10 . 悲涙
キットの体に異変が起こった。
ひどく疲弊し、そのまま気絶してしまったキット。
目を覚ましたキットは夢であってほしいと願うものの、倒れた父親の姿を見て、現実に引き戻される。
父親がいない生活、自分はこれからどうやって生きていくのが正解なのか?父親の存在がいかに自分の中で大きかったのか。キットはそれを思い知っていた。
勢いよく起き上がる。
「っは!......あのまま気絶してたのか......いてて」
目を覚ますと、すでに辺りは暗く日が沈んでいた。かなり長い時間意識を失っていたようだった。そして、立ち上がることさえできないほど疲弊していた体は、まるで嘘だったかのようにすんなりと動かすことができていた。
「なんだったんだ?っ.....傷は残ったままだ......ん?死体が消えてる…。なんでだ? っゆめ............じゃ......ないよな」
息をしていない父さんの姿を見て一気に現実に引き戻される。
「くそ!こんな最期があるかよ......。父さん、僕はこれからどうしたらいい?だれを頼ればいい?あんなこと言ってごめん。こんなはずじゃなかった.....ごめん、ごめん、ごめん」
最期がこんなに早く訪れるなんて思わないよ。もう声も聞けないなんて、悪い冗談だよね…。
この現実から目を逸らしたい。夢であってくれ。僕は奥歯をグッと噛み締め、夢という言葉に逃げた。
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冷え切った廊下。僕の呼吸、時計の音、風の音、普段なら気にも留めない音がやけにこの家に響いていた。
「この家、こんなに広かったけ」
僕の独り言が宙にまう。1人で住むにはあまりにも広すぎるし、1人で食べるご飯はあまりにもまずい。父さんの「おはよう」「ただいま」「おかえり」を聞くことはもうできない、静まり返ったこの家にいるとそれをひどく痛感する。
「キット、ご飯できたぞ。早くこいよ」
「あー!父さんまた指切ったの?そんなに無理しなくても僕は村で売ってるお弁当でいいのに」
「バカ言え!金ばっかなくなるだろう?キットが美味しいって食べる姿を想像するだけで頑張れるんだ。まずくないだろ?」
「うん。まずくはない.....よ」
「ははっ!美味しいとは言わないんだな~。もっと頑張らないとだな!ユイさんにも時間作ってもらってるわけだし」
「つ.....つぎは僕も手伝うよ」
「お!頼もしいな」
「でしょ?」
フライパンを振るう父さんの姿を見るのが、実は僕の密かな楽しみだったんだよな。伝えておけばよかったな。「そうなのか?」って嬉しそうに笑って張り切る父さんの姿が目に浮かぶ。
2人で笑い合っていた日々がまるで昨日のことのように蘇ってくる。何気ない日常があんなに幸せだったのに、こんな簡単に奪われてしまうのか、もっと感謝を伝えればよかったとか、なんで最期にあんなこと言っちゃったんだろうってそんなことばっかり思う日々。
今更後悔しても遅い。そんなことは僕が一番わかっているはずなんだ。
「部屋、整理しないとな」
そう呟いて椅子から立ち上がり、大きく伸びをする。
父さんがいないこれからの人生を僕はどう生きよう?
どう生きるのが正解なんだろう?この問いの答えを出すことは、今の僕には難しすぎる。
この胸の痛みが、永遠に続くような気がした。
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