33話 理不尽 ジオ
1週間ぶりの更新です。申し訳ありませんでした。
修道院に来てから、僕は絶好調だ。瞬く間に流派の基本を修めた。リーンハルトさんの代わりに高弟だなんて話はまあ冗談だとしても、扱いは悪くない。マイスターと高弟が付きっ切りで修行をつけてくれるなんて。
一生懸命過ぎて気が付かなかったが、いつの間にかディーが近くにいて、凄い目で睨んでいた。襲撃の後彼がどうなったかを心配する余裕も無かったが、さすがだ。どう渡りをつけて修道院に弟子入りしたのだろう。だが、声をかけようとすると、スッといなくなってしまった。彼の考えていることは、僕にはよくわからないが、不気味で嫌な予感がする。
入門から数日。早朝からマイスターと高弟たちは会議だとかで、僕は久しぶりに自主練習となった。そこへすかさずニーニャがおしぼりを持って駆け寄ってきた。まだ全然汗もかいていないのに。
「ジオ。まわりに人がいない、こんな時にしか話もできないなんて・・・私さびしい。けど、あなたのことしか見ていないから。カスパルともおじいちゃんとも仲良くしてないから、誤解しないでね!」
そしてタタッと去って行った。いじましい。ニーニャ、僕はひとかどの技を身に付けたら、どこかに仕官して、君を妻に迎える。どうやら何十年もの修行は必要ないみたいだ。
剣を振る。無心に、ではなく。理をもって。
修行の調子はいいが、基本的なことで沢山ダメを押された。僕は応用が弱い。
袈裟切る。そこから躱した相手を追おうとすると僕は泳いでしまう。だが、素早く戻すのは大得意だ。思い切り一撃をかまし、同じ軌道を逆に戻る。力技と、強引な引き戻しが僕の武器だ。追うな。戻せ。そこから強烈な一撃で再び狙え!
立てた丸太を相手に、シュプリンゲン→シュタルク→戻しシュタルク→逃げシュプリンゲンを繰り返した。遠距離から一気に近づいて強烈な一撃をかまし、外したら切り上げて逃げ去る。強靭な力が無ければ、強力な一撃であるシュタルクの後に、戻しシュタルクは打てないそうだ。
丸太に全然当たらないが、愚直に繰り返すうちにこつが解ってきたので、3本並んだ丸太を一気に連続で試みることにした。初期位置に戻って来る都度、わずかに角度を変えて進撃するのが難しい。3本目のシュタルクを外し、戻しシュタルクで仕留めて初期位置に戻って来ると、高く舞い上がった丸太がそこに落ちて来たので、得意のウムシュラーゲンで溜め受けて、迎撃した瞬間に丸太に衝撃を集め、粉砕した。我ながら上出来。
その僕に対して、突然現れた高弟たちが、V字の列を形成して跪いた。拍手をしながら現れたクンストマイスターが、僕に声をかけた。ほめるにしても大げさでは。
「ジオカトロ・ジオルケラー殿に、修道院首脳会議の結果をお伝え申し上げます」
「は、はい。今の3本目外しちゃまずかったですよね。あ、丸太ですか。きちんと新しいのを立て直しますので・・・」
「よいのです。些事は下々の者におまかせください。これより我ら一同は、眼盗王の再来たるジオカトロ様にお仕えすることに意を決しました。ただし、これより一週間精進潔斎後の私めから、最終奥義ハイリゲス・シュベルトをその眼力で盗んだ後、他の高弟にそれを教授していただくことが条件となります。あなた様の若さと力と眼力ならば造作も無きこと。是非、お受けいただきますようお願い申し上げます」
「是非、我ら高弟連にハイリゲスの秘儀をお伝えください!眼盗王様!」
な、なんのことだか、僕には全然わからなかった。分かったのは、跪く高弟達が言った言葉が、血の涙を流さんばかりに屈辱の嗚咽をもらしながら、口々に吐いた哀願だと言うことだけだ。恐ろしい程の悪意が今僕に向けられていたのだ。
「詳しくは、別室でお話しさせていただきます。どうぞこちらへ」
不気味なほど、クンストマイスターはニコニコしていた。何かを吹っ切ってしまった人の目だった。一つの目的のためには、他の何者をも犠牲にする冷酷な魂が透けて見えた。
僕が修道院内に導かれる間、高弟達は凍りついたように固まっていたが、マイスターが扉の向こうに姿を消した途端、荒れ狂う暴風のような技の数々が、大修練場の稽古器具を破壊し尽くしたのだった。僕はただ蒼ざめるしかなかった。
2人きりになると、クンストマイスターは、さっきの説明を繰り返した。
そんなんじゃわからない!
