25話 必殺のあは~ん ニーニャ
海峡より内側の湾内には、哨戒艦の船着き場が多数あり、一大海軍基地の趣を呈していた。坂の上の街道から見下ろすと壮観である。
沖合では、大小の船が行きかっていた。海峡通行税が城とこの国を潤している。
数隻まとまって見えるのは、哨戒艦に因縁をつけられた商船か。はたまた海賊の偽装船か。
海風が嫌なので私は坂の上でしゃがんで待っていた。ありあわせの布で下着を作ってはいるが、ジオの変な技シュトッフレパリーレンをくらうと解体されてしまう。布に近いものは布に。服に近いものは服になるようだ。しっかりした下着じゃないと下着に直らない。街に戻るまでこのピンチは続くのだ。ミニスカなんて着るんじゃなかった~。
ジオが聞き込みから帰ってきた。ミニチュアガレオン拿捕の話はなかった。というか、教えないと門前払いだそうだ。被害者の関係者ならば、城にお伺いに行けと。まさか、城に行ったら行ったで、そっちでも門前払いなんじゃないでしょうね。
「今頃は、頼んだ新しい服ができあがってるんだろうな~」
ひーらひらーのふーりふりー。街に戻れないのがもったいない。
でも今の私らは根無し草。無駄遣いしなければ路銀に不足は無いけれど。
「ジオ、もうお城に行っちゃおう!」
「僕は紹介状があるけど、ニーニャはどうしよう・・・」
あんた、考えても名案出ないでしょ。なるようになれ、よ。
城への道は、だんだん上り坂になっている。いったいどこまで歩けばいいのやらと。
「ニーニャ、見てごらん、凄いよ」
先行したジオが、開けた丘の上から呼んだ。風景なんかよりもう休みたいー。
丘の上からは、海が、海峡が見えた。そしてお城が。
「ふえええ~。まるで空に浮かんでいるみたいだね~」
海峡城の名は伊達ではなかった。海峡の上にせり出した岬の上に城が建っているのだが、こっちから見ると、海の上に空、空の上に岩、岩の上に城というように見える。岬と陸地の接続点が城の向こう側にあって、霞んで見えないのでまるで宙に浮いているかのようだ。
「よく、お城落っこちないよね~」
素直に感動しているジオを見ると、ミモフタモナイことが言いたくなる。
「反対側でつながってるに決まってるでしょ!」
男女の役割が逆のような。
すると突如、雷鳴のような音が響き始めた。城が何かを落とし始めた。
海面では、黒い帆を張った小さな船が、巧みに水柱を避けながら、海峡を通過して行くところだった。
「あ、あれだ、あの船だ!」
遠近感がよくわからない。すっごく遠くに大きな帆船、ではなく、比較的近い所に小さな船があるのだろう。乗っている人間がすっごくでかく見えるので。
十発以上も雷鳴は轟いた。しかし、帆船には当たらなかった。見事、海峡を通過して行く。最後の一発を蜘蛛の糸の帆が、ぽよ~んと跳ね返していたのがご愛嬌だ。
「に、逃げられちゃったよジオ~」
「いや~、ヴィッキーに当たらなくてよかったね~」
そ、そうね、だったら、当たらなくてよかったわ。
ヴィッキーはしかし、これからどうなるのだろう。あの子なら、攫われたくせに海賊になってしまいそうだ。
見物しているうちに、背後から馬車の群れが上がってくるのがわかった。もう歩くのが嫌だった私は、止めるジオを振り切って、奥の手を出すことにした。あんたは隠れていなさい。
「止まって~ん。お兄さん。あっは~ん」
岩に片足を乗せて、体をのけぞらせ、胸元をはだける。イチコロよ!
しかし、馬車3台がそそくさと通過。漁師のおっちゃんを一発魅了した技が通じない。
なんというハズカシサ。成功してこそなのに。
「シュトッフレパリーレン!」
あ、ジオ、ダメ、その技は!はらはらと舞い散る、簡易下着だった布。ありがた迷惑!
「な、何をしているんだ、こんなところで、ニーニャ!!」
しかし、あわてて最後の馬車から降りてきたのは、薬師カスパルだった。
病弱なあんたがなんでこんなところにいるかとか、私はどうでもよかった。
これじゃ、旅の恥をかき捨てられず、親戚に見つかった放蕩娘だ。
こんな時は、バツが悪そうにしているしかない。
「話は馬車の中で聞くから、早く乗って!そこのでっかい人も!」
私たちは、強引にカスパルに引き込まれた。目的達成だが、乗りたくない。問い詰められたくない。
助けてー。




