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黒騎士の本音  作者: 梔子
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第1話 学校ではぼっちの英雄

 第一世界【ガイア】。

 高度に成長した科学文明を持つ世界。

 その世界の極東――かつて日本と呼ばれた国が存在していた、世界番号13番の区画。


 そのさらに北東のとある一部地域に存在する田舎町の高等教育機関。

 名前は千里高等学校――富国強兵を目指すかつての敗残兵たちが管理し、子供たちを立派な兵士に育て上げるための軍学校である。

 しかし、同時に最低限の高等教育と教養も育てなければならないので、がちがちの軍学校の名門高校よりは、緩いという中途半端な立ち位置だ。

 そこに、一応の立場として佐藤平助は所属している。


「――であるからして! 君たち諸君が勇敢なる兵士となり、忌まわしき人類の仇敵である魔族から、我らが領土を取り戻さなければならないのだっ! …………という、まぁプロパガンダとかやってた時代もありましたが、あれだぜ? 最初は人類側がなんか、世界侵略しまくって、その最果ての世界で魔族っていう種族に反逆されて今に至る的な感じだから、実際は」


「せんせー、いろいろと台無し感があるんですがー?」

「うるせぇばか、教官と呼べよ、クソガキども。言っとくけど、あれだぜ? 体罰禁止されていた時代と違って、今では愛のむちも推奨されてんだかんな?」

「教官っ! その場合は我ら一同! 一丸になって迎え撃つ所存であります!」

「迎え撃つなよ! なんだよ、リンチかよ、お前ら…………仲間じゃねーのかよ、俺ら」

「や、教官と生徒の区切りはしないと。ねぇ?」

「だよねー」

「当然っす!」

「でありますな!」

「クソガキどもが! ファック!」


 今日も今日とて、二年三組の学生と教師たちは騒がしく授業を行っている。

 歴史を教えていた教官は、既にからかう生徒たちとの最終戦争状態にまで事態が過熱されていて、このままだと、またしても授業残り10分で雑に内容をまとめてお終い、という風になってしまうだろう。


 もっとも、この崩壊寸前の世界の隅で、歴史を学んで何の役に立つのだろうか? と生徒も、なにより、教える教官自身もそう思っているのだから、不真面目になるのも仕方ない。


「すぴー…………ふぁふー…………げろっぐ! …………ぐぅ」


 その最後尾で、佐藤平助という少年は爆睡していた。

 もう、机にマイ枕を敷き、そこに顔をうつ伏せにするという完全な熟睡体勢である。しかし、睡眠もやむを得ないだろう。何故なら、平助は昨日の夜から諸事情で現在の授業まで一睡もしておらず、今しがたやっと、緩い授業に当たって睡眠を貪っているのだ。


「……って、うぉい! また佐藤が寝てるぞ! 起こしてやれ!」

「佐藤? 佐藤って俺のことっすかー?」

「違う、そっちの佐藤じゃない! そこのマイ枕持参で爆睡している奴!」

「先生…………あいつは死ぬほど疲れている。寝かせておいてやらないか?」

「だから、教官と言え、クソガキども。だって、あれだぜ? そこの佐藤……ええっと、平助って、全然友達と居るところとか見た時ないんだぜ? せめて、こういう授業の時ぐらい、皆の空気に合わせてはしゃがないと、社会人になったときマジ辛いぞ?」


「まー、そこら辺は佐藤の自己責任じゃないっすかねー? でも、こいつが今眠い理由は、お世話になった孤児院に、お金を寄付するために深夜のバイトしているって話っすから」

「友達になれなくても、こういう時ぐらい庇ってやりたいのですよ、教官」

「お前ら……深夜のバイトは、一応学生は禁止なんだが?」

「やっべ、口封じしようぜ、皆!」

『おうっ!』


 教師とクラスメイト達が青春モノっぽい雰囲気を出している時、平助は身じろぎもせずに睡眠していた。深い眠りだった。

 学校では友達が一人も存在せず、ぼっちを自称とする平助であったが、別にいじめを受けているわけでもなく、意外とクラスメイトからは一目置かれてりしているのだが…………その事実を本人が知らないので、平助の生活は変に卑屈である。周りの気づかいを知ることができたのなら、もうちょっと改善されるだろうが、そこは仕方ないだろう。

 平助にとって学校とは、もはや名前を置くだけの場所になっているのだから。

 ――特に、軍学校なら、格別に。



●●●



 佐藤平助は冴えない外見の少年である。

 この場合、よく恋愛シミュレーションゲームに登場する無個性主人公ではなく、本当に、リアルに冴えないビジュアルの男子なのだ。髪の気は鳥の巣を連想させるぐらいにぼさぼさしているし、目つきはたれ目がちで気弱な印象を受ける。辛うじて、眉毛や髭はマナー程度に剃られてはいるが。体つきは中肉中背で、可もなく、不可もなく。しかし、なぜかわからないが、学生服――かつて大日本帝国と呼ばれていた軍隊の軍服を模した制服――が異常なまでに似合わない。

