2 . 恐怖
父さんと出会ってから、僕はしばらく研究所で生活を送っていた。
そして、父さんは研究所で毎日とても忙しそうにしていた。
「東雲さん、こっちも確認いいですか?」
「こっちもです」
「ちょっと待ってくれ。順番に見ていく」
この頃の僕には難しい機械がたくさんある場所、体に悪そうなものがたくさんある場所という認識だった。
僕には父さんたちが何を研究して何を成し遂げたいのか、そんな事にはあまり興味がなかったし、僕が見る限りこの研究所に出入りしている人間は3人で、そこまで大規模な研究をしているようにはとても見えなかった。
それにここで働く人たちは僕を蔑んだような目で見ていたし、この場にいることを歓迎されていなかったと思う。それでも父さんだけは僕をとても大事に扱ってくれていたし、それがこの頃の僕の唯一の救いだった。
「ごめんな。退屈してないか?」
「うん。大丈夫。おいしいご飯が食べられるから平気だよ」
「はは!そうか。そりゃよかった」
「ねえ、おじさん、僕さ外に出てみ.....」
「東雲さん、あの人が呼んでます。早く行ったほうがいいかも」
僕が言いかけた言葉を遮って、焦った声の職員が父さんに話しかける。
「わかった。ごめんな、少年。ちょっと待ってて」
慌てた様子で向かった父さんを僕はしばらく見つめていた。
この時はまだ少年、おじさんと呼ぶだけで、お互いの名前すら知らなかった。
「お待たせ」
およそ1時間が経った頃、そう言いながら父さんは僕の隣に腰掛けた。
「おじさんまだ名前教えてなかったな。俺は東雲広ってんだ。君は?」
「僕はキットって言うんだ。ねぇここから外には出られないの?」
「外には出ないほうがいい。中は安全......とも言えないが、外には出ないほうがいい」
「そっか。わかった」
この時の父さんの口調はとても怖いものだった。
研究所で過ごすようになってからおよそ1ヶ月が経った頃、僕にこの場所を探索してみたいと言う興味が出てきた。
僕がいたのは大人2人が入れるくらいの個室で、研究所自体はものすごく広い場所だった。その個室から見える機械には決して触れるなと言われていたが、触れるなと言われたら子供の僕は触れてみたくなってしまうのだ。
静かに部屋を抜け出し、左右を見渡す。水がたくさん入ったポンプのようなものに、線がたくさん繋がった柱のようなもの。全てが僕の好奇心に火をつけた。
部屋から出て左側にしばらく進むと、その奥に少しだけ扉が開いている部屋が見えた。
「36番室」
そう呟き、誰もいないことを確認し静かにその部屋に入る。するとそこには僕よりも年上、大人とも言えないが、子供でもない。そんな男の人が、水が溜まったポンプに閉じ込められていた。
唖然と立ち尽くす僕に、後ろから怒号が響く。
「おい!キット!勝手に出歩くなと言っただろう!」
「.....ご、ごめんなさい」
この時の父さんの表情を目の当たりにした僕は、見てはいけないものを見てしまったと直感した。
毎日同じ部屋で、毎日似たような食事を摂る。部屋から出られない生活が続き、ここでの生活に慣れ始めた頃、とある事故が原因で、この場所で暮らすことが困難になってしまうのだった。




