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後日、レッド・ロケット・ダイナーでの立てこもり事件の顛末について、ニュースペーパーの隅に小さく記載があったという。犯人は店員を人質に、当時店内にいた客を全員殺すと脅迫。しかし、犯人が事前に設置していた爆弾は回路不良により不発に終わり、その隙を見逃さなかったポリスの突入により一連の事件は終幕した、と。
「……つまり、僕が人質に取られている間に、裏で爆弾を解体していた、ってことですか!?」
「違えよ。解体したのは私じゃねえ。ミドルの改造野郎だ」
「誰ですか、それ……」
「別に知らなくたっていいだろ? 死人は出なかった。犯人も無事お縄にかかってる。店の損傷も、銃痕三つ分だけ。何一つ問題はねえじゃねえか」
「問題はなくても、謎はありますって!」
「んなら、そいつは自分で確かめるんだな。腐っても探偵、だろ?」
「ぐうの音も出ないですね……」
くあ、とジムは大きく口を開いて欠伸をした。ジムは気紛れにきちんと種明かしをしてくれるのだが、今回の件に関しては、本当にこれ以上教える気はないらしい。聞きたいことは山ほどあったのだが、ジムの言葉にしては珍しく正論で、リオードは口を閉ざした。
どうしてジムはこの事件が起こることを知っていたのか。「改造野郎」とは一体誰なのか。どうして変装が出来るのか。きっと他にもリオードの知らないことが裏で様々起きていたに違いないのだが、今更それを確かめる術もない。できることといえば、今持っている情報から考え、推測することだけである。
「おーい、リオード。来客だよ」
「え? ……はい、行きます!」
グレイに呼ばれて玄関まで駆けよれば、見覚えのある赤いストライプの制服が目に入った。
「ルビーさん!」
「リオードくん、おつかれ~! ちょっと近くまで配達に来てたから、ついでに今回の件のお詫びをと思ってね!」
快活なルビーの笑顔は相変わらずで、きゅぴん、と飛ばされたウインクには、少しの懐かしさすら覚えた。それだけ、リオード自身にとってもあの三日間の職場は思い出深いものだったということだろう。
「お詫びなんてそんな……!」
「遠慮しなくていいから~! はい、これ。良かったら皆さんで食べて!」
ルビーはそう言うと、リオードの両手にがさりと紙袋を乗せた。その重さに、思わずよろける。このサイズの袋だと……と、働いていた時の癖で中に入っているものの量を瞬時に考えてしまい、ぎょっと驚いた。
「えっ!? こんなに……!?」
「若い人がいるって聞いたからさ。みんな食べ盛りでしょ~? たーんとお食べ!」
「すみません……」
リオードが申し訳なさそうにそれを受けとろうとしたとき、頬に何かが当たった。目線を挙げると、ルビーが人差し指で両頬を挟むようにつついていた。きょとん、と瞬きをひとつしたリオードに、ルビーは笑いかける。
「お店で伝えたでしょ? 『すみません』より、笑顔の『ありがとう』だって! ……もう忘れちゃった?」
「……ありがとうございますっ!」
「それでよし!」
ルビーは満足そうに口角を持ち上げると、四角い鞄を背負い直した。今日も今日とて、レッド・ロケット・ダイナーは大忙しなのだろう。くるりと背を向け、「じゃ」と手を振る。
「リオードくんも、困ったらいつでもうちに来て働いてくれていいからね~!」
「おっと、勧誘は困りますよ? うちの事務所で大事に育ててるところなんだから」
グレイがぽんぽん、とリオードのふわふわの癖毛を撫でたのを見て、ルビーは「冗談ですよ~」と笑った。
「今度はうちの店にもいらしてください! サービスしますから~!」
別れが惜しいのか、首だけ振り返っていたのが、いつの間にか後ろ歩きになり、小走りの横歩きになって、やっと前を向き直して進んで行った。そんなルビーのちょっぴりおかしな挙動を見つめて、リオードは思わず笑みをこぼしながら、その曲がり角の先に消えるまで、彼女の背中を見送ったのだった。




