3 . 異変
ここで暮らし始めて数日が経った頃、父さんが思い悩んだ様子で研究室から出てくる様子を僕は何度も見ていた。父さんは家には帰らず、僕と共に生活を送ってくれていたから、思い詰めた顔をする父さんをこの頃の僕は幾度となく見ていた。
”あの人”と呼ばれる人に何度も呼び出されては口論を繰り返し、この頃の研究所には重苦しい空気が流れていた。
僕は”あの人”と呼ばれる人を一度も見ることはなかった。おそらく1番偉い人だったのだろう。
父さんと”あの人"が口論を繰り返していたとある日の夜、父さんが僕の個室に一度も顔を出さない日があった。
そして次の日、事故が起こったのだ。
時計の針は午後8時を指している。
研究所は静まり返り、時計の針の音だけが鳴り響き、僕はすでに夢の中だった。
「.....ット.....キット。聞こえるか。今からこの場所を出るぞ」
父さんは小声で僕にそう言った。
「.....?なんで?」
「ここは危険だ。すぐに逃げよう」
僕は困惑しながらも、焦った顔をした父さんに必死について行く。
そのおよそ4分後、奥の方からすさまじい爆発音が響く。
---ドカーーン---
「.....!!!」
「何?今の音?」
「いいからはやく行くんだ」
爆発があった283番室を皮切りに、炎があたり一面を覆う。
研究に使われていた機材が激しい炎に包まれていく様子を僕は唖然と見ていた。
しかしその数秒後、僕の意識は途切れ、次に目が覚めたときには研究所は跡形もなくなっていた。
父さんが神妙な面持ちで声をかける。
「.....!大丈夫か!体におかしな所はないか!声は出るか!……っ」
「だいじょうぶ。何が起きたの?」
「爆発したんだ。見ての通り、研究所は丸焦げだ。いいかキット、俺たちは死んだんだ。ここから離れて新しい暮らしを手に入れよう。俺が責任を持って必ず一人前に育てる」
せきにん…?
「わかった」
そう口にしたが、この時僕が口を挟む隙は一ミリもなかった。
父さんはこの爆発を不慮の事故だと何度も言ったけれど、爆発前日の不審な動きが気になっていた僕は、これが単なる事故だとは思えず、子供ながらに不思議で仕方がなかった。




