「え、いや……」
「そうです。第一、私に問題作成を依頼したのはあなたですよ? つまり、全ての元凶はあなたということです」
「それに、アタシたちがケンカしたら止めるのはカズ先輩の役割ッスよ」
「それを放棄するのは職務怠慢というものです」
「……そうなのか?」
「そうです」
「そうッス」
「そうか、それはすまん」
「分かればよろしいのです」
「分かればいいッス」
「……………………いや、ちょっと待て。よくよく考えてみれば、なんで俺だけが謝ってるんだ? 俺、そんなに悪い事なんてしてないような気がするのだが」
「夫婦円満の秘訣は、たとえ自分が悪くなくとも夫の方から身を引くこと、だそうですよ」
「ッスよー」
「理不尽な秘訣だ……。そしてその喩はもうやめろ」
「うふふふ……」
「くっくっく、ッス」
「……お前らが組むと本当に碌なことにならん……」
「それより、一彦さん。三波さんの小説の校正は一段落しましたよね。ここは一つ、原点に立ち返ってみては?」
「原点ッスか?」
「……成程。では、最後にもう一度、俺が修正したやつと見比べてみるか」
【三波の小説・暫定的完成版】
私の名前は陽麗奈。15歳の女子高生! 血液型はAだけど、全然マジメでもないし整理整頓が得意でもない。むしろ、苦手なんだよねえー。この間なんか自分の部屋でケータイ失くしちゃって、「どこ?」って涙目で探し回ったほど、私の部屋は汚いの。
そんな私だけど実は好きな人がいるんです。隣のクラスにいる、名前は和樹君っていう男の子。きゃ、名前で呼んじゃった! 恥ずかしい!
え、告白しないのかって? ムリムリ! 「おはよう」も言ったことないんだから……。
〈了〉
【三波の小説・一彦による修正版】
私の名前は陽麗奈。一五歳の女子高生! 血液型はAだけど、全然マジメでもないし整理整頓が得意でもない。むしろ苦手なのよねえー……。この間なんか自分の部屋でケータイ失くしちゃって、「どこ?」って困り果てながら探し回ったほどに私の部屋って汚いのよ。ヤんなっちゃうよね。
そんな私だけど、実は好きな人がいるの。隣のクラスの人で、名前は――和樹君。……きゃ、名前で呼んじゃった! 恥ずかしいなあ、もう。
え? 告白しないのか、って? ムリムリ! だって「おはよう」も言ったことないんだから――――
〈了〉
「……あれ? なんかまだ違うッスね?」
「まあ、勝手に心理描写を増やしたりしたからな」
「描写……ッスか?」
「うむ。今までやってきたのは、文章の書き方だけだ。だから、次からはもっと技法的・実用的なことを教えていこう」
「……え、次?」
「なんだ。これでもう卒業とでも思ったか? 今回までのは全部、基本ですらない、単なる常識だ」
「……ってことは?」
「次回からは描写などに関する基本的なことをお教えしますよ」
「ということだ」
「アタシの小説は?」
「ぎりぎり人に見せられるレベルでしかない」
「スタートラインに立ったところですね」
「…………やっと小説書けるって思ったのに………………」
「三波?」
「三波さん? どうかなさいましたか?」
「………………………………うがーっ!!」
「ぅおっ!? 三波が壊れた!」
「お、落ち着いてください、三波さん。別に学びながらでも小説は書けますので……」
「うがーっ!!」
「と、とりあえず、第九回目の講座的なものは終了だ」
「よっぽどストレスが溜まってたのでしょうか……」
「うががーっ!!」
閉幕。
以上、文章作法の総まとめでした。小説講座というより、日本語講座でしたね。
これにて文章作法編は完全に終了、第一部完、といったところです。『~については書かないの?』『~ってところが間違ってない?』『この解答が納得いかない』等々、何か書き足りていないものや間違っている箇所があれば、感想などにお書き下さい。私は言語学者ではありませんので、きっとどこかに的外れなことを書いていたりするでしょうから。うがーっ。
次回からは第二部、描写基本編……の前に、番外編を入れます。三人が海で組んず解れつキャッキャウフフと十八歳未満お断り的な話です。嘘です。あ、海に行くのは本当ですが。
ここまでの文章作法編は、三人の会話に慣れてもらうため、あるいは三人の“像”を読者様の頭の中で作って頂くためのものでした。従ってストーリーと言えるストーリーはなかったわけですが、これから始まる描写編からはストーリーが微妙に(本当に『微妙』と言える程度だけど)絡んできます。だから、その前準備的なものとして、ストーリーを楽しみたい方はどうぞ次回の番外編をお読みください。そうでない方もできれば読んでやってください。更新は一週間後(8/25)を予定しています。※8/27追記:諸事情により、次回更新は十月以降となります。申し訳ない……。