32話 ご所望 ニーニャ
「みなさーん、お昼ですよ~。あ、ごめんなさいマイスターさんだけです~」
ジオの女でありながら、カスパルの妻として修道院に入り込んだ私の役目は、カスパルの手助けをしながら、修行者たちの食事の世話係となった。厨房係のおばさんから借りた地味な古着を今は着ているが、ロングスカートなので非常に安心感がある。
若い女は私しかいないので、そんな服でも、あちこちから視線を感じる。特にマイスターの視線は熱い。見た目おじいちゃんだが、実はまだ40代なのだそうな。エロジジイと呼んでいいものやら迷うけど、すぐに触りに来るのでエロジジイ決定だ。
でも、秘密がばれた時のために、普段から愛想よくしておこうと思う。なんとかジオの修行を成功させて、早く修道院を出て、ラブラブな生活を送るのが、今の私の目的なのだから、エロジジイをたらしこむのも、一つの手段としてはアリなのだ。
今のところ、ジオは優遇されているみたいだ。マイスターと高弟さんが付きっ切りで技を教え込んでいる。周囲で???という記号が飛び交っているが、ジオはどんどん技を覚えていく。そんな才能あるようには見えなかったんだけど、凄いよジオ。
「眼盗王なのか、いや眼盗王様と・・・」
お昼に呼ばれたマイスターおじいちゃんは、考え込んでるふりをしながら、振り返り様私の胸に突っ込んできた。むぎゅ。いやん。私が達人の不意の動きを避けられるわけない。
「ふお、おぱっ!!すまぬっ。またやってしもうたっ」
「もー、ダメです。これは私のご主人様だけのものなんですから!」
ジオにウインクして、踵を返した。おしりをふりふり食堂に戻る。カスパルに気が移ったとか思われないようにしないと。
アレ?でもちょっと違和感が。衣擦れに違和感が。服の上から押さえてみた。何と!
はいてないよ!どこでぬげた?そんな馬鹿な!あり得ないって!
気付いた途端、ロングスカートなのに、ものすごく心細くなってきた。
どうしよう!後ろから歩いてきたおじいちゃんがけつまづいて、もしもスカートにしがみつかれたりでもしたら、私は広場にいる全員に晒してしまうことになる。スカートのすそにけつまづいて転んだら、おしり丸出しになってしまう。そんなことになったら、恥ずかしくてここにいられないって。思わずスカートをがっしりつかんだが、真下からモグラみたいに誰かが出てきたらどうしよう!
ひいいいい。どうしてこうなった!早く部屋に戻って替えの下着を!
前を見据えた。そこで、あり得ない人物を見つけた。ディー!ディアロゴス!不敵に私の顔と胸と股間を透視でもするかのようにねめつけていた。あいつだ。絶対犯人はあいつに違いない。手段も根拠も必要ない。目がそう語っている。
「あ、あの。クンストマイスター様。私困っているんですが、物を奪われなくなる技ってありませんでしょうか!」
「おお、ニーニャ殿がお困りなら後で教えてしんぜよう。」
エロジジイが、私の役に立てることを喜んだ。でも密室で個人教授とかされそうで怖い。
聞こえるように言ってやったのに、ディーまでなんだか知らないけど喜んでいる。ここで私が騒げないことをいいことに!
後で覚えていなさいよ。あんたも修行生活する気なら、カスパルに頼んで一服盛ってやるチャンスはいくらでもあるんだから。
食堂。カスパルとクンストマイスターの軽い食事が並んでいる。私は給仕だ。カスパルが、病人は一度に消化吸収できる量が少ないので回数を取る必要があると説明している。薬草入りのキノコスープがおいしそうだ。香草っぽいエグい臭いも少しまじってるけど。
「カスパル殿。現状の体力では出せぬ技があるのだが、出さねば弟子に教えることもかなわない。なんとかならぬものだろうか」
「劇薬に頼るのはおすすめできません」
「あるのだな。いざという時は、出していただきますぞ」
クンストマイスターの決意は、固いようだった。カスパルは、協力を約束させられてしまった。そこにはエロジジイだけじゃない威厳を感じた。
「あー、ニーニャ殿、すこし外してくれぬか」
はいと素直に引っ込んだものの、私は聞き耳を立てた。密談スタート?
「カスパル殿とニーニャ殿に会ってから、ワシはすこぶる調子がよい」
「それは重畳です」
「だが、昨日の睡眠薬は、偽薬ではないか?その後の香の方が怪しい」
「さすがに、騙せませんね」
「あの香はまずい。使い方によっては城が落ちかねぬ。秘匿してくれぬか」
「おそばで、漏れぬように極小に炊くのではいかがでしょう」
「カスパル殿は眠くならんのかね」
「私は、頼り過ぎて耐性ができてしまいました」
私、すぐ寝ちゃった。そんなことがあったんだ。
「それと、ニーニャ殿のことだが」
ぎく。
「良い細君をお持ちだ。ワシも人肌恋しくてならぬようになった。ワシの世話をしてくれる女性を、頼めぬか。できれば、できればニーニャ殿に似た赤い髪の娘が良い。いや、娘でなくて年増でも良い。巷には夫に先立たれ生活に困っている後家もおるという。」
いやだー、おじいちゃんお盛ん!
「私自身につてはありませんが、出入りの商人にそれとなく手配を」
「うむ。頼んだぞ。力が湧くのだ。枯れたはずの男の力がな」
うひゃ。これを聞いてるわけにはいかない。音を立てないように離れた。
食器を下げるのくらいカスパルがやってくれるだろう。使用人部屋に戻って下着を履いた。脱げない、奪われない、消えない下着が欲しいな。貞操帯みたく鍵のついた奴。
クンストマイスターに技を教わるのは、ご所望の女性が来てからがいいかな。ヘタをすると私がご所望されてしまう。ずいぶん好かれたもんです。
しかし。これだけ関心を引いて見られているということは、早晩、カスパルと夫婦で無いことは見抜かれてしまうのではないかな。なにせ、カスパルとエッチするわけにはいかないから。可哀そうなカスパル。私は、むしろ分身する技でも覚えるべきなのかしら。
まいっか。なるようになあれっと。
てへぺろ
ほとんど話が進展してません




