31話 ディアブル一家と臥薪嘗パン ディア
31話 ディアブル一家 ディア
ようやく修道院に入り込んだッ!金と口車は偉大だッ!次は技を磨き敵を倒し、閥を作り身分を得る!のしあがってやるッ!院長のそっけなさが気になるが、まあいい。
俺につけられた高弟クロードとやらからは、楽をして偉くなりたがっている臭いがプンプンした。ある程度の実力はあったが、入門した後競争に負けたタイプだ。どうせ小悪党だろう。
クロードは、ニヤニヤ後ろをふりかえりつつ、場所を移した。建物と建物の間にある、どうしようもない空間が小修練場になっているようだ。要するに、クズどものたまり場だ。新入りを連れ込んですることは決まっている。
「お金持ちの新入りだ、てめーら少しもんでやれ」
ゆらゆらだらけた態度で、2人が囲んできた。
「おぼっちゃん、よろしくなー!おほー、いいベルトしてやがんなー」
「その眼は貧乏修道院だとかナメてる目付きだな!生意気だぜ!」
「すぐ破れっちまうような服着て来てんじゃねーよ!ここをどこだと思ってんだ!」
「スカしてんじゃねーぞ、コノヤロウ!アイサツもできねーのか!」
俺は2人の間を通り抜け、奥の切石に腰掛け、足を組んだ。
「な、なにやって!」「態度でけ、ゲぇ!?」
俺を追い咎めようとして、2人はそれぞれのベルトが繋がっていることに気が付いたが、靴ひもまで結ばれていることには気が付かず、もつれあって転倒した。
「ずいぶんと、ベルトが好きな連中なようだッ!」
俺は自分のベルトを外して、2人をメッタ打ちにした。弱すぎる。
「その辺にしておけ、新入り!」
クロードの目の色が変わった。俺は、2人を蹴っ飛ばして修練場中央の障害物を排除した。
「たった3人で俺様をシメようとか、甘いんじゃないのかクロード一家さんよ」
「何をしに入り込んだかは、痛い目にあってからゆっくり吐くがいい」
いきなり技がとんできた。多数の連撃。薄皮が切り裂かれる。
何の、目くらましよ。そら、次が来た。
刀筋がいきなり変調し、振りかぶった刀が下段から伸びてきた。
だが、見えている技に、ウムシュラーゲンを合わせるのは容易い。反撃はしかし空中へ誘導し、クロードは狙わない。
「技が甘い。それでも高弟か。そもそも発声がなっていない。やり直せ。どんどん来い」
熱くなったクロードは、様々な技を繰り出した。そのことごとくを、俺はウムシュで無効にした。俺がほぼ一枚看板であることを、感じさせてはならない。
クロードは、無言で技を駆使するタイプであるようだが、発声に転じた。技をもっと強烈に、早くやるには必要な事だ。さて、いくつ技を持っているのか。4つ以上であることを確認してから、最も有効な物を、後で、奪わねばならない。難儀なことだ。
だが、危ない技を皆ウムシュで返すうちに、俺はウムシュの可能性に気付いていった。この技は、ジオのように待って受けて一気に返すだけの技ではない。相手の技の初動を受けてしまえば、簡単にそれを受け流してしまえるのだ。
クロードの手数はさすが高弟だけあって多彩だ。だが、俺自身の眼力、魔人の手、ウムシュ、そのトリニティに対抗しては、むなしく皆跳ね返されるだけだった。俺は刃の交点を俺の近くから次第に中間へ、クロードの間近に移した。相手が出したがる技をその初動で潰す。攻めている様で、受けの剣技。それがわからず、クロードは涙目になっていった。
「ちくしょう、これでもくらえ!」
兄弟子の苦戦に、チンピラ2人が加勢に入った。やっとベルトをはずせたのか。
上から網が降ってくる。狭い修練場では、ひとたまりもなかろう。他の奴ならば。
だが、俺は手を上空にかざした。網を盗む。折りたたまれた網が手に収まる。
驚き顔の3人を、まとめて網に捕えた。
「今日からディアブル様と呼べ。いいベルトをはめて生きるか、ベルトに打ち据えられるかを選ぶのだ!」
網ごしに、金貨銀貨をチャリチャリと、拳の中から落とした。チンピラどもはひとたまりもない。争って受け取った。
「俺はクロード、高弟クロードなんだっ!」
プライドを捨てきれない奴だけが、むなしく声をあげた。