 服に着られているというのは、まさしく平助のためにある言葉である。

 それに加えて、寝不足のために、全身から溢れ出る情けなさを溢れ出している状態だ。そんな状態で、軍学校で一番肉体的にきついと言われている科目――『兵学・訓練』が始まった。


「今日は一年生と二年生の合同訓練だ! 一年生は二年生を手本とし、よりよい軍人を目指すために修練を重ねるように!」

『はいっ!』


 乱れのない整列に、はきはきとした応答。

 毅然とした眼差しを受け、生徒たちよりも装飾の派手な制服を纏った女教官は、きびきびとした様子で生徒たち訓練生に指示を出していく。手前に木刀を突き立て、遅れた者に懲罰は容赦しないと、厳格な雰囲気を出して。


「では二年三組と一年三組は魔法基礎訓練を行う! 整列っ!」

『はい!』


 ざっ、と二年生がまず素早く並び、その後に続いて、一年生が二年生の前になるようにしてならんだ。一年生はどこか浮ついた面持が多いが、歴史の授業でおちゃらけていたはずの二年三組は、誰も毅然とした顔つきで整列している。歴史の授業の時の浮つき具合とは大違いだ。


「一年生! 先輩である二年生より遅く並ぶとは何事だ! その場で腕立て三十回! 手を抜いた者は私自ら指導してやろう」

『はいっ! ありがとうございます、教官殿!』


 文句の一つも言わず、一年生は、女教官の号令に従って腕立て伏せを始める。

 なにせ、この合同訓練を担当している女教官は、鬼教官と噂高い、伊原いはら 美鈴みれい軍曹なのだから。万が一、反論の一つや文句を垂れようなら、美しい笑顔のまま、鉄拳制裁が飛んでくるだろう。


「よろしい! では、二年生――十二番、佐藤平助! 前へ!」

「はい」


 鬼教官、美鈴の号令を、平助は気の抜けた返事で答えながら、列を抜け出した。

 そして、美鈴の前へ立った時、


「貴様! 何だ、その腑抜けた返事は!? 教育的指導!」


 当然の如く、鉄拳によって殴り倒された。

 殴り倒されたかと思うと、平助はばねのように体制を戻し、毅然とした表情を作って言う。


「指導、ありがとうございます、教官殿! 我々にとってはご褒美であります!」

「……? まぁ、いい。貴様が一年生に魔法基礎について語ってみせろ」


 元ネタが分からない美鈴は、眉を顰めながらも、とりあえず先を促した。


「はい!」


 どこか満足げな平助は、そのまま一年生たちの前に立ち、腕を後ろに回したまま、魔法学の基礎について説明を始めた。


「一年生諸君! もう中学校で習っていると思うが、基礎の基礎から説明しよう! 魔力とはすなわち、世界を構成する最小単位『魔素』の動きによって生じる力である。この力は物理法則の上位に君臨しており、故に物理法則に反する現象を引き起こすことも可能である。この魔力の詳しい仕組みについては、一年の後半に魔法学という専門科目で習うことになるだろう。この訓練では、実際に魔力公式に基づき、基礎魔法の行使をする。我々二年生が実際に手本として魔法を行使するので、一年生諸君はその様子を見て、学び! 我々に続いて、魔法の行使をするように!」


「よろしい。では、一年生の見本となるとなるような素晴らしい魔法を私に見せてくれ。佐藤平助二年生」

「了解しました! 地属性・佐藤平助! これより実習に移ります!」


 平助は頷くと、右掌ををグラウンドの地面に着け、詠唱を開始する。


「大地に宿る我が聖霊よ。古き契約の下、我らが師父ニュートンの名において、その力を行使せよ」

 

 平助が右腕を伝わせて、大地へと魔力を流す。すると、詠唱と魔力に応じて、大地の管理者である精霊が許可を出し、流された魔力の公式によって魔法を発現させるのだ。

 この場合、平助が流した魔力に込められた公式は人形作成。そして、その人形――ゴーレムを動かすプログラムである。


「ほう」


 平助の魔法行使を見て、美鈴は感心したように呟いた。

 行使された魔法は、市販や一般的な簡易ゴーレムの模倣品ではなく、美鈴に見覚えのないオリジナル。しかも、相当複雑に術式が練られている。二年生のレベルにしては、珍しい高難易度の魔法だと感心した……のだが、


