もう一品!こってりチーズケーキ…… B$4.75
そんなとき、冷たく新鮮な風が額を撫でた。店は臨時休業、客は来ないはずだが、と思って入口の方を見やれば、そこにはのっそりと見覚えのある人影が揺れていた。
「グレイさん!」
「よう、リオード。無事かい?」
「はい、なんとか……」
「ミス・ヤジマから聞いたよ。しかし、まあ、ピンポイントで人質にとられるなんてなあ」
「は、はは……本当に……」
「ま、お疲れ」
グレイは軽く笑いながら、リオードの肩を叩いた。事務所の代表らしい、堂々かつゆるぎない態度、つまりこれが通常運転である。それでも、わざわざここまで出向いて迎えに来てくれたことは、彼なりの優しさなのだろう。
臨時休業の決定に伴い、ルビーからは既に退勤のお達しが出ているので、いざ帰ろう、とリオードは幾分かすっきりした気持ちでグレイの顔を見上げた。しかし、グレイは何故か不思議そうに顎を捻っていた。
「グレイさん、どうかしましたか?」
リオードの言葉に返事もせず、グレイは太い指を持ち上げる。
「なあ、そこで何してるんだ? ジム」
その人差し指は、レックスをさしていた。グレイは、初対面のはずのレックスを見て、「ジム」と呼んだのだ。
リオードが驚き叫ぶより先に、柄の悪い舌打ちの音が飛んだ。これには、確かに、聞き覚えがある。ぎぎぎ、と音が鳴りそうなほどぎこちなく首を動かせば、レックス……として過ごしていた人物は、グレイのことを不機嫌そうに見つめていた。
「おい、私はずらかるぞ」
最後の温情なのか、レックス、もといジムはヘイゼルのことを肘で小突き、そう言い放った。そして、「へっ!? ちょっ……!?」と慌てる様子のヘイゼルには目もくれず、セットされた赤髪が崩れるのもお構いなしに全速力で走り出した。それを追うように、ヘイゼルも三歩遅れて店を飛び出して行く。
残された三人の生徒は、ぽかんと口を半開きにしたまま止まっている。そしてもう一人、リオードも、何度も目を開いたり閉じたりして、明らかに混乱している様子である。
グレイは頭の後ろをがしがしとかき、中途半端に結ってあった茶髪を揺らした。
「あーあ。こりゃポリス様にまた何を言われるか……」
「えっ!? ど、どういうことですか……!? レックスくんが、ジムさん……!?」
「ん? ああ、そうなるね」
グレイはさも当然のようにそう言った。あの数秒で、何をどうしたらその事実を見抜けるのか、リオードには訳が分からなかった。
「一応三日間一緒に過ごしていたわけだろ? 気づかなかったのかい?」
「…………はい。お恥ずかしながら、全く……」
「ははは。ま、今後の成長に期待だな」
「精進します……」
しょぼん、と首を垂れるリオードの肩を、グレイは再び優しく叩いたのだった。




