24話 天空の海峡城 ディア
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質屋はまだ、俺が顧客であると認識しているようだ。金貨50枚を都合した。この国の通商同盟は自治都市の流れを組んで独立性が高い。軍事は騎士団、宗教は教会、政治は貴族。異教の地の征服のため手を組んだ奴らが今も分業制をしいている。
「我々は宗教や政治と表立って事を構えることはありませんが、盗賊退治を志される勇者ディアロゴス様を影ながら支援させていただくことぐらいはできるつもりです」
質屋の他に、同盟商人の若手が訪ねて来ていた。事の顛末は大体抑えているようだが、この俺を勇者扱いとは、ずいぶん持ち上げた物だ。ただし、経費は残高清算だそうだ。高額買取者のあてもついたようだ。金の切れ目までは俺との付き合いを続けたいらしい。
俺様は勘違いであろうがなんであろうが、寄ってくる奴はうまく使う主義だ。武器、装備、馬車、御者、食糧他の用意を頼んだ。再起するにしても他の町の方がいい。
表通りは衛兵や役人が嗅ぎ回っているようだが、奥まった商家まで捜査する権利が無い。多くの勢力が暗躍するこの国らしく、やってるふりをした後は平常に戻るだろう。
優雅に食事をすませ、身だしなみを整え、若手商人が何か情報を拾って来るのを待った。
「珍事です。桟橋に魔法の船が出現。蜘蛛の巣のような黒い帆を張って出航。船長は顔が割れています。ジャック・スパイダー。最近この界隈をうろうろしている雇われ船長ですが、どうも海賊のようですね。」
「昨夜の襲撃に、蜘蛛の技を使う奴がいたが。海に逃げ出したのか」
しれっと聞いたが、俺が勝てなかった相手だ。何故俺を放置したのか。どんな状況の変化が昨夜あったのか。
「ただし補給不足で出航したようで、洋上でヤミ補給待ちをしていますね」
「そんな奴にも補給してやるのか」
「通商同盟と言えども、全ての闇業者を統括しているわけでは。情報くらいは取れますがね」
奪いたい有用スキルではあるが、ますます洋上は奴の天下だろう。
俺は道草を食うことなく、ヘルキュンストラーに勝つためのスキルを奪取したい。それを今持っているのは誰なのか。修道院にいるというクンストマイスターならば期待してもよかろう。そこに入り込むには紹介状を持つジオが近道であったが、袂を別ったままである。それに、今少し自分のスキルを整えなければ、クンストマイスターの隙はつけまい。
「修道院で教えを授かるには、どうすればいい」
「各地に戦技教官が赴任していましたが、彼らが有望な若手を推薦するシステムは近年機能しなくなっています。海賊の取り締まりは直接的な武技よりも、いかに洋上で接近するかが重要なため、今や海峡城司令官とも疎遠となり、マイスターは軽んじられ、修道院勢力は城内で孤立を深めていますね」
「ほう。ならばいくばくかの寄付で近づけるか」
「会うだけならば可能かと。司令官から食料供給を受けているため、人を増やすのは厳禁で、新規の弟子入りは絶望的です。今年も海峡城で門前払いされる入門希望者が出ていますね」
「この国の、武の総本山も今は昔か。」
「ほぼ哨戒艦と雷鎚で事が決しますので、城の主力が活躍した話は聞きませんね。修道院の主な役割が武術鍛錬ではなく、治療院・薬草園に変わりつつあります」
この男、物知りのようだ。一人の知識によりかかると怖いが、今は重宝だ。
「渡りがつけられるか。賊をぶちのめすにも技が足りん。仲間を増やす以前に自分の修行が必要だ。何、会えさえすれば後は、こっちのものだ」
「サフィーロ兄弟は残念でした。では、ディアロゴス様名義で海峡城補修に金貨10、薬草園拡充に金貨5の寄付申し込みをしておきますので、3日後以降ならば行けば入れるようにしておきます」
こいつ、使える。最初に名乗ったが、覚える気が無かったので思い出せない。べルなんとか。外国の都市の名前っぽいアレ。確かベルゲン。干し鱈が名物。
「よろしく頼む、ベルゲン君。御者は君との連絡役になれるかな」
「はい。私は普段この近くの貿易事務所におりますので。何なりと申し付けください」
親切に見えるが、俺の財産管理をこのベルゲンが代行することで、俺が死んだときに宙に浮く宝の権利を同盟は堂々と得る。生きていても、次々と商品を売り込める。
それにしても、金の力と商人の交渉力は絶大だ。細い糸をたぐらなくても良くなった。大体、紹介状を奪ったところで、そこにジオの固有名詞があれば改竄するか、俺がジオを名乗らねばならぬ。あんなアホを演じるのは胸糞悪い。
用意ができた。馬車に乗る。誰何されることも無く、他の商用馬車と共に街を出た。後は海峡城まで3日もかからず付く。どこかで1泊多く取ればいい。
商隊の馬車は5台。俺以外の4台が海峡城へ直行するようだ。すると、この4台にベルゲンの手の者がいて、そいつが寄付申し込みをするのか。なんだアホクサイ手間がいるものだ。
そして1台になった。手続きは完了しただろうか。室内も飽きたので御者の脇に座る。田舎道をごとごと馬車は登っていく。海峡城は標高が高いところにあると聞く。
「はじめてみる人は、みんなたまげますよ」
寡黙な御者が口を開いた。何をたまげるものか。お前の玉を蹴り上げてやろうか。
海峡城は、宙に浮いていた。