「――作成終了! いざ、いでよ! 謀殺少女はかるん!」

『地を這え、ぐっみんどもー♪ テメェら全員、騙して殺しちゃうぞっ♪!』


 出てきたゴーレムは精巧な可動式のフィギアだった。

 やけに肌色成分の多い露出満載の服を着た、美少女のフィギア。しかも、声帯まできっちり作っているのか、声優の声質まで再現されている。

 間違いなく、二年生レベルでは最高難易度の魔法行使だった。


「教育的指導ぅ!!」

「んぎゃー!! はかるんがぁあああああっ!?」


 もちろん、造形に問題があったので、フィギア共々、平助は美鈴から木刀による制裁を受けた上に、グラウンド五十周の懲罰を与えられたのだが。



●●●



「よし、それでは魔法基礎訓練の最後に……我が軍有数の【キーホルダー】に来ていただいた。諸君、小林少佐に敬礼!」

『はっ!』


 平助がグラウンドを三十周ほど終えた頃、魔法基礎訓練はシメに入っていた。

 美鈴に呼ばれ、姿を現したのは、美鈴よりも装飾の多い……数多くの戦果を象徴する勲章を付けた軍服を纏う、黒髪の少女だった。

 短く切りそろえられた黒髪に、凛とした眼差し。背丈は女性の中で長身の美鈴に劣らず、すらりと手足の伸びたモデル体型だ。ただ、見る者が見れば、その細腕の中に込められた魔力の密度に舌を巻くだろう。


「学生の皆様、はじめまして。私は小林狛。階級は『鍵持ち』の特例として少佐という、身に余る特権をいただいております。ですが、年は皆様と代わりない小娘ですので、あまり固くならないでください」


 朗らかで、よく通る澄んだ声。

 にこやかな微笑みの中にも、にじみ出る圧倒的なオーラ。

 固くなるなと言われても、学生たちの緊張が解ける道理も無い。

 圧倒的な強者を前にした者にできるのは、ただただ、その力を畏怖することだけなのだから。


「えーっと、皆さん? ほんとーに、その、堅苦しいのとか無くていいですよ? 質問タイムとか儲けますよ?」


 もっとも、その強者本人である狛には、いまいち自覚が無いようである。


「小林少佐殿。まだ羽も揃っていない雛どもに難題を言ってくださるな。貴方の神威は、鍵を持たぬ我々にとっては過ぎたる物なのですから」

「はあ……私は最近覚醒したばかりですから、実感は少ないのですけどね」


 困ったように苦笑する狛の姿は、年相応の物なのだが、やはり、和やかな物にはならない。内側からにじみ出る強大な魔力と――鍵を持つ者に与えられる固有能力がそれを許さない。


「しかし、【キーホルダー】の投入された戦場で、今のように呆けていてはただの

案山子であります。ここはこやつらの肝を潰すつもりで、パフォーマンスを」

「パフォーマンス、ですか。では、拙いながら私の固有能力の【即興詩人】でも実演してみせますか?」

「…………威力は最小限に絞ってくださいませ。貴方のそれは、下手をすればこの校舎ごと、否、その気になれば街すら滅ぼせるのですから」

「あははは、わかっていますよ」


 美鈴と狛の会話に、学生たちは戦慄する。

 町ひとつを滅ぼしてしまうほどの能力。それはもはや、兵器ではないか。そして、兵器は兵器だからその威力は許容されるのであり、一個人が自由に所有していいものではない。

 それを成せる者が存在したら、もはや『人間』という種族で括っていいのだろうか?


「では――」


 学生たちの戦慄が解けぬまま、狛は固有能力の行使を始める。


「冷たき者よ、深き者よ、踊り狂った地霊の宴が始まる」


 紡がれるは即興の詩。

 破壊を生み出す、その場限りの、一回限りの破壊行使。


「大地よ笑え! その唇を裂け! 強靭な顎で砕き尽せ! 破壊の音こそ祭囃子!」


 魔力を消費し、物理現象を超えた結果を得るという点では、それは魔法に近いかもしれない。けれど、魔法はあくまで精霊の協力を得て、解明された公式を用いて、初めて成立する技術である。

 だが、拍の固有能力である【即興詩人】は違う。

 文字通り、即興で世界の法則を作り出し、その場限りの特例として、己が望むままの破壊を得る規格外の御業なのだ。


「いざここに顕現せよ! 深き場所に住まう暴竜よ!」


 詩の終わりと共に、大地が脈動した。

 星の血脈とも読める、龍脈が無理やり狛の能力によって歪められ、この場に膨大な魔力を集中させているのだ。


「いかんっ! 総員、伏せろっ!」


 危機を察知した美鈴が学生たちに号令を飛ばす。

 魔力によって意味を持たされた美鈴の言葉は、圧倒的な破壊の予兆に、呆然とするしかない学生たちの体を強制的に動かし、大地に伏せさせた。

 その直後、ほんの半径数メートルだけ大地が割れ――――――そこから、破壊という指向性を持たされた莫大な魔力が空へ放たれる。

 大地が鳴き、大気は荒れ狂い、遥か上空に掛かっていた雲は吹き飛ばされた。

 そして、


『あ』


 逃げ遅れた平助が、能力の余波で上空に舞い上げられたとさ。


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