7 . 暗雲
「やはり思った通りか。いいか......殺すんだ。確実に息の根を止めるんだ。失敗は許さないぞ」
"………………"
少しだけ開いたカーテンの隙間から差し込んだ薄暗い光。
時間は朝5時。これから始まるトレーニングのことを考え、憂鬱な気持ちになったキットはため息をつき、大きく欠伸をする。
「おはよう。父さん」
「あぁおはよう。支度ができたら行くぞ」
「うん」
寝巻き姿のまま顔を洗い、歯を磨く。昨日と全く変わらない。いや、もう何年も前から変わらない朝のルーティンだ。笑えてくる。
もっと寝ていたいと何度思ったことか。
「朝じゃなくて夜でいいのに」
思わず口からこぼれた本音に、周囲を見渡す。
よかったー。聞かれてない。
「よし」
自身の類を2回叩き気合いを入れる。
「お待たせ」
「よし、行こうか」
冬のこの時期、この時間はまだ薄暗い。普段のアンス村とはかけ離れた静かな時間はとても不思議で、まるで別の世界にいるようだった。
しばらく歩いていると.......
「ん?」
見覚えのある顔が…
「あれ?ユイさん!珍しいですね。こんな時間に」
僕たちがこの村にきてからというもの、僕たちの面倒を見てくれている人。
彼女のことを詳しく話していなかったが、彼女は一人暮らしでずっと独り身らしい。
年齢は父さんと同じくらいか、少し年下だと思う。
なかなか女性に年齢は聞きづらくて、あくまで僕の想像でしかない。
それと僕が思うに、彼女.....ユイさんは父さんのことが好きだと思う。恋愛的な意味で。
父さんは好意に気づいていないというよりは、わかっていながらうまくかわしている。
と僕の目には映っている。
「ああ急なんだけど、私この村を出ることになってね」
「え!?なんでですか?この間久しぶりに3人でご飯をって約束したばかりじゃないですか!」
「.....ごめんね、キットくん。何か嫌なことが起きるような気がするのよ」
「嫌なこと?」
「結構前からね、うまく言葉にできないけど、なんか......なんか.....感じるの」
「そう......ですか」
「なんでもないと思うんだけど.....。私もいい歳だし、動けるうちに新しい場所で生活するのも悪くないかもしれないって思ってね」
寂しい。素直にそう思った。
でもユイさんの決断に僕が口を出すことはできない。
3人で過ごした日々はものすごく楽しいものだった。
「元気で」
そう言った僕に、ユイさんは微笑みながら頷いた。
思い込みだと思う。そう思った僕は、苦笑いを浮かべていた父親が、一瞬何か覚悟したような真剣な眼差しをしていたことに気付くことはなかった。




