十話 意図せぬ邪眼 ジオ
一夜明け、質屋との交渉はうまく行った。ほぼ、ディーの要求通り。違うのは、審査時間だ。宝物が王侯貴族の手配品でないという鑑定に時間がかかる。また、総評価額の算定に時間がかかる。暫定でも僕らの取り分は金貨500枚を下回らないということなので、一時金として200枚ならすぐ出せるとなった。昨日までの僕たちには、想像もつかない金額だ。そして宝箱はあと二つある。算定の続行を依頼して質屋を出た。
こんな財宝が、たった4人の盗賊で運び出されようとしていたなんて。襲撃をあまり警戒していなかった結果だろう。と、いうことは裏で話のついていた密輸なのだろうか。単に人手がないなら、一部の盗賊が反逆の末に持ち逃げを狙ったのか。僕が想像できるのはこの程度だ。
金が入ったら、衣服や装備の見直しだ。ディーは桟橋近くの商家に仕立て屋を呼びつけるそうだ。もちろん、宝箱からごっそりつかみどりした金貨銀貨を持っている。僕は、僕自身の装備を更新した。頑丈で折れない重厚な剣。紳士的服装。動きやすい皮鎧。傷つきやすい鎖骨を守る左肩パット。大盾買っておけと言われたけど、ウムシュラーゲンアングリフがある僕には、あまり要らないのでは?・・・自信過剰だ。人の忠告に耳を貸そう。
僕に合うサイズがあるかどうかは、要らぬ心配だった。この街は修道院がある海峡城の後方基地にあたり、屈強な大男用の装備が充実していた。だが、紳士服に関しては、栄転した司令官用の物だった。このあたりの人からは非常に尊敬を集めた人物らしい。服飾店の店主が言うには、仕立て中に慌ただしい栄転で納品できなくなったが、思い出の品として大切に取っておいたのだそうだ。そこへ僕が現れ、盗賊を退治した話を聞き、ぴんときた。名司令官とピッタリサイズの僕を、この服は待っていたのだとも。
なんとも光栄な話だ。新たな装備に身を固めた僕の姿見は、非常に立派に見えた。父親から徹底的にしごかれたため、直立不動には自信がある。後は、外見にふさわしい中身を磨くことだ。
「料理ではありませんが、最後の一つまみの魔法をかけましょう。シュトッフレパリーレン!」
特に何も効果が無いように思えたが、もう一度見た姿見では、小ざっぱりした感じに仕上がっていた。武器をさすった手で汚してしまったシャツの汚れがなくなっている。これはすばらしい!僕の目が輝く!
「それ、どうやってやるの?」
「わ、私も服飾ギルドである程度の修行をいたしまして。何事も適材適所でございます。お客様には不向きなのでは・・・」
「いやー残念です。そんな素晴らしい技があれば、抜け出して遊んできても親に怒られることもなかったのに。シュトッフレパートリー、シュトーフレパートリー?」
「シュトッフレパリーレン!・・・でございます」
「シュトッフレパリーレン!シュトッフレパリーレン!あれ、目にゴミが」
もう、いいところなのに。顔でも洗いに行こう。それにしてもいいスキルだ。
シュトッフレパリーレン!シュトッフレパリーレン!心で何度も唱える。店主への最後の挨拶もこれでいこう。
「では、シュトッフレパリーレン!!」
左目のゴミが文字に見える。「シュトッフレパリーレン」に見えたが錯覚か。次の瞬間にはとれていた。シュトッフレパリーレンの効果で取れたんだったりして。
(ふう、疲れる客だった・・・)
聞こえてますよ、店主殿。僕は意気揚々と店を出た。




