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19/22

19 . 黙考

 「え?!紫色の瞳に見覚えがあった?なんでそれ今言うのよ!言うタイミング今までたくさんあったでしょ?」

 「いや、ごめん。リタにその話を聞いたろ?その時は正直偶然なんじゃないかってずっと思ってたんだ」


 あ、そんなに睨まないで。怖いから。正直に思ったことを言っただけだからさ。


 「で、そう思いながらもなんかずっと引っかかっててさ。それで今急に思い出したんだ」

 「だから、それ何なの?早く言ってよ」

 「わかった、わかった。父さんが亡くなったって言ったろ?実はさ、病気とか事故じゃなくて、殺されたんだ」

 「……!」

 「その理由は今の僕にはわからないけど、いつか突き止めたいって思ってる。僕もその場にいたんだ。父さんの目の前に。で!その、父さんを殺した奴!今思えば瞳の色が紫だったなって思って。目が合ったから確かだと思う」

 「...........」

 「聞いてる?」

 「え?うん。聞いてる、聞いてる。なんかごめん」

 「え?」

 「いや、嫌なこと思い出させちゃったかなって思ってさ。殺されたなんて初めて聞いたし」


 少し泣きそうな、申し訳なさそうな顔。僕の言葉を待っている。そんな顔するんだ。


 「そんなことないよ。僕も引っかかっていたことがわかって、スッキリしたんだ。だから気にすることないよ」

 「そう?なら......いいんだけど」

 「あの時、僕は立ち尽くすことしかできなかったし、自分の無力さを痛感した。父さんのことを悪く言った自分も、救えなかった自分も、とにかく嫌だった。この先、僕はどう生きればいいんだろうって思った」

 「……そっか。ありがとうね。話してくれて」

 「それにあの時の記憶すごく曖昧なんだ」

 「.....」

 「リタ?」

 「でもさ……でも、そう思った割に、全然やる気ないよね?」

 「え?何が?」

 「強くなりたいって意思を感じない。強くなりたいって思ったんじゃないの?私ならそう思う。そのためには自分を追い込むよ。キットはさ、どっかで自分は強いとか、なんとかなるとか思ってるんじゃないの?だから笑っていられる。自分の力を過信してない?もう子供じゃないんだよ?自分の描いた通りにとか、何もしなくてもいつかはとか、今じゃない。とかさ。私もキットも、描いた通りには進めないことはさ、大人になって知ったでしょ?知っちゃったでしょ?自分は無力だってわかったなら、思ったなら、今を大切にして、もう2度と同じ後悔をしないために次に繋げようよ!」

 「...........」


 リタに圧倒された。この時、僕は何も言い返すことができなかった。たしかにそうだ。あの時から何も変わっちゃいない。リタは何も間違ってない。正論だ。




 「そろそろ戻ろう」

 「そ、そうだね」

 「なんか空気悪くした。ごめん」

 「いや、リタの言うことが正しい。気にしないで」

 「.....」



 「ぼ、僕は食材買いに行ってきてもいいかな?結構使っちゃって食材がないんだ。リタはそのまま戻ってて」

 「うん。わかった」

 「何か食べたいものある?」

 「にく」

 「あぁ、わかったよ」


 一旦リタと別れ、毎日のように通っていた肉屋まで足を運ぶことにした。少し頭を冷やしつつ考えよう。


 「なぞだな」


 今思えば、何であの時の記憶が曖味なんだろう?父さんが血を流す姿も、殺した奴の風貌も、何もできなかった自分の無力さを感じたことも覚えているのに。

 何でその後の記憶が綺麗に抜け落ちてるんだろう?気付いたら奴は倒れてたし、気付いたら消えてたし。何かすごく疲れてたし。改めて考えると、わからないことだらけだな。


 「.....ット」


 なんか僕の体おかしいのかな?いや、ただ頭に血が上ったから曖昧になってるだけなのか?んー。多分そうだな。



 「強くなりたいって思ったんじゃないの?今を大切にして、後悔しないように次に繋げようよ」


 さっきのリタの言葉が脳内に響く。


 「今を大切に……か」


 ほんとそうだよな。

たしかに強くなりたい。強くならなきゃいけない。そう思ったのはたしかだ。なのに言い訳だけを並べて、嫌なこと、苦しいことからずっと逃げてるだけだ。楽をしたいとか、誰かが助けてくれるとか、守ってくれるとか。そう思ってるからダメなんだ。自分じゃない誰かを頼りすぎている。もっと自分自身と向き合わないといけないんだ。


 「.....ット!」


 僕はダメダメだな。


 「キット!!」

 「ん?」

 「なんか考え事か?」

 「あぁ、おっさん!」


 危ない、危ない。考えてたら店の前通り過ぎるところだった。


 「呼んだのに全然反応しないからよ」

 「ごめん、ごめん。ちょっと考え事してた。そうそう肉を買いに来たんだ」

 「おお、そうか!」

 「ん?」

 「いや、ちょっとは元気になったみたいで良かったなと思ってさ」

 「うん。ありがとうね」

 「そういやキット。お前、女ができたか?」

 「はあ?」

 「なんだ違うのか?見知らぬ女性と歩いてるのを見かけたもんだから、てっきり」

 「違うよ!違う!誤解だから!ほんとに!気にしないで!」

 「そんなに慌ててるってことは当たったか?」

 「いや、ほんとに違う!」

 「ははっ!そうかそうか!はいこれ持ってきな」

 「あぁ、ありがとう」


 変な誤解されるところだった。危ない。おっさん変な噂広めたりしてないよな?

 でも、ちょっとは元気になった......か。そう見えるのか。リタがいるおかげかな。

 何考えてるかわからないし、イライラすることもたくさんある。でも、リタがいてくれるから笑える。刺激もくれる。時には叱ってくれる。ありがたいよな。ほんと。



 「さあ、リタが待つ家に帰ろう」

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