石じじいの話・カーブにでる幽霊
石じじいの話です。
これは、よくある車の怪談話のようです。
じじいが八千円で車を手に入れて、機動力を得たときの話です。
ある山道のカーブに幽霊がでるという噂がありました。
人が言うには、梅雨時の夜にでるから気をつけろ!と。
ちょうど梅雨時の夜に、その山道を走っていた、じじいは、その怪談話を思い出して嫌な気持ちになっていました。
真っ暗な山道を、おそるおそる走っていたいると、案の定いたのです。
その「幽霊」が。
幽霊は、路肩に立っています。
このまま進むと、道幅が狭いので運転席が、その幽霊のぎりぎり横を通ることになります。
これは怖い。
しかし、じじいは、幽霊を無視できませんでした。
車幅を見ないと、幽霊を轢いてしまうからです。
幽霊を見ないわけには行かないのです。
ヘッドライトのなかで、よく見ると、幽霊は、黄色の雨合羽を着た中学生くらいの女の子でした。
じじいの車に気がついた彼女は、こちらを向きました。
たしかに、女の子です。
じじいは、ヘッドライトを点滅させて合図を送りました。
すると、その女の子の幽霊は、じじいにむかって片手をあげて元気よく振ったのです。
どうも、幽霊のようにはみえない。
じじいは、おそるおそる窓ガラスをおろして話しかけてみました。
「夜に、こがいなところ、ひとりで歩いて、危ないな。
乗せていってやろうか?」
少女は、表情を変えず、答えました。
「うれしい。まだ長いこと歩かんといけんかったんで、こまっとったんです。」
「たすかった。」
じじいは、彼女を助手席に乗せて、いろいろと尋ねました。
「どうして、雨の夜に、こがいな山道を歩いとるんかな?」:じじい。
「あのカーブで幽霊が出るという噂があるの知ってる?」:少女
少女は、かたい表情をくずして明るい声で答えました。
そのとき、彼女の言葉使いが「標準語」に変わっていました。
「知っとるで。
それで、おっちゃんもこわごわ走っとたんやが、あんたがおったんで、こしぬけよったで。」:じじい。
「ははは、噂はほんとうだったのね(笑)。」:少女
「あのカーブで幽霊を見た人が、たくさんいるんだけど、私は一度も見たことがないの。
通学のときに、毎日あそこを通るし、幽霊が見たいから、よく夜にいってみるの。
幽霊は夜じゃないと出ないでしょう。」:少女
じじいは、これは度胸のある女の子だと思って、彼女の家の前まで送ってやりました。
彼女の家庭を見たかったのです。
少女は、裕福な家の娘でした。
じじいを招き入れて、菓子とお茶を出してくれた、少女の母親が説明しました。
「うちの娘は、もの好きで、幽霊を見るのだといって、よくあそこに行くんです。」
「でも、今まで幽霊を見ことはないんです。
危ないから行くなと注意するんですが。
変な人がいるとあぶないと。」:母親。*1
少女の家を出て、車を運転しながら、じじいは考えました。
今夜、彼女は、やっと幽霊に会えたのか?
それとも、わしが幽霊に会ったのか?
*1 「変な人」がいたら?
じじいのような?




