21 . 僕が育った思い出の場所
「はあ」
リタの「キットもいくのよ」の一言で僕もリタが生まれ育ったサイレント村へ行くことになってしまった。
本当に予想外のことになった。考えてもいなかった。この村から出るなんて。
そんな僕の気持ちなんて気にも止めずに、リタはもう準備に取り掛かっている。
「ねえ、村ってどんなところ?簡単にでいいから少し教えてよ。初めていく場所だしさ」
「んー。難しい。うまく説明できない。それに行けばわかる」
空いた口が塞がりません。助けて。まあこれがリタなんだけど。
とりあえず準備するか。何を持っていけばいいんだ?確かそんなに生活には困らないみたいなこと言っていた気がするし、服だけでいいかな?
「せめて何日くらいでいけるかだけ教えてくれない?...あ!やっぱいい。大丈夫」
「...?ふーん」
聞いても無駄だった。リタと初めて会った時、迷ったとか言ってたのを思い出した。多分リタ自身が何日でいけるかなんてわかってない。またややこしくなるところだった。危ない危ない。
「リタのご両親にはちゃんと僕のこと伝えてあるんだよね?」
「うん。偶然立ち寄った村で会った人の家に住まわせてもらってるって書いておいた。だから大丈夫」
「そ、そう。ならいいんだけど」
「よしっ!明日の朝には出よう」
「はあ?」
「無理?」
「無理でしょ!僕の周り見てよ。準備できてると思う?」
「...じゃあ明日の夜ね」
「わかったよ。間に合わせる」
そう言いながら僕は父さんの部屋へと向かった。
部屋のベッドに腰掛け、辺りを見渡す。
「この写真、持っていこうかな」
懐かしい。大人になってから写真なんて撮らなかったもんな。この場所で撮った幼い僕と父さんの写真。
「意外と寂しいな」
写真を眺めていたら、ふとそう思った。
僕はこの場所、この村しか知らない。思い出がたくさん詰まったこの村を離れるのはやっぱり寂しい。
明日の朝、おっさんにも挨拶しに行こう。お世話になったし。寂しがるかな、おっさん。
「ふぅ」
よし、仕切り直して準備を進めよう。
「おはよう」
「ああ、リタ。おはよ。今日はいつもより遅いね?僕は先に食べたからゆっくり食べてて」
「うん。ありがとう」
「僕は最後にこの村を一通り見てくるよ。挨拶したい人もいるしさ」
「わかった。気をつけて~」
リタと会話を交わし、家を出る。
いい天気だ。次はいつ帰ってくるかわからないし、満喫しよう。
「おっさん!」
「おー!キットじゃないか。肉買いに来たか?」
「今日は違うんだ。話しておきたいことがあってさ」
「なんだ?」
少しだけおっさんの顔が曇る。
「僕、今日この村を出るんだ。だから礼を言いにきた。このお店が一番お世話になったからさ」
「……そ、そうか..寂しくなるな。でも親父さんは残るんだろ?最近見かけないけどそれを楽しみにするよ」
そうだ、おっさんには父さんはしばらく顔を出せないって言ってあるんだった。
「..…そ、そうだね。父さんにも言っとくよ」
「じゃ、またな」
「うん。またね」
おっさんは僕が見えなくなるまでずっと手を振ってくれていた。
父さんが亡くなったこと言った方が良かったかな?最後に悪いことしちゃったな。そう思いながら歩いていると…
「うわー!懐かしい」
こんなところもあったな。大人になればなるほど冒険しなくなる。子供の頃は全部が輝いて見えて走り回ってたのにな。懐かしい。
どの記憶にも僕の隣には父さんがいて、笑ってて、楽しそうで、幸せそうだった。この記憶は一生忘れることはないんだろうな。
「さすがにあれを演じてたなんてことないよな…?うん。絶対ない。父さんとトレーニングしてた場所に寄って、そろそろ帰るか」
「ただいま」
「ん、おかえり」
「あれ?どっか行ってたの?なんか汚れてない?」
「船探してた」
「船?」
「そう、ここにきた時乗ってたやつ。あれがなきゃ帰れないから確認してきた」
「あ、そう。で..あったんだよね?」
「あった。でもなんかボロボロになってた」
え。それ辿り着けるの?
「大丈夫。何とかなる」
「ならいいんだけど」
「夕食の準備するよ。行くのは食べた後でいいよね?」
「うん。いいよ」
「じゃあ簡単なもので済ませちゃおう。待ってて」
この家で料理するのも一旦今日が最後だからな。綺麗にしておこう。
「お待たせー」
「美味しそうだね」
「さあ食べよう」
「「いただきます」」
「リタ、荷物はあれだけ?」
「そうだよ、住んでた場所に帰るんだし、そんなに荷物なくても平気」
「それもそうだね」
「キットだって少ないじゃん」
「男の荷物なんてそんなもんじゃないか?書類も持っていこうかと思ったけど、重要なものはやっぱり全部処分したみたいだし、何も情報は得られなかったしね」
「そっか。ほんと無駄な時間だったね」
そんなはっきり言わなくてもよくない?確かに僕もそう思ったけどさ..。
「食べ終わったらゆっくりしてる時間はない。すぐに行くよ」
「はい。わかりました」
嫌々ついていくことになってしまった僕だけど、新境地に足を踏み入れることに少しばかりワクワクしていた。




