26話 お城に殴り込み ジオ
「ニーニャは悪くないんだ!」
そう言うと、カスパルは僕を憎悪の目で見た。あれっ?
「ごめんねー、カスパルぅ」
ニーニャはしなだれかかっている。左手に僕の指輪が無い。えっ?
「どーしてこんなところにいるかって?もちろん、貴方を追いかけて来たのよ」
カスパル君が、傍目にも分かる程、ブバっと赤面した。女に騙されやすいタイプだ。
カスパルの質問攻めが来る前に、ニーニャが機先を制した格好となった。
「でも、詳しくは知らないの、どういうことなの、カスパルゥ!」
・・・えーと。僕は黙っていましょうか。ジオ回のはずなんですけども。
カスパルは、城内の薬草園の拡充にあたり、専門的な薬師が必要になったのだと告げた。自己回復技が重宝されて来たが、やっと薬草に日の目が当たって来たのだと。
「健康な人にはわからないんです。弱り切った人は自己回復すらままならない。それを助けるのが薬草と、薬師なんです。」
カスパルは、話し出すと堰を切ったようになった。相当抱え込んで生きて来たんだね。
「僕は、秘密厳守の修道院に、一生閉じ込められる覚悟で来ました。付き合っている娘もおらず、妻帯することも、もう無いと。でも、ニーニャが僕を追いかけて来てくれたなんて!」
そして、ずっと僕も君が好きだったんだーと抱きついておんおん泣いた。抱かれながらニーニャはこんなはずではという瞳で僕を見た。
ニーニャ、いいかげん自覚しようよ。君はモテナイ男には毒です。
「カスパル君、すまないけど、僕のニーニャを助けてくれないか」
「なんだよ、なれなれしい言い方だな」
僕はニーニャに、薬指を示した。ごまかしは、良くないのだ。
「僕とニーニャは賊に追われています。僕は修道院で修行する予定ですが、ニーニャの身の置き場がありません。君の助手としてやとってくれませんか」
ニーニャも、これ以上ごまかしは良くないと賛同してくれたようだ。指輪をつけた手をカスパルに見せて、衝撃の一言を言い放った。
「ごめんね、私もう、この人の女なの」
青白かったカスパルが、真っ白に燃え尽きた。
馬車は静寂が支配した。カスパルが復活するのに相当の時間を要した。
海峡城の通用門が迫って、ようやく彼は口を効いた。
「僕は、技術の無い者を助手にする気は無い。ただし、妻を帯同する権利は持っている」
表情が卑屈であった。だが、一か八か勝負する気になったようだ。
「ニーニャ、ここで降りるか、そいつを捨てて僕の妻になるか選んでくれ・・・」
たとえ卑怯者と言われようが、好きな女を物にしたい。それはわかる。だが、僕はそんな話は飲めない!
「カスパル・・・うれしいけど、私もうジオを裏切りたくないの。ジオについて行くためにあんたを騙そうとしたこと、ごめんなさい。降りるね」
ニーニャは、走行中なのにドアを開けた。僕はその手を掴もうとしたが、掴めなかった。
「うわーん、ごめんなさいいい!夫婦は偽装でいいから、行かないでー!」
カスパルが両足を掴んでいた。ニーニャは上半身が馬車から落ちた状態だ。そしてまあ、言わずもがなながら、おしりは丸出しだ。
「いいから早く引っ張って、死ぬ、死んじゃう!!」
帯を掴んで引っ張り上げた。先行の馬車が話をつけていたので、この馬車は止まらず通用門の中に入って行く。
「カスパル君、一時的にだが、ニーニャを頼む」
僕はそう言って、馬車を降りた。さて、僕の件は話が通っていないはずだ。衛兵に紹介状を出しても揉めそうだ。握り潰されてしまうかも知れない。
通用門の中は、まだ虎口である。本来ならば、門を突破した敵兵を囲んで殲滅するための設備だ。だが、一通り見まわしてみると木箱や樽が置かれ、屋外の物置き場になっていた。ぬるい。城なのに敵襲を考えていないようだ。海峡の方にしか気を配っていないのか。
僕は木箱に駆け上がり、飛び上がって城壁の縁をつかんだ。力まかせはお手の物。勢いで足を振り上げて城壁に降り立つ。
「我は、極聖十字軍騎士の末裔、ジオカトロ・ジオルケラー!紹介状はここにある!武技の修行にまいった!だが、お城の警備はいかがしたことか?誰ぞ高名な騎士・戦士出会いたまえ!誰もお相手してくださらないならば、お城の雷鎚を持って帰って家宝としようぞ!」
物語にある殴り込みのシーンを必死で思い出した。実際にやってみると、何回も同じことを言う必要があるらしい。移動しながら雑魚を脅して散らす。戦い易い広場があるといいのだが。
中庭に出た。通路以外は植物が植わっている。ここで戦うとカスパルに怒られそうだが、城方はここを迎撃場所と決めたようだ。入って行くと四方の通路が檻で閉ざされた。上から声がする。
「近年、門前払いされるばかりで、気骨のある入門者は絶えて久しい。ジオカトロとやら、クンストマイスターが高弟、このリーンハルトがお前の言と動を見極めよう」
銀髪の剣士リーンハルト様がキター!予備知識とかありませんけど、高弟ですよ!
僕は生き延びて入門することができるでしょうか。