「眼盗王って何ですか?僕はそんなんじゃない!」
「いえ、入念に観察と確認をさせていただきましたので、間違いはありませぬ。あなた様の左目は、魔の祝福を受けた眼であり、技を見ただけで盗むことができます。それができないのは、強奪防止技の発動中のみとなります。ふむ・・・まさか、御存じではなかったということですか」
「僕はただ、憧れた技を身に着けたいと願っただけなのに!」
「申し訳ございませぬ。あなた様を特別扱いする理由を問い詰められ、つい本当のことを高弟達にもらしてしまいました。集団リンチに発展することを防ぐために、ハイリゲスを餌とする他になくなってしまったのです」
「ハイリゲスってなんなんですか?」
「我が流派の最終奥義、『聖剣』でございますが、現在私はそれを発動できず、従って高弟達は誰もそれを見たことが無く、試みることもかなわぬ秘奥技でございます。これを一度見た限りで習得することができるのは、地上にも天界にも魔界にも、眼盗王様ただ一人のみ!必要とあらば劇薬を用いてでも必ず披露いたします。なにとぞこの秘技をお受け取りください、眼盗王様!」
クンストマイスターは、跪くだけでなく、ついに伏して哀願するに至った。本気なのだ。そして信じたくない程悲しいことだが、僕は真実、技盗人なのだ!
左目。母さん。旅立ちの日。宝箱から取り出された怪しい灰。僕は気が付かない振りをしていたのかもしれない。あの時、魔が僕の左目に巣食っていたのだ。気が触れた母親からのなんという素敵なプレゼントだらう。正しかったのは、酷薄で邪悪だと思っていた父さんの方だった!
ウムシュラーゲンアングリフの習得。左顔面を縦に走る傷。師匠たる老戦士は、この邪眼を切り裂こうとした。だが、左目は再生した。僕は勘違いだと思い込んだ。あんな激痛があったのに!
盗賊のゴッドワルドさん。僕に全ての技を奪われて、あっけなく弱くなって死んだ。あれはこういうカラクリだったのだ。
高弟ツェメントさん。僕は彼からも技を奪った。彼は奪われた技を必死で思い出そうと、再習得しようとしていた。
僕は、天才なんかじゃなかった!姑息な技盗人だった!何の努力もせず、見ただけで、奪い取っていた。奪われた人を嘲笑い、そのうち思い出すとか適当な事を言い放った。
恥ずかしい。なんて恥ずかしいんだ。努力のたまものだと思っていたことは、みんな、安直な、盗みで手に入れた物だった!!!
「こんな左目、えぐり出してやる!」
僕は宝剣を抜いた。長すぎて狙えない。刃を手で握った。
「おやめください!その眼がなければハイリゲスの伝承が失われてしまう!」
そんなこと知ったことか!この眼は僕の名誉を汚したのだ!
「パラリューゼ・シュベルト!」
不意に、僕は背中を刺された。なんだこれは、痺れる。動けない・・・。
扉を開けもせずに、リーンハルトが室内に侵入していた。
くそう。わからない。何もかも。こんな理不尽があってたまるか。何もかも解りたくない!解ってやるものか!僕の誠実と名誉は汚された!この屈辱は旅立ちの日から決まっていた!ちくしょう・・・ちくしょう・・・
ジオ君へ
ごめんね、ごめんねー
神気取りの作者より