「兄弟子殿。それはそれでいいのだ。クンストマイスターに認められた地位を俺も尊重しよう。だが、修道院の派閥の他に、裏の派閥があってもいいだろう?君はディアブル一家の一隊長として、今よりも富貴を味わうと言うだけのことだ。その2人を率いて、俺につかえてくれればいいのだ」
「兄ィ、そうしましょう!金貨っすよ、金貨ァ!」
「し、従わないとまたベルトでぶたれちまうっ!」
実にいいチンピラぶりだ。飢えている奴らは、簡単にエサで制御できる。
がっくりとクロードも堕ちた。従えば実入りが良くなる。変わらず下っ端にデカい顔も許される。
「貴様らは、ディアブル一家に入りたい奴らを集めるんだ。金、酒、肉、こっそり都合してやろう。大勢で徒党を組んだら、ケチクサイ修道院を捨てて、巷で英雄になるんだ。外でなら女も抱ける。お前たちには力がある。海賊を蹴散らしてお宝を奪えば、天国はすぐそこにあるのだ!」
「もともと俺らそのつもりだったんすけどねー」
「だんだん、修道院が戦いに出なくなって修行ばっかりでして」
「何のための修行かもうわかんねぇっす!」
チンピラ2人が口々に迎合してきた。こいつらなりの不満にうまく乗れたということもあるだろう。クロードもこう言った。
「外に出て、賊と闘うことには、俺も興味があります。ディ、ディアブル様」
「表向きは新入りディアロゴスだ。他の奴らの前では呼び捨てにせよ」
俺はクロードに案内させて、大修練場に行くことにした。ここの連中の技を見たい。できれば奥義、秘奥義を。魔人の手を奪いかえされないための技があると最高だ。もっとも「奪われない技」を奪えるわけがなく、もしあったら自力で習得しなければならないが。
何故だろう。自力習得。大切なことなのに、やってられるかという気持ちになる。何でも盗んですませればいいじゃないか。・・・だから、奪えない・奪われない技が欲しいのだというのに。
自然、両手を見ていた。俺がお前を支配しているはずなのに、お前が俺を支配しようと言うのか。創造に対する怠惰。それが何でも盗める手の代償なのか。
「デュープなんとかという技名を聞いたことがあるか」
「いえ、知りません。技名はダスライヒ語でつける原則が。そうしないと日常会話で暴発してしまいますので」
秘匿すべきことを、思わずクロードにもらしてしまった。
「あ、そういえば」
なんだ。驚くところだったぞ。
「技とかではなく、物ですが。不正な複製が出回っていて、それがデュープ物と言われていますね」
不正な、複製だと!?それがデュープの意味だと?盗賊じゃないじゃないか!
奪い取っていることには違いないが、それじゃ元が残るはずだ。
不正な複製のあと、元を消す。それが、盗んだ物が飛んでくる秘密なのか。デュープハントゲレンクは、隠れた力を二重使用していたのだ。元を残すことができないのは、あるいは低レベル障害かもしれない。
だったら。「消されない」能力なら複製できる。手を守れる。他に何かないか。
重大な事実の発見だったが、それ以上立ち止って考えている暇は無かった。クロードに余計な詮索もされたくない。
大修練場に入る。あちこちで、修行の輪ができていた。見渡す。
そこには、クンストマイスターと、ジオがいた!
何だと?!苦労した俺より先にここに入り込んでいたのか!しかも、直にクンストマイスターの教示を受ける立場だと!そんなことがあっていいのか!寄付の会見の時、全く俺自身に興味がなさげだったのはこういうことか!くそ糞クソマイスターめ!!
それにしてもジオ、ジオ、ジオ!
「ジョオジョオの野郎メガああああ!」
奪っても奪っても奪っても、いつの間にかしれっと俺の前に!許されん!断じて!
「みなさーん、お昼ですよ~。あ、ごめんなさいマイスターさんだけです~」
その時、俺の脇を、女が擦り抜けていった。
あの女、ニーニャ!と認識するが早いか、魔人の手が速攻で下着をスリ取っていた。
なんということだ、あの女まで入り込んでいるとは~。
深く臭いを嗅ぎ取りながら、それが不正な複製に過ぎないことに気付き、萎える。この一点だけとってみれば、気が付かない方が良かった。
本物を手に入れられないむなしさ。
だが、いつまでもこのままで置くものかよ。
臥薪嘗パンだッ!!




